一味違う王都のバカンスシーズン
ジェラートでなぜかレイモンドとキルリル皇太子が競って以降。
不思議な攻防戦は続く。
九月の学園の入学式まで、キルリル皇太子をもてなす役目は、レイモンド、アンジェリーナ王女、私が国王陛下から請け負った状態。マークも何気に巻き込まれている。
ゆえにこのバカンスシーズンの予定が次々と立っていく。
と言ってもその予定、王侯貴族が日常楽しむようなものとはちょっと違う。
なぜならば。
基本的にこのバカンスシーズン、王都の多くの貴族たちが避暑地へ向かう。つまりは夏でも過ごしやすい土地へ移動してしまうので、王都は閑散とする。オペラや演劇、演奏会の大きな公演は減り、代わりに避暑地の都市で特別公演が行われるのだ。
それでも王族が王都にいるので、宮殿では晩餐会や演奏会などはちょいちょい行う。それに王族も地方までは行かないが、王都郊外の宮殿に数週間滞在。リフレッシュしながら政務を行ったりする。
ということで王都と言えば、華やかなオペラや舞台、演奏会を楽しみにする貴族も多い。だがバカンスシーズンはむしろ地方の方が、そういった娯楽は充実する。
ゆえにキルリル皇太子をもてなす予定も……。
「キルリル皇太子殿下。今日はみんなで馬術を楽しみませんか。まずは令嬢達と共に宮殿の庭園で馬での散歩。その後は令息たちで速歩、駆歩、襲歩、障害飛越、その後は……槍試合の模擬戦など、どうですか?」
速歩・駆歩・襲歩は、馬術における馬の動きの基本になる。
文字通りのスピードによる走らせ方の違いになるが、速歩は通常より勢いよく、リズミカルに走る走法。駆歩は速歩より速度も増し、さらに軽快に走らせることになる。人馬ともにバランスをとりつつ、ダイナミックな動きを求められるのだ。
襲歩は全速力で走るため、瞬間的なとても速いスピードとパワーが必要となる。騎乗者と馬の息が合い、集中力とタイミングが試される走法だった。そして障害飛越は、障害物となるバーなどを、飛び越えることだ。さらに槍試合とは、この世界では通常、騎乗で行う。つまりは馬上槍試合の模擬戦のことになる。
レイモンドが朝食の席でこの提案をすると、国王陛下は「ほう、それは面白そうだ」と言い、キルリル皇太子を見た。
するとキルリル皇太子はアイスブルーの瞳を煌めかせ微笑む。
「いいですね。王太子殿下とはいろいろ手合わせをしたいと思っていました。まずは馬術と槍ですか。私は目隠しをした上で、騎乗の槍の訓練もしていました。よって殿下を楽しませることができるかと」
これを聞いた私は「目隠しをした訓練!?」と声にこそ出さないが、ビックリしてしまう。きっとレイモンドも驚いていると思ったら……。
「なるほど。目隠しですか。奇遇ですね。僕は夜間訓練を行っていました。月明かりや星明りのない、極力闇夜の晩に馬を走らせ、クインテインを使った槍の練習をしていたんですよ」
クインテインは槍の「突く」の訓練に使われる物。的を槍で突くと、的が回転し、砂袋の重りによる攻撃が行われる。これを避けることで、反射神経を鍛えるのだけど……。それを暗闇の中で訓練していたって……!
キルリル皇太子の目隠しに驚いたばかりだが、レイモンドの闇夜のクインテイン訓練にも驚愕してしまう。
「二人ともとんでもない訓練をしているわ。まさに互角では!?」
アンジェリーナ王女がそうこっそり私に耳打ちするが、それには強く同意。模擬戦を行うというが、どちらが勝者になってもおかしくない。そして有言実行とばかりに、早速、朝食後。馬術を楽しむことになった。
レイモンドはスカイブルーの上衣に白のズボン、黒のロングブーツという乗馬服姿で登場。自身の瞳に合せたその姿は完璧だ。愛馬は白馬なので、騎乗したその姿は、王道の王子様。
キルリル皇太子はアイスブルーの上衣に濃紺のズボン、白のロングブーツと、夏らしさを感じる乗馬服姿だった。大変涼し気で見事なコーディネート。母国から連れてきた愛馬は青毛で、騎乗すると、人馬のカラーバランスも大変素晴らしかった。
「自分は馬術、苦手なんですけど……」と参加を渋ったマークは、オーソドックスな黒の乗馬服を着ている。馬術は苦手だが、それでも乗馬は欠かせない。愛馬は栗毛だ。
一方のアンジェリーナ王女と私は、横乗り用の乗馬ドレスを着用していた。
アンジェリーナ王女は、シャーベットピンクのドレスに、白い羽飾りのついた、つば広の帽子。愛馬はレイモンドと同じく白馬。私は水色のグラデーションしているドレスに、白のつば広の帽子で、模造の黄色の薔薇が飾られている。愛馬は黒鹿毛で、その毛色もあり、とても引き締まった美しい馬だ。
「ではまず、庭園を散歩しようか」
レイモンドの一言で、散歩がスタートする。
乗馬での庭園の散歩は、貴族令嬢ならよくやっていること。この際、重要なのは優雅に乗馬を楽しめているか、だ。綺麗な姿勢で、ドレスが映えるように、そして何よりも美しく見えるようにする。それが令嬢に求められる乗馬スタイルだった。
「アンジェリーナ王女もジョーンズ公爵令嬢も、背筋がきちんと伸び、安定していますね。さすが幼い頃より乗馬を嗜まれているだけあります。とても優雅で素敵です」
キルリル皇太子がそう褒めてくれたと思えば、レイモンドも絶賛してくれる。
「リナもアンジェリーナも。僕と一緒に四歳の頃から乗馬の練習をしている。だから乗馬はどの令嬢よりも完璧であり、エレガント。何よりも馬と心を通わせているから、無理がない。馬もとても気持ちよさそうに散歩している。二人にはギャラリーの気分も弾ませるような、華やかさがあると思うな」
ここまでの賛辞をレイモンドが口にすると、マークはどうしていいか分からない。「お、お二人ともとても上手です。安心して眺められます」と言うので精一杯。だがキルリル皇太子とレイモンドは、競うようにこれまたアンジェリーナ王女と私を褒めてくれて……。まさに褒め殺し状態で、庭園の散歩は何とか終了。
令息たちの馬術の披露の時間となった。
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