即席のファッションショー
剣術での勝負の後、王都を離れ、国王陛下夫妻も含め、夏の離宮に滞在した。そこで過ごした楽しい時間はあっという間に終わり、そして……。
「お義姉様!」
王宮に用意された私の部屋に、盛大なノックと共にやって来たのは、アンジェリーナ王女。
「制服が届いたのでしょう!? お義姉さま、ぜひ、着てみてください!」
「え!?」
「王立アルデバラン学園の制服は、王都の人気デザイナーが手掛けたもの。春夏秋冬でデザインが変わるこだわりで有名です! 私も来年着ることができるけれど……見たいわ、お義姉様! お義姉様はスタイルがいいから、絶対に似合うと思うの。お願い、お義姉様!」
アンジェリーナ王女に拝まれ、そこから即席の制服ファッションショーが始まる。
「お義姉様、まずは秋の制服、着てみてください!」
「分かったわ」
普段のドレスと違い、毎日着る制服。着替えもしやすくなっていた。つまりメイドの手を借りずとも、一人で着脱できるようになっている。
寝室で着替え、前室で待つアンジェリーナ王女のところへ向かうと……。
「なんて愛らしいデザインなのかしら! 明るいグレーとピンクのチェック柄のハイウエストスカートに、白のブラウス! スカートと同じ柄の襟元のリボンも可愛らしいですわ! 上に羽織るピンクの厚手のカーディガンもとても似合っています!」
アンジェリーナ王女の言う通りで、全体的にとても可愛らしいデザイン。
前世の学生時代の制服、それは無地の紺色。こんなにオシャレな制服だったら学校へ行くのが楽しみになりそうだ。
とはいえ、今はまだ夏。
「暑いので次に着替えるわ」
「冬服ですね! お願いします、お義姉様!」
さらに暑くなるが、手早く済ませよう!
というか秋と冬で制服が変わるなんて、本当にすごいと思いながら、着替えを行う。
ブラウスはそのままで、今度は明るいグレーとピンクのチェック柄のワンピースを合わせる。このワンピースはウールなので、とても温かい。その上にピンク色のボレロを羽織り、さらに防寒で白いファーのついた明るいグレーのフード付きのロングケープで完全なる冬服の完成となる。
だが今はまだ夏。
ロングケープは今回免除してもらい、ボレロを着て、前室で待つアンジェリーナ王女のところへ向かうと……。
「お義姉様、そのボレロとワンピースの組み合わせ、とてもお似合いです! ボレロの胸に金糸で刺繍された学園の紋章。小さくて目立ちませんが、もさりげなくオシャレ! それにワンピースもボレロも生地が上質でとても温かそう。丈の短いボレロだから、ワンピースのウエストのバックリボンもちゃんと見えて、とても素敵ですわ!」
これはまさに細部までこだわっていると思う。ロングケープを羽織ることで、バックリボンもつぶれてしまうこともない。
とても気に入っているが……生地が厚手なので、「では着替えるわね!」とすぐに寝室へ戻る。
「次は春服ですね、お義姉様!」というアンジェリーナ王女の声を背中に聞きながら、寝室の扉を閉めると、素早くボレロを脱ぎ、ワンピースも脱ぐ。
春服は秋服と夏服をアレンジして、自由な組み合わせができた。そこで半袖のブラウスに秋服のハイウエストのスカートを合わせる。薄手の白のカーディガンもあるので、まだ少し寒いと思ったらこれを着てもいい。だが今は暑いので、カーディガンはなしで、アンジェリーナ王女の待つ前室へ向かう。
「あ、半袖になると季節感がでますね! 春だと長袖に合せることにもなるのでしょうが……。どっちでも合いますね、間違いなく。ハイウエストスカートはスタイルがよく見えて、いいですわね!」
それはまさにアンジェリーナ王女の言う通り!
ハイウエストスカートの最大の特徴は、ウエストラインを強調してくれるので、細身に見えるところ。これは女子には大変嬉しい効果。さらにロング丈であるが、全体バランスを見ても、足が長く感じられる。
つまりスタイルアップ効果が非常に高いのだ。
「最後は夏服ですわね!」
「ええ。入学したらこれからしばらくは夏服よ」
それでも九月の半ばを過ぎると、夏服に薄手のカーディガンでは涼しく感じる。前世日本のように、九月いっぱいはまだ残暑ということはなく、下旬には秋服に変わっているだろう。
だが入学式は間違いなく夏服になる。
その夏服。それはこんなデザインだ。
「まあ、可愛らしいわ~! 爽やかな空色のパフスリーブのワンピース! 襟や袖や裾は白のフリル。襟についた濃紺のパールのついた飾りリボンもとっても素敵だわ! ウエストのバックリボンもオシャレ。あ~、私も着てみたい!」
早速着替えてアンジェリーナ王女の待つ前室へ向かうと、これまで以上に絶賛してくれるが、その気持ちはよく分かる。夏服だけが、空色であり、特別感もあるのだ。
すべてのシーズンの制服に着替え、アンジェリーナ王女への披露が終わったまさにそのタイミングで、扉がノックされる。
王宮の私の部屋を訪ねてくるとしたら、それはアンジェリーナ王女と……。
ノックと共に聞こえるその声は、レイモンド!
メイドが扉を開けると、そこには王立アルデバラン学園の制服を着たレイモンドがいる!
「やっぱり。同じお店にオーダーしていたから、リナの制服も届いているんじゃないかと思った。とてもよく似合っているよ、リナ」
そう言って微笑むレイモンドこそ、制服がよく似合っている。女子の空色とお揃いの開襟シャツに、細身の明るいグレーのズボン。それはとても爽やかで、改めてレイモンドの脚の長さも感じる。
もう大人の男性と変わらない。
スラリと長身で、そして……。
カッコいい……!
そう思うのと同時に。
婚約破棄と断罪の場である学園生活がいよいよ始まると、私は噛み締めることになる。
お読みいただきありがとうございます!
本日もよろしくお願いいたします☆彡
次話は20時頃公開予定です~
遂に学園の入学式です(ドキドキ)