今だわ!
続いては障害飛越。
そのためのエリアが用意されており、馬術教官とレイモンド達は話し、バーの高さの調整が行われる。
「話し合いの結果、今回は中級レベルの高さにあわせ、バーは1.2メートルから1.3メートルの範囲で調整します」
レイモンドのこの言葉に、アンジェリーナ王女は思わず声を上げる。
「1.3メートル! それは上級者向けの高さでは!? そのマークは……」
レイモンドは中級レベルというが、その高さは競技大会で言うなら上位者向け。成績上位者が成功する高さだ。
マークは先ほどの馬術で基本をきっちり押さえるレベルだった。障害飛越で1.2メートルから1.3メートルを超えられるのかと言うと……。
ただ、競う相手がレイモンドとキルリル皇太子なのだ。この二人の実力に合わせたら、1.4メートルから1.6メートルの高さになるだろう。よって1.3メートルという高さ。レイモンドとキルリル皇太子からすると、レベルを落とした高さになる。マークにとってはチャレンジとなる高さだったが。
それはマーク自身が一番よく分かっているようだ。彼はキリッとした表情で口を開く。
「アンジェリーナ王女様、心配いただき、ありがとうございます。今回は自分にとっても愛馬にとっても、チャレンジになるでしょう。それでも挑む必要がある戦いだと思います」
マークの力強い声に、アンジェリーナ王女は息を呑む。インテリ枠ではあるが、それでもマークは攻略対象の男子の一人。その挑戦心に胸が熱くなる。
「本人もこう言っているので、競技を始めるのでどうですか?」
キルリル皇太子の言葉に、マーク本人も力強く頷き、レイモンドも応じた。馬術教官も「そうしますか」と応じ、アンジェリーナ王女を見る。
「……分かりました。マーク、無茶はダメよ」
「勿論ですよ、王女様」
こうしてこの場所が初めてとなるキルリル皇太子がコースを下見。それが終わると、今度はレイモンドからスタートとなる。
今回は正式な競技ではないので、三つの障害に挑む。
まずは垂直障害。高さは1.2メートル。
「これは跳躍力ですよね、お義姉様」
「そうね。バーを落とさずに飛ぶことが重要。触れても減点にはならないから」
「減点されるのは時間ですよね。みんなタイムロスを防ぐため、ギリギリの高さを飛ぶ」
「それで接触してバーが落ちたら元も子もない。時間とのせめぎ合いよね」
アンジェリーナ王女とそんな話をしているうちに、レイモンドは位置につき、馬を走らせ始めた。
その走りは実に軽やか。日々の練習で走り慣れ、感覚も完璧なのだろう。
バーを認識した馬の反応を見て、レイモンドが手綱を少し緩めた。ここから先は、馬の感性を尊重することが大事になる。騎手は踏み切りのタイミングを、愛馬と共に合わせることが求められるのだ。
今だわ!
踏み込んだ瞬間、馬の前脚が綺麗に持ち上がった。
後ろ脚の弾み具合もいい!
バネのようにしなやかに馬の後ろ脚が動き、騎乗しているレイモンドはその動きに合わせる。さらにレイモンドがやや前傾姿勢になり、絶妙なバランスをとったところで……。
「お見事」「完璧ですね」
馬術教官がそう感想をもらすと同時に、馬の肢はバーギリギリを見事に超えて行く。
タイムロスもなし。バーへの接触もない。
着地も無問題。
しかしここで安堵できても、終わりではない。
このまま次の障害に挑むことになるのだ。つまり連続で障害に挑戦するコンビネーション障害と、次の障害であるオクサー障害が同時進行になる。
オクサー障害は高跳びと幅跳びの合わせ技を披露するようなもの。分かりやすく表現するなら、垂直障害が二つ並んでいるような状態。
馬は高く飛びつつ、遠くへ飛ぶ必要があるので、垂直障害より当然だが、難易度が上がるのだ。しかもコンビネーション障害となるので、垂直障害が終わったと思ったら、すぐに次のオクサー障害が始まる。
「オクサー障害は、手前と奥のバーの高さは共に1.3メートル。でも二つ合わせると幅は1.7メートル。地面の蹴りが重要ですよね」
そう言いながら、アンジェリーナ王女の目線がレイモンドの愛馬を捉える。私はアンジェリーナ王女の言葉を聞きながら、馬の動きを観察。
「蹴りは……力強いわ。推進力は十分でている」
観察の結果、踏み込みに問題なしと判断する。
だがオクサー障害はここからが勝負。
垂直障害と違い、オクサー障害はギリギリの跳躍ではなく、余裕のあるフォームが求められる。きちんと馬は前脚を畳み、後ろ脚は伸ばし、バーへ当たらないように、蹴らないよう注意する必要があった。
「頂点がちゃんと中央に来ましたね」
「ええ。踏切のタイミングは早過ぎず、遅過ぎず、理想的なもの。その結果が美しいフォームを実現しています」
馬術教官達の言う通り。レイモンドの愛馬は、二つ並んだ障害の丁度真ん中で、最も高くジャンプできていた。その結果、綺麗な姿勢でバーを越え、着地の体勢に入っている。
「ここでバランスを崩す馬もいますよね」
アンジェリーナ王女の言葉に頷くも、レイモンドの愛馬にその心配は不要だった。
「王太子殿下の姿勢も完璧なので、馬の動きを邪魔することもない」
「いい着地でしたね。衝撃の吸収も上手かったです」
馬術教官達が思わず拍手を送る。
つまりレイモンドは障害飛越を、文句なしの完成度でクリアした。
お読みいただきありがとうございます!
本日もよろしくお願いいたします☆彡
次話は19時頃公開予定です~














