ダメなんだ……。
ソフィーのことを気に掛けてあげた方がいい。仲良くした方がいいと、レイモンドが口にした時。私は心臓がキリキリ痛むように感じた。
レイモンドとの距離を縮めるため動きだしたヒロインに、彼の心が動いた時。悪役令嬢リナに対し、レイモンドはまさに今のような言葉を掛けたのだ、ゲームの中で。
「男爵令嬢だとあからさまに見下す……ことはしていないと思う。でも態度が素っ気なく、冷たいのでは? 彼女は高位貴族が多いこの学園で、男爵令嬢である自分に負い目を感じている。もう少し気に掛けてあげてもいいのでは? 彼女と仲良くした方がいいのでは?」
ゲームの一場面を彷彿させる言葉を、レイモンドが口にした。
やはり、ダメなんだ……。
いろいろとイレギュラーなことが起き、「もしかしたら」と思っていた。この世界のレイモンドは、私が前世でプレイし、見ていたゲームの彼とは違う。本当に心からリナを愛し、たとえヒロインであるソフィーが現れても、その気持ちは変わらない……そんな風に考えてしまった。
「どうしてベネット男爵令嬢と仲良くしろなんて言うの!? 宿題を教えることになったのは、私が彼女をサポートしなかったから……そう思っているのかしら? 僕を責める前に、私に非がなかったか、考えてということなの……?」
そんなレイモンドを責めるような言葉が頭に浮かぶ。でもそれを言ってしまえば、シナリオの強制力に負けてしまう。だから言えない。言葉を呑み込み、レイモンドに対する気持ちに蓋をする。
幼い頃、レイモンドから婚約破棄されることを願った。ヒロイン登場前に、婚約破棄されていれば、断罪されることもないと思って。でもそれはことごとく上手くいかなかった。だがソフィーはついに姿を現わし、レイモンドを攻略するために動きだした。
最初は違っていたのだ。
レイモンドだけではなく、ソフィーさえ、シナリオとは違う行動をとったと思っていたが、そんなことはなかった。あまりにもシナリオとは違う進行に、ソフィーは驚いていただけだ。入学式でレイモンドではなく、キルリル皇太子と仲良くなった。お互いにファーストネームで呼び合う仲に、レイモンドとはなれなかったのだ。
今は落ち着きを取り戻し、自身がヒロインであることを踏まえ、改めて彼女は動き出した。そしてこの世界は、そんなソフィーを後押ししている。つまりソフィーはレイモンドの攻略に、本格的に着手した。
ソフィーとレイモンドが結ばれるよう、私が動けば、断罪は免れるかもしれない。
深呼吸をして気持ちを静める。
ソフィーに対しては触らぬ神に祟りなしだったが、そうではなく、仲良くするのも一つの手段。さらにレイモンドとソフィーの距離が縮まっても、静観する。断罪されるような行動をせず、身を引こう。
もし卒業式後に行われる舞踏会を待たずして、婚約破棄されても、ソフィーと仲が良ければ、私は断罪されずに済むはず。
「……レイ、ありがとう。確かに私、ベネット男爵令嬢とは表面的なお付き合いしかしていなかったわ。挨拶をしても、私から積極的に話し掛けることはなかった……。これからは私から、話し掛けるようにしてみるわ」
私の言葉にレイモンドは安堵の表情になった。そしてえくぼの見える笑顔を浮かべる。
「リナ、良かった。分かってもらえて」
そこからレイモンドは、いつも通りで私に話してくれたと思う。でも私は普段と変わらない笑顔、相槌、身振り手振りで応じていたが……。それは何というか、演じている状態。心からの笑顔や頷きではない。
この日からだ。
私は表面的には変わらず、心の中では完全にレイモンドと距離をとっていく。そして学園では、ソフィーとも仲良くするための努力が始まる。慎重に言葉を選び、さらにさりげなくレイモンドとソフィーが二人きりになる状況を作るようにした。
そんな行動をわずか一日とっただけで、ソフィーは満足したのか?
いかさままでしたコイントスで、レイモンドの名を呼ぶ許しを得たのに。「王太子殿下」という呼び方に戻っている。その一方で、ちゃんとソフィーを立てるようにしているのに、相変わらず“自分がヒロインアピール”が続くが、もはやそれがデフォルト。そこはもう気にしても仕方ないと、割り切ることになる。
こうして九月が終わり、明日からは十月となる日曜日。
アンジェリーナ王女が夕食後、私の部屋を訪ねてきた。
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