まさかそんなものが
「ベネット男爵令嬢、リプリー子爵令嬢。問題を解くことが出来たので、出発しますよ!」
キルリル皇太子が声を掛けながら、二人の方へと向かう。少し遅れ、その後をレイモンドが追っていたが。レイモンドが私の方を振り返ると分かった瞬間。これで三度目でその視線を逸らしてしまった。
明らかに避けられていると感じたはずだ。これまでは上辺だけは平静を装い、ともかく返事だけはしていた。でもこれで決定的だ。きっと王宮へ戻ったら、どうしたのかと問われるだろう。
そうなったらなんと答えようか。気持ちが冷めた。もう好きという気持ちはないから、婚約破棄して欲しい……そう伝えるべきか。
俯いて、歩いていたので、頭がトンと何かにぶつかり立ち止まることになった。私がぶつかったのはキルリル皇太子だと分かり、キョトンとすることになる。
「あ、ジョーンズ公爵令嬢」
「どうしましたか?」
「あれ、見えますか?」
「……?」
キルリル皇太子が指し示す方角を見て「あっ」と驚くことになる。瀟洒な洋館が見えていたのだ。
「ベネット男爵令嬢、リプリー子爵令嬢は洋館の方へ向かってしまったので、今、レイモンド王太子殿下が追ってくれています」
「あの洋館は何でしょうか? 地図には……なかったですよね?」
「ええ。地図に記載はなかったので、既に住人はなく、取り壊されることなく残った廃屋なのでしょう」
まさかそんな洋館が森の中にあったなんて。
正直なところ。
この郊外学習自体、前世ゲーム知識でプレイした記憶がないものだった。入学式の後のイベントは、チャリティーイベントだったはずだが、それもゲーム内ではサラッと行われ、終わっていた。
「とりあえず、洋館の方へ向かいましょうか」
「そうですね」
こうしてキルリル皇太子と歩き出したが――。
「!」
「大丈夫ですか」
「す、すみません」
「いえ、ここは道から逸れていますから。むしろよくベネット男爵令嬢、リプリー子爵令嬢は、この草むらの中を歩いて行ったと思いますよ」
それは本当にその通りだった。手入れされていない、草が伸び放題の、道なき場所を進んでいた。
「無理に私達が追う必要もないので、そこの木陰で待ちましょうか」
「……大丈夫でしょうか?」
「それはどういう意味で聞いていますか?」
「洋館に向かったのは、レイ一人。彼だけで大丈夫なのかなと……」
「そうですね。ですがこの草むらを進むのは大変ですよね? かといってジョーンズ公爵令嬢を置いて、私まで洋館へ向かうわけには行きません」
そこで思い出す。近衛騎士達は?と。
「ああ、実は、元いた場所で待機させています。勝手にコースから外れた場所へ向かっているでしょう?」
これには「ああ、なるほど」だった。勝手な行動をしているソフィーとメアリー子爵令嬢をこっそり連れ戻したかったということ。つまり私達は元いた場所にいると、近衛騎士達は教師やクラスメイトに思わせているしているわけだ。
「それならば私は元いた場所に戻り、近衛騎士の皆さんのそばにいます」
「そうですね。それならば安心です。……お一人で戻れますか?」
「ええ。途中までは草の手入れもされ、整備されていたので。大丈夫です。一人で戻れますよ。それよりもレイと二人の令嬢のこと、よろしくお願いします」
「分かりました」
こうして私は元いた場所へ戻り、キルリル皇太子は洋館の方へと向かっていく。
途中、お互いに何度か振り返り、無事を確認。こうして私は近衛騎士達の所へ戻り、キルリル皇太子の姿は見えなくなる。
「ジョーンズ公爵令嬢。王太子殿下と皇太子殿下はまだ戻られないのですか?」
近衛騎士達は私しか戻っていないことに、とても不安そうだった。
「そうですね。……私が戻ったので、どなたか洋館の方へ向かいますか?」
「はい。そうさせてください。何かありますと困りますから」
こうして近衛騎士隊長が部下を一人連れ、洋館の方へと向かう。一方、今いる広場では、問題を解けず、まだ多くのクラスメイトが残っていた。さすがのマークでも分からないようで、彼のチームも足止めをくらっている。
チーム『アドベンチャー』は、既に問題を解くことが出来ていた。もしソフィーとメアリー子爵令嬢が洋館へ向かわなければ、いちはやく次のチェックポイントに到着し、『森の中のガラス美術館』にゴールできたのに。
そう思うにつけ、二人は問題を解くこともせず、勝手な行動をして……と思わずにいられない。でもそれを注意したら意地悪をしたと言われてしまい、恐ろしい断罪につながるかもしれなかった。ここはとにかく皆が戻るのを待つしかない。
まだこの場に私達がいることを教師に不思議がられながら「ちょっと休憩をしています」と誤魔化し、待っていたが……。他のチームは自力で解くのをあきらめ、教師にヒントをもらい、なんとか回答を導き、移動を開始していた。さすがにこのままではメンバーがいないこともバレてしまうと思った時。
キルリル皇太子とメアリー子爵令嬢が戻って来た。ソフィーの姿はない。それに……。
「レイと近衛騎士隊長たちは……?」
私が問うとキルリル皇太子は「それが……」と思いがけない事態について話しだした。
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22時頃の公開になるため
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