この世界で私は……
日曜日。
夕食まで、プライベートガーデンでレイモンドと過ごした時間は……とても甘やかな時間だったと思う。
ここが乙女ゲームの世界であること。しかも王太子であるレイモンドがヒロインに攻略されるルートであることを忘れてしまうような、ひと時だった。
月曜日。
先週のモヤモヤは晴れ、私は清々しく目覚めることになる。
朝、窓を開けると、空気は驚く程ヒンヤリしていた。季節が一つ進んだと感じる。
前世の日本では九月なんて、まだまだ残暑が厳しかった。でもこの世界は違う。九月も半ばに入ると、季節はどんどん秋へ向かっていく。
それでも天気は良さそうだ。日中はまだ気温が上がるだろう。そこで今日は夏服のワンピースの上に、薄手の白のカーディガンを合わせることにした。
「おはよう、リナ」
ダイニングルームで会ったレイモンドもまた、空色との開襟シャツに、白のカーディガンを着ている。なんだかペアコーデをしたみたいで嬉しくなってしまう。
朝食の時間は和やかに過ぎて行く。
アンジェリーナ王女は私とレイモンドの装いを見て「お似合いの二人ですわ」と微笑む。国王陛下夫妻もニコニコと笑顔で「では食事にしよう」といつも通り。
この世界で私、生きられるかもしれない――。
そう思いながら、いつも通りのメンバーで馬車に乗り込み、学園へ向かうことになる。
鞄にはレイモンドがプレゼントしてくれたミニチュアサイズのボトルシップをつけていた。レイモンドはすぐに気が付き、嬉しそうにその碧眼を細める。口元にえくぼが浮かぶ笑顔を見て、私の心は幸せな気持ちでいっぱいになってしまう。
やはりレイモンドのこと、私、好きなんだと噛み締める。
断罪回避は学園入学後と思ってから、余計な奔走をしなくなり、レイモンドのことを変に避けなくなっていた。そして彼の良さを知る度に、本当は恋していたのだと思う。それを無理矢理自覚しないようにしていたけれど。
このままレイモンドと幸せになりたい……!
対面の席で微笑む彼を見て、切実にそう思ってしまう。
だがこの気持ちを今、レイモンドに伝えることは出来ない。まだ学園に入学したばかり。何が起こるかは分からない。
こうして宮殿を、レイモンドと私を乗せた馬車が出発し、キルリル皇太子、マークの屋敷を経由し、王立アルデバラン学園へ向かうことになった。
「おはようございます」
「おはようございます」
馬車が到着するエントランスは、続々と登校する生徒達でごった返す。そこで挨拶をしながら、教室へ向かう。
既にヒロインであるソフィーは教室にいて、私達に気付くと、挨拶をしてくれる。
「おはようございます、皆様!」
そして「昨日は、お茶会へ招待いただき、ありがとうございました。特に、ジョーンズ公爵令嬢。王太子殿下に代わり、素敵なお茶会の席を用意いただき、本当にありがとうございます」と深々と私に頭を下げたのだ。
これにはビックリ。
昨日、解散した後、キルリル皇太子がソフィーに何かアドバイスをしたのかしら? それともレイモンドが、本来のこのルートの正しい姿から逸脱することで、ヒロインであるソフィーにも変化が起きたの!?
驚きながら「いえ、当然のことをしたまでです」と応じ、席へ着く。
この時、何だか皆の視線が私に集まったように感じたが、「皆さん、間もなく始業のベルが鳴る時間だわ! 着席しましょう」とソフィーが明るい声を出す。
溌溂とした明るいヒロインの声。
皆、席へと腰を下ろす。
そこで絶妙なタイミングで予鈴が聞こえてきた。
学校のベルさえ、ヒロインの都合に合わせ、鳴るのかしら?と思えるぐらいのピッタリさ。
そんなところはやはり、この世界がヒロインであるソフィーのために存在していると、思わずにはいられない。それでいて今朝のソフィーの言動。
もしかするとこの世界、悪役令嬢である私に「役目を果たせ」と求めることはないのかも……?
そんな奇跡を期待したところで本鈴が聞こえる。
こうして授業が始まり、一時間目、二時間目と順調に進み、四時間目。ロングホームルームでは、レイモンドとソフィーが頑張って決めてくれた、郊外学習の詳細が発表された。
「皆さんが候補に挙げてくれた施設について調べ、プランを立てました。そして施設とも交渉を行った結果を発表します」
教卓の前に立つレイモンドが背筋を伸ばしてそう告げると、皆が彼を注視する。
「一年A組は、王都郊外にある『森の中のガラス美術館』へ行くことが決定しました」
そこでレイモンドが視線をソフィーに向けると、彼女はマップハンガーに掛けられた地図を広げた。レイモンドが木製のポインターを使い、地図を指し示しながら、説明を始める。
「この美術館は名前の通りで森の中にあります。この美術館へ行くまで、森の中を進みますが、そこにいくつかのチェックポイントを設置。そこで書かれた問題に回答しながら、ゴールの美術館を目指します。美術館でも問題があるのですが、それは館内を見ないと回答できません。よって鑑賞などを終えたら、最後の問題の答えを書き、先生に提出。提出が終わったら、ひとまず当日の郊外学習は完了です。昼食は美術館に併設されているカフェとなるため、ランチボックスの用意は不要となります」
美術館のそのカフェでは、三十種類程のパンが販売されている。パンとスープとデザートがセットになったランチを楽しめるという。
「休憩時間もあるので、そこでお土産など購入してください。時間になったら美術館のエントランスホールに集合し、そこで問題の答え合わせ、それが終わったら森の入口まで戻り、各自馬車に乗り、解散となります」
このレイモンドの説明の後は、チーム分けとなる。一クラスは二十名しかいない。五人で一つのチームだ。
本当はいろいろなクラスメイトと仲良くなるため、レイモンドやキルリル皇太子は別々のチームがいい。しかしセキュリティを考えると、そうはいかない。
学校内の行事ならまだしも、郊外学習は外、学園の敷地外となる。
そうなると郊外学習のチームは……。
「チームは担任の先生とも話し、こうなりました」とレイモンドがプリントを配る。
そこは想像通りで、レイモンド、キルリル皇太子、そして私と……ソフィーと彼女が仲良くしている子爵令嬢メアリーが、一緒のチームだった。
マークが同じチームでないのは、流石にそれではいつものメンバー過ぎるからだろう。
とにもかくにもチームは決まった。
そこですぐにチームに分かれ、郊外学習に向けた話し合いが行われることになったのだけど……。
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