二つの意味で驚く。
レストルームに行こうかと席を立つと、手を握った人物がいる。
誰かと思ったら……。
「ジョーンズ公爵令嬢、レストルームですよね! 一緒に行きましょう!」
まさかのヒロイン、ソフィー!
これには二つの意味で驚く。
まず、レストルームにはひっそり行くのがこの世界のセオリー。前世のように、連れ立って行くことはない。さらに言えば、レストルームに行くのかと皆の前で指摘なんて、普通はしないもの。
前世からこの世界に来て、まだ感覚が以前のままなのか。ともかく男子もいる前で、ソフィーからレストルームに行くことを指摘され、大変驚く。
次は普通に。レストルームに一緒に行きたがったソフィーに驚いてしまった。
レイモンドの婚約者である私は邪魔者であり、排除したかったのではないの!?
だがソフィーは「行きましょう、ジョーンズ公爵令嬢」と、ニコニコと腕を絡めてくる。
何だか悪寒を感じながら店内を歩き出すと……。
「えっと、ジョーンズ公爵令嬢!」
「な、何でしょうか」
「郊外学習の前は、身を引こうとされましたよね」
「!?」
そこでレストルームに到着し、中に入ると、ソフィーは腕組みをして私を見る。
「分かっているんです。前世記憶持ちの転生者ですよね?」
これには声を出しそうになり、何とか呑み込む。
「異世界転移できてラッキー! しかも大好きな乙女ゲームの推しの攻略ルート! そう思ったのに! 最近、多いんですよね。ヒロインより前世記憶持ちの悪役令嬢が、ハッピーエンドになるパターン。どうやらこの世界もそうみたいで」
そこでソフィーはトンと私の肩を押す。
「悪役令嬢なんて、ヒロインが幸せになるための舞台装置に過ぎないんです。そんなキャラに転生したのは不運だと思います。でもこの世界は全力で私のハッピーエンドを待っているんです。悪役令嬢は潔く散ってください!」
言っていることは分かる。
でも私だって生きているのだ。
そんなに簡単に散ってください、だなんて……。
でもゲームをしている時。
バトル系のゲームでは、雑魚はもちろん、中ボス、周回で倒す敵に、同情なんてすることはなかった。
ヒロインもそんな感覚で悪役令嬢をみているのか。
「そもそも婚約破棄も断罪もされずに済むわけがないですからね。それは分かっているのでしょう? あなたのせいなのか、なんなのか知らないけれど、この世界、いろいろ想定外過ぎている! でも辻褄合わせができないで、済むわけがないんだから!」
そこで勝ち誇った顔になったソフィーは、ニタリと笑って告げる。
「これ以上、私の推しとベタベタするのはやめて。卒業式を待たずに婚約破棄と断罪の場を作るわよ? 私のこと、なめないで。まんまと悪役令嬢に攻略対象をさらわれるような、マヌケなヒロインじゃないから!」
これには呆気にとられて何も言えない。
昨今のヒロインは、随分強気になったのね……と思うばかりだ。
それに正直、私が断罪回避に奔走したのは、ヒロイン登場前の幼い頃。しかもそこではことごとく回避に失敗しているのだ。
以後はこの世界に逆らうことなく、レイモンドの婚約者として過ごしてきただけであり……。郊外学習の前に至っては、ヒロインであるソフィーとレイモンドのお膳立てをしていぐらいなのだ。邪魔をしているわけではなかった。そして郊外学習以降、レイモンドの溺愛が深まっているのは……私のせいなのだろうか?
「まったく。だんまりね。前世のことを話したら、何か起きるとでも思っているの? どうせ転生者や転移者でなければ、話したところで理解してもらえない。言っても言わなくても何も変わらないわよ!」
そこで一息つくと、ソフィーは人差し指を立て、私の鼻の近くまで持ってくると……。
「とにかくこれまでみたいに、身を引いてよ。ここは私のための世界なんだから。分かった?」
私がどう返事をするか迷っていたら、マダムが入って来た。するとソフィーはフイッと私に背を向け、レストルームを出て行ってしまう。
残された私は考える。
いちゃもんをつけられた感じはするが、ソフィーが言ったことは間違いではない。ここはレイモンドをヒロインであるソフィーが攻略するルート。悪役令嬢である私は排除されてなんぼ。婚約破棄も断罪もされないで済む……済むわけがない!
そうなるとソフィーの言う通り、身を引く必要は……あるのだろう。それにソフィーは恐ろしいことを言っていた。
――「卒業式を待たずに婚約破棄と断罪の場を作るわよ?」
そんなこと、できるのかと思うが、何か策があるのだろう。せめて策を講じるなら、婚約破棄だけにしてくれれば……。
断罪までセットじゃないと、ダメですか?
もうそれが本音だった。
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