さすがヒロイン。
「お兄様があなたのためにお茶会? そうは聞いていないですわよ、私は。ここにはノースアイスランド帝国のキルリル皇太子殿下がいらっしゃるのです。彼の希望で開かれたお茶会に、ベネット男爵令嬢が便乗されただけですよね? 何よりお兄様は、婚約者であるお義姉様以外の女性のために、お茶会は開かないと思うわ。勿論、社交上必要であれば、話は別ですが。ベネット男爵令嬢を王家としてもてなす理由、何かありまして?」
アンジェリーナ王女がバッサリ切り捨てるので、さすがのソフィーも表情が引きつる。そして助けを求めるようにキルリル皇太子を見た。
「まあまあ、落ち着いてください。確かに私がお茶会を希望しました。その意図はクラスメイトのこちらのベネット男爵令嬢と皆さんが仲良くなれればいいと思ったからです。せっかくのお茶会ですから、楽しく過ごしましょう」
キルリル皇太子がとりなし、レイモンドも「美味しいお菓子を沢山用意しています。立ち話もなんですから、移動しましょう」とにこやかに告げる。
こうして喫茶室へ移動することになった。
驚くべきは打たれ強いヒロイン、ソフィー。
あれだけアンジェリーナ王女に、バッサリ切り捨てられたのに、既に復活している!
「すごい! すごい! すご~い! ただの廊下にこんな豪華なシャンデリアがあるなんて! それに廊下の横幅がとっても広いですね~」
「それならばノースアイスランド帝国の宮殿の廊下も、ぜひお見せしたいですね。大理石の床はチェス盤のように白と黒の格子柄、柱や壁、天井は白で統一されています。そして四十個以上の窓があり、そこから陽が射し込むと……とても明るく、神々しい美しさですよ」
「それは想像するだけですごそうですね! それが廊下だなんて。見て見たいです~!」
私はどちらかというと豆腐メンタルだが、ソフィーは違う。まさに鋼のメンタル!
でもいきなり異世界に転移し、生きて行くとなったら、あれぐらいの強さがないとダメなのかもしれない。
そんなことを思っているうちにも喫茶室へ到着。
「みんな着席したから、始めようか」
レイモンドの合図でメイドがティーポットを手に席へやって来て、皆のカップに紅茶を注ぐ。テーブルには見た目にも美しいスイーツの数々が並んでいる。
セイボリーはトマトとバジルのカナッペ、パプリカなどの野菜と鶏肉のテリーヌ、スモークサーモンのサンドイッチ、鴨肉のコンフィ。紅茶の茶葉を練り込んだスコーン、マロンペーストが生地に混ぜ合わせてあるスコーン、そしてクロテッドクリーム。ペストリーは、フィナンシェ、チョコレート掛けのシュークリーム、三種のブドウを使ったヴェリーヌ、パウンドケーキだ。
「わあ、どれもとても美味しそうです。それにテーブルに飾られた美しい薔薇! テーブルコーディネートは白とピンク、そしてアクセントで、ご自身も身に着けているワイン色。さすが王太子殿下ですね!」
ソフィーは惜しみない賞賛の言葉を送り、それを聞いたレイモンドは満面の笑みとなり、アンジェリーナ王女が告げる。
「ベネット男爵令嬢、褒めるならこちらにいるお義姉様ですわよ」
「え……?」
「お兄様もやろうと思えばできるでしょうが、せっかくお義姉様のような素敵な婚約者がいるんです。お茶会といえば、レディの嗜みでしょう?」
「え、えーと、王女殿下、それは……」
ソフィーが困ったように首を傾げる。
「今日のお茶会のテーブルコーディネート、セイボリー、スコーン、ペストリー。紅茶の茶葉。すべてお兄様の婚約者であるお義姉様が選んだもの。称賛はお兄様ではなく、お義姉様に伝えるべきですわよ」
アンジェリーナ王女の言葉を受け、レイモンドが隣に座る私の手を取り、甲へとキスをする。
「リナが婚約者で僕は本当に幸せだよ。こうやってお茶会を主催した時、リナが全面的にサポートしてくれるんだ。料理とお茶、この秋薔薇も。みんなリナの采配で用意されたものだ。ベネット男爵令嬢、存分に楽しんで欲しい。そして称賛の言葉はリナにかけて欲しい」
そう言われた時のソフィーは……。
一瞬、怖い顔になった。でもすぐに「なるほど。そうだったのですね!」と笑顔になる。
「さすが公爵令嬢ですね。王太子殿下の婚約者として、きっと一流の教育を受けられたのでしょう? マナーも礼儀も、こういったお茶会のことも。羨ましいですわ。私の場合、男爵家と言っても、平民とはそう変わらないので……。もっと学びの機会があったら……。でもこれから頑張ります!」
健気なソフィーの言葉に、キルリル皇太子が反応している。とても前向きで素晴らしいと。そして生まれ持った身分を嘆く必要はなく、これからだと励ます。
一方の私は、これがヒロインだと驚くしかない。
今回のお茶会の一連のこと。確かに私の采配で準備した。それは王太子であるレイモンドの婚約者として、当然のことをしたまで……と私は思っている。よって褒めて欲しい、とは言わないが……。
それでもこの流れであれば「ありがとうございます」の一言が、ソフィーから私にあってもいいと思うのだ。だがソフィーは、なぜか自身と私を比べ、自分の不遇を嘆いた。自分が男爵令嬢であり、私が公爵令嬢であることに、負い目を感じていると明かしたわけだ。挙句、キルリル皇太子から同情を買い、さらには自身の前向きさをアピールした。
これこそ、さすがヒロイン。
どんな場面でも自分が主役になってしまうのだ。
だがこれはまだまだ序の口。
ヒロインであるソフィーの本領はこの後、続々と発揮されることになるのだ。
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乙女ゲームの本当の主人公はソフィー。
リナは悪役令嬢。それがゲームの世界観の設定。
そんな世界でリナの運命は……。
次話は14時頃公開予定です~






















































