素直な気持ちを
もはや私は自分の恋愛や結婚で幸せは望まない。
婚約破棄になっても、断罪されなければいい。
生きられればそれでいい――という境地だった。
だが身近にいるアンジェリーナ王女とマーク。二人には幸せになってもらいたいと思い、かけた言葉だった。それを聞いたアンジェリーナ王女は、そのくりっとした大きな青い瞳に力強さを宿す。
「そうね。お義姉様の言う通りだと思います。今、何もしなかったら、ずっと今日のことを後悔する。やってみないとどうなるか、分かりませんよね」
「はい。アンジェリーナ王女殿下には、後悔のない人生を送っていただきたいと思うので!」
そこでニッコリ笑ったアンジェリーナ王女は、ホットミルクをゴクリと飲む。
これで話は終わりかと思ったが……。
「お義姉様は最近、お兄様と上手くいっているのですか?」
「!」
これには盛大に心臓が反応している。
国王陛下夫妻から、心配されるような言葉は掛けられていない。マークやキルリル皇太子からも何も言われていないのだ。さらに言えば、レイモンドからすら何も言われていなのに。
アンジェリーナ王女は何かを感じ取ったの!?
「お兄様とお義姉様。傍から見ると、いつも通りです。でも何というかお義姉様の心が……ここにいるのに、ここではない場所にあるというか。今は違います。今はちゃんとここにいて、私の話を聞いてくれていると分かりますが……。お兄様といる時は、いつも通りに見えて、違うというか……」
アンジェリーナ王女の勘の鋭さに舌を巻く。
一瞬、今の私の心境を全て明かしたくなるが……。言ったところで信じてもらえないだろうし、何を言い出したのかと驚かれるだろう。
「そんなつもりはないのだけど……。ただ、学校の勉強も忙しいでしょう。いろいろやることがある。考えることは増えていると思うわ」
「そうなんですね……。でもまあ、あのお兄様でも宿題に追われている姿を見ると、実際、大変なのでしょうね」
レイモンドが忙しいのは、単純にやることが多いからだ。学校の宿題、予習、王太子教育、公務、剣術や馬術の練習、ボトルシップ作り……それだけやっていれば多忙で当然。
「学園では、お義姉様はキルリル皇太子殿下と一緒にいることが多いとマークから聞きましたが」
「それは……キルリル皇太子殿下と私はボランティア委員をやっているから……。その準備で話すことが多くて。後はレイが他の人と話す機会も多いわ。王太子ですもの。社交は必要でしょう?」
それについては「そうですね」とアンジェリーナ王女は応じたが、こんなことを言い出す。
「マークが言っていたんです。キルリル皇太子殿下はお義姉様といると、いつも笑顔だと。クールなイメージの皇太子殿下なのに、あんな風に笑顔なんだと、驚いたとか」
そう言われると、確かに最近のキルリル皇太子殿下は笑顔であることが多い。特に懐中時計の御礼で渡した羽根ペンと紫のインクは、学校に持参して使ってくれており、何度となく「この羽根ペン、とても書きやすいですよ。そしてこの紫のインク。試験に出そうなところに印をつけるのに使わせてもらっています」と言われた記憶がある。その時のキルリル皇太子は……笑顔だった。美貌の笑顔は眼福。
「私、ロマンス小説の読み過ぎでしょうか。隣国の皇太子が友好国の王太子の婚約者に密かに想いを寄せている。その一方で王太子とその婚約者はどうも仲が上手くいっていない。そこで皇太子はこの機会にと彼女に想いを告げる――」
「キルリル皇太子殿下は、九月にお茶会へ来たベネット男爵令嬢のことが、気になっていると思うわ」
「ベネット男爵令嬢……。あの方は何というか、お義姉様がいるお兄様のことを物欲しげに見ていて……。私は苦手だったわ」
この発言には驚いてしまう。
たった一度会っただけなのに。でもいろいろうがった見方をしなくても、ヒロインであるソフィーがレイモンドを狙っている様子は……アンジェリーナ王女は見抜いていたのね。
「お兄様はそのベネット男爵令嬢と一緒にいることがなんだか増えている……そうもマークが言っていたわ。でもお兄様は、お義姉様と一緒にいたいと思って声を掛けるのに、タイミングが合わなくて、気付くとそのベネット男爵令嬢といる……なんてことが多々あったとか」
「そういうことは確かにあったわ。教師に呼ばれていたり、教師に聞きたいことがあったり。いろいろタイミングが合わないことはあるかと」
「お義姉様」
アンジェリーナ王女が体を私の方へと向け、その青い瞳でまっすぐ私を見る。
「お兄様はお義姉様のこと、本当に大好きだと思います。そしてお義姉様もお兄様のこと、好きですよね? 幼い頃からずっとそばで二人を見てきたので、私は分かります。二人は間違いなく、相思相愛。王族では、愛のない結婚が当たり前ということぐらい、私でも知っています。それを思うと、お兄様とお義姉様は奇跡だと思うんです。……私はお義姉様を応援しています。お兄様と幸せになってくださいね。素直な気持ちを忘れないでください、お義姉様」
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次話は19時頃公開予定です~






















































