えええええっ!
メアリー子爵令嬢を連れ、戻って来たキルリル皇太子は、洋館で起きた思いがけない出来事について話しだした。
「洋館、見た目はわりと綺麗でしたよね。でも中は結構傷んでいたのです。雨漏りで床板が朽ちていた場所があった。レイモンド王太子殿下とベネット男爵令嬢は、その床板が外れた場所から地下に落ちてしまったのです。地下には地下室がありました」
「「「えええええっ!」」」
これには残っていた近衛騎士と私で盛大に驚く。
「落ちた二人はご無事なのですか!?」
青ざめた近衛騎士が、私より先に反応している。
「それが……ソフィー嬢の声は聞こえるのですが、殿下が……」
「なっ……」
メアリー子爵令嬢の言葉に、近衛騎士は完全に血の気の引いた白い顔になるが、それは私だって同じ。心臓がバクバクして体が震えてしまう。
まさか、レイモンドが……!
「皆さん、落ち着いてください」とキルリル皇太子が声をあげる。そして咎めるようにメアリー子爵令嬢を一瞥。彼女は視線を伏せる。
「地下へ落ちた時、レイモンド王太子殿下はベネット男爵令嬢を庇うようにされたそうです。もしかするとその際、頭をぶつけたのかもしれません。それで意識を失ったようです。ですが怪我はしていない。ベネット男爵令嬢が確認する限り、レイモンド王太子殿下は無事とのこと。ちょっとした擦り傷や切り傷はあるようですが、出血を伴うような怪我はしていない。呼吸もしているし、脈が乱れている様子もないとのことでした」
これには安堵するも、完全に安心はできない。外傷がなくても、内臓を痛めている可能性もある。
「隊長は殿下と男爵令嬢を救出するため、地下へ向かわれたのですね!?」
近衛騎士の確認に、キルリル皇太子が「それが……」と困った表情になる。私の心臓が再び嫌な鼓動を立ててしまう。
「地下へ続く階段は二か所ありました。一か所は階段の手前に扉があり、鍵がかかっています。しかも扉は鉄製。開けられません。もう一つは地下へ向かう階段の踊り場にチェストや本棚、テーブルに椅子などの家具が多数置かれており、すぐに地下へ向かうことができませんでした」
間髪を入れず、近衛騎士が反応する。
「隊長はロープを装備しているはずですが!」
「勿論、二人が落ちた場所からロープを下ろし、引き揚げることも考えましたが、その辺りの床板は不安定です。引き揚げている最中に、床が崩れる可能性もあります。さらに大勢がそこへ行けば、再度、床が抜けるかもしれません。よって家具をどけて地下を目指すか、鍵を壊すか。どちらが妥当であるか、近衛騎士隊長が確認してくれています」
「皇太子殿下、王太子殿下のお姿が見えないようですが、何かありましたか?」
男性教師の言葉に、その場にいた全員が固まる。だがもう隠すことはできないだろう。そこでキルリル皇太子が「実は……」と説明を始める。その間にも近衛騎士数名が洋館へ向かい、一部が残るのは、キルリル皇太子と私の護衛のためだ。だが正直、こんなところへ暗殺者なんて現れる気がしない。レイモンドを救うため、近衛騎士全員に現場へ向かって欲しい気持ちになっていた。
気持ちが焦っていると自覚できたので、大きく深呼吸をして、一旦周囲の緑に目をやる。その緑を見ていると、プライベートガーデンでレイモンドと過ごした時のことを思い出す。
記憶の中で、鳥のさえずりが聞こえ、気持ちのいい風を感じる。陽光が緑の木々から射し込み、芝生に寝そべるレイモンドのブロンドを輝かせていた。
「クライシス・マネジメント?」
「そう。有事や危機的な状況に冷静に対処すること。それが上に立つ者には求められる。もしもに備えた計画、冷静なリスクの評価、日頃の訓練、連絡体制の構築……そう言ったことを学ぶのが、クライシス・マネジメントなんだ」
「なるほど。それは王太子教育には必要なものね。勿論、そういう危機が起きないのが一番。ただ、たとえ戦争などではなくても、疫病や飢饉が起きた時に、そのクライシス・マネジメントで学んだことは役立つのね」
私の言葉に、レイモンドはアクア色の瞳を輝かせた。
肘をつき頭を支えるようにして私の方を向くと、伸ばした指で私の頬へ優しく触れる。
「まさにリナの言う通りだよ。クライシス・マネジメントを学ぶことで、被害を最小限に抑え、さらに迅速なリカバリーにつなげることができる。王太子教育とは言わず、皆が学んだ方がいいと思っているんだ」
「……私も王太子妃教育で学べるかしら?」
「リナが学びたいなら、僕から父上に進言しておくよ」
そこで私は「ぜひ学びたいわ。私もクライシス・マネジメントを理解できていれば、レイをサポートできるわよね?」と言うと、「うん。そうしてもらえると助かるよ。……リナがそばにいてくれること。とても心強いよ」と答えたレイモンドは……。
私の手をぎゅっと握りしめる。そして私は後日、ちゃんとクライシス・マネジメントについて学ぶことができた。
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