遂に……
「お兄様、お義姉様、いってらっしゃいませ! お父様とお母様も先に学園で待っているそうよ。父兄であり、新入生を迎える学園の創設者一族。お父様もお母様も忙しいわよね。ともかく、お気をつけて!」
アンジェリーナ王女に見送られ、レイモンド、キルリル皇太子、マーク、そして私。さらには私の侍女と護衛の六人が乗り込んで馬車が動き出す。
馬車の前後にも護衛がついており、王太子、皇太子と共に登校するのは実に物々しい。
だが学園の敷地内に入ればそこは安全地帯。
正門、裏門は厳重に警備され、敷地を取り囲む塀はとても高い。さらに正門と裏門以外に西と東には警備兵の詰め所があり、常時警備兵が塀に沿うようにして巡回を行っている。
教職員から用務員、カフェテリアのスタッフに至るまで、厳しい身辺調査が行われていた。用務員でさえ、平民ではなく男爵家の三男という徹底ぶり。毎日手荷物検査も行われているのだ。しかも全学年、クラスは三つのみで、授業中は廊下にも警備兵がいる。生徒達の安全は限りなく保障されているのだ。
そんな警備が厳しい学園内で、悪役令嬢リナは、ヒロインに確かに嫌がらせの数々を重ねる。それはとても巧妙で頭脳派らしい悪事の数々。警備兵がリナの悪さに気付き、止めてくれる――なんてことはないのだ。
「リナ」と声を掛けられ、ハッとする。対面の席に座るレイモンドが心配そうに私を見ていた。
「今日は入学式。もしかして緊張している?」
「そ……そうですね。レイは緊張、していませんか?」
「緊張……どうだろう。新入生代表の挨拶をするからね。多少の緊張はある。でもスピーチの内容は既に頭に入っているし、大勢の前で何かするのは、いつものこと。だから入学式だからと緊張しているかというと……そんなことはないかな」
そこでレイモンドがキルリル皇太子を見る。まるで「キルリル皇太子はいかがですか」という感じで。
「私は留学生ですからね。新入生代表とは別で、挨拶をするよう言われています。王太子殿下と同様、挨拶の流れは頭に入っていることと、公務で幼い頃より人前で話すのは慣れていますから……。特に緊張はないですね」
銀髪の下のアイスブルーの瞳を細め、美貌の皇太子は微笑む。
レイモンドもキルリル皇太子も、生まれながらにしての立場があり、公で行動することに慣れていた。大勢の前で話すことも、特に緊張しないようだ。
というか。
私は別にスピーチの予定もなく、ただ新入生のために用意された席に座り、レイモンドやキルリル皇太子の話を聞くだけだ。その私が緊張しているというのも、よくよく考えると変な話。
「クラスは警備の問題もあるからね。僕とキルリル皇太子、リナ、そしてマーク。四人は一緒のクラスだ。一年A組。男子は剣術や狩りの授業があり、女子は刺繍やティーセレモニーの時間があり、その時は別々になる。でもそれ以外は一緒の授業を受けるんだ。心配はいらないよ、リナ。ちゃんとサポートするから」
レイモンドはそう言ってそのサラサラの金髪を揺らし、穏やかに微笑む。くっきり見えるえくぼもとても清々しい。
いよいよヒロインと出会う王立アルデバラン学園へ入学するのに。レイモンドは変わらず私に優しくしてくれる。
キルリル皇太子と剣術を競い、その後に私へキスをしたレイモンド。その後もキスやスキンシップを求められるのかと思ったが、それはない。本当にあれは誓いのキスだったようだ。
以後は最低限のスキンシップしかなく、私は少し物足りないし、ヒロインとの出会いの時が近づき、シナリオ通りでレイモンドの心が私から離れているのでは……?そんな風に感じると。
「リナ。僕は学園に入学しても君のナイトとして、そばにいるよ。何も不安になる必要はない」
まるで私の心を読んだかのように、そんな風に言うのだ。しかも一度や二度ではない。一緒にいて、少しでも私が不安を感じるとそんな風に言ってくれる。今だってそうだ。
本当にレイモンドは、私のナイトのようであり、有言実行でいてくれる。しかも二度のイレギュラーを起こしているのだ、レイモンドは。
もしかすると三度目の奇跡で私への断罪をしないなんてことが……。
「着きましたね。今日は父兄を乗せた馬車もいるのでエントランスが混雑しています」
マークの言葉に皆が窓から外を見た。
レンガ造りの立派な建物、そして沢山の馬車が見えている。
遂にこの日。
私の断罪の舞台となる王立アルデバラン学園に足を踏み入れることになった。
お読みいただきありがとうございます!
次回は入学式です。そこには……!
さてさて。
休みはカレンダー通りの人もいらっしゃると思いますが
明日からGW!
そこで夜更かし更新をします⤴
ですが遅い時間なので、リアルタイム読者様も今日は無理せずお休みくださいませ。
夜更かし更新の次、明日の土曜日は9時頃公開予定です~
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