見られていないと思ったら……
「もう本当に、本当に、大変だったんです〜! 王太子殿下の石鹸も羽根ペンもインクも、あっという間に売れちゃいました〜!」
ソフィーはレイモンドの提供した品が飛ぶように売れたこと。さらには自分がいかに頑張ったかを猛烈にアピール。でも確かに忙しかったし、頑張ったと思った。
それはレイモンドも分かったのだろう。
「なるほど。それは大変だったね。頑張ってくれて、ありがとう。それに僕の出品したもの。無事に売れて良かった」
そこでレイモンドはうっすらえくぼが浮かぶ笑顔になる。これにはソフィーが「よしっ!」とガッツポーズをしているのが分かる。
しかしその直後。
「リナも大変だったのでは!? 在庫補充だったよね? 疲れていない?」
そう私を気遣う言葉を口にしたのだ。しかも私の手に、そっと自身の手で触れながら。
「だ、大丈夫です。レイこそ、ずっとチラシ配り。声を出しながらで大変でしたよね」
「僕は平気だよ。チラシなんてたいした量じゃない。在庫の補充は常に店頭の様子を気にしていないといけないし、補充する品も多岐に渡っている。それに補充担当と販売担当の区別なんて、お客さんは分からない。きっと補充をしようと思ったら『ちょっとすみません』と声をかけられて、接客することになったのでは?」
これはまさにその通り。
声を掛けられた際、「それはあっちの人に聞いてください」なんて言えず。しかも接客を担当するメンバーも手一杯なのは一目瞭然。よって分かる範囲は対応していたのだ。
「お客さんに声を掛けられ、対応していると、補充作業ができなくなるよね。そこで『早く補充してよ!』なんて言われても困ってしまう。まあ、そんなことを言うメンバーはいなかったかな」
そう言ってレイモンドが深いえくぼを浮かべ、実に素敵な笑顔になる。
これを見たソフィーは視線が泳ぐ。
レイモンドは離れた場所でチラシを配っていた。よって見ていないはず。でもまるでその場にいたかのように指摘したのだ。
まさにソフィーは、私に補充を急ぐよう何度も怒鳴っていたわけで……。
壁に耳あり、障子に目あり、とはよく言ったもの。もしかすると護衛をしている近衛騎士からの報告を聞いたか、自身の明晰な頭脳で想像したのかもしれないが、ともかく。
ソフィーは非常にバツの悪い顔になっている。
多分、あの時は忙しくて、本当に焦って怒鳴ったのだと思うけれど……。人間、切羽詰まった時ほど、本質が出てしまう。普段、いくら可愛い子を気取っていても……怖〜い本性を、見られてないと思って出してしまうと……失敗するのだ、今回のヒロインのように。
「あっ、頼んだ品が登場だね」
レイモンドの声に、みんながやって来た給仕を見る。
護衛している近衛騎士により、毒味が完了したランチプレートが到着し、昼食がスタートした。
レイモンドはチラシ配りの様子を話してくれたが、それはまさに予想通り。配るより、「ください」と殺到する女性の対応に追われていた。
「僕が王太子であると気がついた人、気がついていない人。半々だったかな? まだ未成年だからね。公的な行事への参加も控え目にしているし、新聞にもあまり姿を出さないようにしているから……。『ハンサムな兄ちゃん、そのチラシ、頂戴よ!』って感じで声を掛けられたかな」
チラシは次々と王都民の手に渡り、彼らは時計塔広場にやって来てくれた。それがさっきまでの大混雑だったわけだ。
「午後はキルリル皇太子がチラシ配りで僕は接客だ。リナは……今度は清掃&交代要員だよね。花を扱っているから葉が落ちたり、お昼を経て、いろいろゴミが多い。それにレストルームに行くメンバーの交代だろう? 何かと落ち着かないかもしれないけど、引き続き頑張って」
レイモンドが再び私の手をぎゅっと握って、応援の言葉を掛けてくれる。
「マークは在庫補充か。品切れも出てくるから、少しは落ち着くかな?」
「そうですね。在庫補充は午前中がピークだったように思えます。殿下と皇太子の出品したものは売り切れましたからね」
「そうか。あとは家具とか、荷馬車を用意して、引き取りに来た人の対応とかかな」
そこでレイモンドはソフィーの視線に気がつき「ええっと、ベネット男爵令嬢は午後は……」と尋ねる。
「私は午後も販売です〜! 殿下と一緒です〜! 覚えていないんですかぁ〜」
通常、午前と午後で役割を変えるが、ソフィーはレイモンドが午後、接客を担当すると知り、引き続き午後も販売を担当したいと……要はわがままを言い、メアリー子爵令嬢に分担をかえてもらっていたのだ。本来は会計担当であったが。
そのメアリー子爵令嬢は、ソフィーと担当が変わることで、午前も午後も会計担当になる。何気にミスを許されない大変な役割を一日やるのは大変かと思うが……。
ソフィーに頼まれると、どうもメアリー子爵令嬢はノーと言えないようだ。
何はともあれ、午後に備え、レストルームにでも行こうかと思い、席を立つと。
私の手をぎゅっと握る人物がいる。
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