芽生える友情。だが……
キルリル皇太子の障害飛越も、これまたレイモンドと同様で、拍手が起きる出来栄えだった。
正直キルリル皇太子とレイモンドでは、甲乙つけがたいと思う。
その一方で、実は1.3メートルの高さに挑戦するのは、人馬共に初めてだったマークは……。垂直障害は綺麗なフォルムで飛ぶことが出来た。そこは教本のお手本になるような、いいジャンプだった。
だがしかし。その次のオクサー障害を前にすると……。
「どうしたんだ、ブレンダ! 君なら跳べる。諦めるな!」
マークの愛馬は、1.3メートルのバーの高さに、その動きを止めた。つまり拒止してしまったのだ。
馬の体高は1.5~1.7メートルぐらいなのだ。1.2メートルは、馬の肩辺りの高さになる。そして1.3メートルという高さは、馬によっては目の高さかやや下の位置。馬の視野を考えると、障害となるバーの高さを、的確に捉えにくくになっている可能性もある。
加えて、オクサー障害は奥行きもあるのだ。
しかも初めての高さ。
馬だって不安になる。
そんな馬と同様、マーク自身もどこか「飛べるだろうか」と自信がなかった。
マークの心の揺れは、馬にも伝わる。
手綱や足の力の入れ具合。そういった所でマークの迷いを馬も感じ「この高さは危険なのではないか」と判断し……拒止につながるのだ。
「ブレンダ、もう一度だ。チャンスがある。頑張ろう!」
マークは諦めず、二度目の挑戦となるが……。
彼の愛馬であるブレンダは、既に1.3メートルのオクサー障害に、苦手意識が出来上がっている。もはや飛ぶ気持ちはなく、拒止でもなく、巻き乗りして逃げる選択をしてしまったのだ。すなわちオクサー障害を回避し、その場を離れる選択をブレンダがしてしまった。
「マーク、君はよく頑張った。普段から障害飛越を練習しているわけではない。それなのにまず君自身が逃げずに取り組もうとした。そのやる気は素晴らしいと思う。今回は無理だったが、ブレンダと練習を重ねれば、きっと1.3メートルも飛べるようになる。今日は無理しないでいい」
レイモンドがそう声を掛けると、キルリル皇太子もマークにアドバイスする。
「オクサー障害も1.2メートルの高さなら跳べていたはずです。ここで自信をなくす必要はありません。再度初心に返り、1メートルのバーからやり直せば、馬も恐怖を克服できるはず。もし今後も障害飛越に挑戦したいなら、焦らず、練習を繰り返してください」
「王太子殿下、皇太子殿下……! お二人ともありがとうございます!」
マークが瞳を潤ませている。
三人の間になんというか友情が芽生えたように思えた。
だが。
その次は槍試合の模擬戦。
友情などと言っている場合ではなかった。
◇
オクサー障害を失敗したマークの愛馬ブレンダは、自信を喪失している状態。無理に槍試合の模擬戦に出させるのは、ブレンダのストレスになってしまう。そこで槍試合はレイモンドとキルリル皇太子の二人で行われることになった。
「模擬戦でも通常、そのままの槍を使い、行われます。ですが今回は王太子殿下と皇太子殿下により行われるもの。万一にも怪我があっては大変です。よって練習用の槍を使います。さらに先端には念のためで布を巻き、クッション性を持たせること。甲冑を着用することとします。これから三十分は、そのための準備の時間です」
馬術教官の一人がそう告げると、早速、準備開始となった。
レイモンドとキルリル皇太子は、従者たちにより甲冑を装備。馬丁たちは馬に装備をつける。マークはブレンダを厩舎に戻し、そこで対話を試みている。アンジェリーナ王女と私は槍試合についておさらいだ。
「槍試合はポイント制ですよね。今回は王立騎士団の槍試合のルールを適用するので、盾に当たれば2ポイント、胴体の正面で3ポイント、胸当てへの命中で4ポイント。いずれの場合でも槍が折れると追加で1ポイント」
アンジェリーナ王女が今、口にしたポイントのルール。それは、槍の指導者であり、審判を務める教官から受けとった紙に書かれていた。
槍が折れた場合の判定は、試合によって異なるのが面白いところ。槍が折れる=武器の破損と考え、攻撃側にペナルティ、受けた側にポイントが入ることもある。だが今回は槍が折れる=折れる程の威力ある攻撃をしたと見なされ、攻撃側へポイントが加算されるのだ。試合の趣旨により判定がまったく逆になる。
「低ポイントになるのは、肩と上腕に当たった場合の1ポイント。一気に5ポイントをとれるのは、兜へ命中した時ですわ」
アンジェリーナ王女の言う通りで、兜への命中が高ポイントであるが、それはそれだけ難易度も高いからだ。
当然であるが、兜は胴体などに比べ、圧倒的に的としては小さい。しかも馬を走らせている。そのスピードから狙える瞬間はほんのわずかであるし、槍は長さもあるので、バランスをとる必要もあるのだ。まず馬術の熟練度が高く、槍を正確に操作できないと、兜を狙い命中させるのは無理だった。
ちなみに馬や相手の前腕や脚に当てると0ポイント。場合によっては減点になる。安全性を重視しているため、非攻撃対象部位へ当てることは、好ましくない行為とされていた。
それでいて意外なのは……。
「相手を落馬させる──危険だけど、勝利条件なのよね?」
私が尋ねるとアンジェリーナ王女はコクリと頷く。
「はい。王立騎士団は実戦部隊ですから、落馬させる=勝利です。他の槍試合だと、落馬させると10ポイント付与なんて場合もありますけれど」
そんなことを話していると、用意を終えたレイモンドとキルリル皇太子が姿を現わした。
レイモンドは兜にロイヤルブルーのクレストをつけ、王家の紋章が銀糸で刺繍された、純白のマントを羽織っている。一方のキルリル皇太子はアイスブルーのプルームに、皇族の紋章が金糸で刺繍された、濃紺のマントをあわせている。
二人ともさすが乙女ゲームでの男主人公。
とてもカッコいい……!
お読みいただきありがとうございます!
次話は明日の7時頃公開予定です~
遂に王太子VS皇太子の馬上槍試合が開幕
勝利するのは……!?
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