郊外学習
明るいグレーとピンクのチェック柄のハイウエストスカートに、白のブラウス。襟元にはスカートと同じ柄のリボン。ピンクの厚手のカーディガンを羽織り、向かった先は……。
王都郊外にある『森の中のガラス美術館』がある森だ。
レイモンド、キルリル皇太子、マークの三人も、秋服へと完全移行している。白のシャツに明るいグレーのズボン。空色の厚手のカーディガンには、胸元にエンブレム。
そう、今日は郊外学習の日だった。
「王太子殿下、皇太子殿下、ジョーンズ公爵令嬢、おはようございます!」
メアリー子爵令嬢と連れ立ってやって来たソフィーは、カーディガンとお揃いに見えるピンクのリボンの髪飾りでツインテールにしている。可愛らしさ全開のソフィーは、スカートのポケットから懐中時計を取り出し、笑顔になる。
「時間でーす! まずは集合場所である『森の中のガラス美術館』入口広場まで移動ですよー」
ソフィーは元気よくそう言うと、レイモンドに近づき「ナビゲーターさん、どちらへ向かえばいいです!?」と明るく確認する。そしてレイモンドが広げた地図を見ながら……さりげなく、ボディタッチをしている。
レイモンドはソフィーが触れたことに気づいているが、何も言わない。
改めてその様子を見て……何も感じなかった。
ああ、やはり。
ここは正しいヒロインの王太子攻略ルートなんだと思う。
「もう、王太子殿下!」
ソフィーが笑い、レイモンドの背中を軽く叩く。メアリー子爵令嬢がソフィーの隣に行き、レイモンドが歩き出す。ソフィーはそのレイモンドの隣で、明るい声で何か話しながら歩き出した。
「ジョーンズ公爵令嬢、行きましょうか」
銀髪をサラリと揺らし、アイスブルーの瞳に笑顔を浮かべたキルリル皇太子が私に声を掛ける。キルリル皇太子と並んで歩き出し、レイモンドのその背中を見て、ぼんやり思う。
「リナ、行こう」と声を掛けることもなく、ソフィーと並んで歩き出した。そうなるように仕向け、そうなっても何も思わないと決めていたのに。心が……。
「ジョーンズ公爵令嬢は昨晩、空を見上げたりしましたか?」
「……見上げました。九月の終わりは土星が綺麗に見えますから」
「やっぱりご存知でしたか。私は偶然、窓から外を見て、夜にしては明るいと思ったんです。そして空を見上げたら……」
そこでキルリル皇太子が明るい笑顔になる。
「輝く星を見て、不意にジョーンズ公爵令嬢に見せたいと思いました。こんなに星の輝く夜空、一人で眺めるより、誰かと一緒に見上げ、話すことが出来たらと思ってしまいました」
「キルリル皇太子殿下……」
「そんな風に思ってもどうにもならないので、本で確認しました。方角的にも間違いない。土星だと分かり、望遠鏡を用意しておけば良かったと思いましたよ」
そこで星を見るのが好きなのかと思わず尋ねると、「好きです」と答える。
「十月に入ったので、りゅう座流星群、オリオン座流星群を見ることが出来ます。前者は夕方から見られますよね。そして秋はペガスス座、アンドロメダ座、カシオペヤ座、牡羊座……沢山の星を観察出来ます。ジョーンズ公爵令嬢、良かったら一緒に観ませんか?」
私は星を見るのがとても好きだったわけではない。ただ、星空は前世で見たものと同じだと気がつき、星空を見るようになっていた。
レイモンドは特に星を見るのが好きだったわけではないだろうが、私が好きだと知り、興味を持ち、望遠鏡も手に入れたのだ。
だがキルリル皇太子は自ら星に興味を持っているのだと分かる。同じ趣味を持つ。それはごく自然と相手への共感と関心につながる。でも……。
「あ、もちろん、夜ですから。レイモンド王太子殿下やマークにも声を掛け、みんなで観ましょう。許可が出るなら、王宮まで私が出向きます。そうすればアンジェリーナ王女も一緒に楽しめますよね」
「そうですね。みんなで星空を見上げたら、楽しそうです」
ヒロインであるソフィー登場前。レイモンド、キルリル皇太子、マーク、アンジェリーナ王女と五人で過ごした日を思い出し、涙が出そうになる。
もう、戻れない、楽しかった日々。
「ジョーンズ公爵令嬢、どうしたのですか!?」
立ち止まったキルリル皇太子が、その細い指で、私の瞳からこぼれ落ちそうになる涙をすくってくれる。
「キルリル皇太子殿下〜! チーム『アドベンチャー』のリーダー!」
最悪のタイミングでソフィーが大声でキルリル皇太子を呼んだ。
すぐにキルリル皇太子は私の目元から指を離したが……。
レイモンドの碧眼と目が合い、私は慌てて逸らす。キルリル皇太子と近い距離を責められている気がした。だが。レイモンドはソフィーとボディタッチをしていたのだ。私を責める前に自分のことを……。
そこで思考を止める。
ここはヒロインであるソフィーのための世界。ソフィーには有利に。悪役令嬢であるリナには不利に物事が運ぶ。
「チームごとに点呼をとるそうですよ~」
ソフィーの明るい声が響いた。
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