表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は死ぬことにした  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/122

いつも甘い香りがする

「僕を信じて、リナ。僕は君のナイトでありたいと思う。この気持ちは絶対に変わらないから」


 そう言って微笑み、あのえくぼを見せてくれたレイモンドに。胸は高鳴り、その言葉を信じてみようと思った。


 信じないより、信じた方が、これからの時を楽しく生きれる。


 そう考えることにしたのだ。


 それでも。


『……ジョーンズ公爵令嬢。君は死罪相当であり、次の日曜日。宮殿前広場で絞首刑に処す』


 乙女ゲームで耳にしたレイモンドのセリフを頭の中で、何度も反芻することになる。


 そうやって時は流れ──。


 頰に優しく触れる指の感触。


 鳥のさえずりが聞こえ、気持ちのいい風を感じる。


 ゆっくり目を開けると、五月の陽光が緑の木々の隙間から射し込み──。


「リナ、またこんなところで昼寝? 無防備だな。公爵令嬢であり、僕の婚約者なのに」


 木漏れ日を受け、輝くブロンド。サラサラの前髪の下には形のいい眉、そして長いまつ毛。そして私を見つめる澄み切った碧い瞳。


 透明感のある肌に、血色のいい頬。通った鼻筋の下の、ほんのり桜色の唇。そして微笑みの顔に浮かぶえくぼ。


 あれから10年以上が経ち、レイモンドは前世で私の知る王道王太子、ヒロインの攻略対象そのままの美しい姿に成長していた。


 長身で細身だけど、それは無駄を削ぎ落とした結果であり、毎朝の剣術と乗馬の訓練で、しっかり筋肉もついている。


 スラリとした長い脚は、どんな服を着ても様になった。


 今は白シャツに水色のストライプのベスト、無地の紺色のズボンとラフな装いだが、とても似合っていた。


「無防備……。そうかしら? だってここは王宮の、さらに奥にあるプライベートガーデンよ。ここに出入り出来るのは、王家の人間だけ。……まさかレイが私を殺すの?」


 レイモンドのことを“レイ”とニックネームで呼び、王宮のそんな奥深くに私がいる理由。それは五歳から私が王宮暮らしをしているから。


 日曜日に始まった王族とのブランチ。それは私が王宮暮らしを始めるための足掛かりだった。つまりは乙女ゲームの仕掛けたトラップだったわけだ。


 しっかり絡めとられ、家族と離れて王宮で暮らすようになると、王太子妃教育が始まった。


 王太子妃教育は、とても厳しく大変なもの。それを耐えることが出来たのは……レイモンドの支えがあったからだ。


 私を守り、大切にする、ナイトになると誓ったレイモンドは、有言実行だった。


 そんなレイモンドは今の私の言葉を聞くと……。

 とても真面目な表情になる。


「リナ。冗談でもそんな恐ろしいことは言わないで。僕が君を……そんなこと絶対にしない。リナのいない世界で、僕は生きていけない」


 これから四ヶ月後。


 王立アルデバラン学園にレイモンドと私は入学する。宰相の息子であるマークも。隣国の皇太子も留学し、入学することが決まっている。そしてヒロインも……。


 乙女ゲーム『ハッピーエンドを君の手に』(通称“ハピエン”)の全キャストが揃うわけだ。


「リナ、聞いているの?」


 レイモンドが木陰の下、仰向けになっている私の顔を覗き込む。


 端正な顔立ちがいきなり近過ぎて、私は慌てて起き上がろうとするが。


「せっかくリナを見つけたんだ。もう少しこうしていよう」


 隣に腰を下ろしていたレイモンドは、そのまま私を腕枕すると、自身も芝生の上に横たわる。


 心臓がトクトクと忙しない。


 こんな風に芝生で横になっても。


 少し離れた場所にはレイモンドの近衛騎士もいれば、私の侍女も控えている。だからいつもここまで。


 レイモンドに腕枕され、その腕は私の体を少しだけ抱き寄せているけど。


 ぎゅっとすることはない。


 婚約をしていても、まだ未婚であり、十六歳になったばかり。抱きしめてキスをするとかその先とかは絶対になかった。


 この国の由緒正しい王太子として、レイモンドもそれ以上を求めることはない。


 そうだと分かっていても。


 レイモンドはとても素敵なのだ。

 どうしたってドキドキしてしまう。


 この鼓動がレイモンドにバレてしまわないように尋ねる。


「それで剣術の試験は上手く行ったの?」


「それは勿論、合格。これでマスターまで昇格したから、試験はおしまい。後は経験を積んで、ソードマスターの指導を受け、お墨付きをもらえたら……次はソードアドバンスに昇格だ。これで日曜日が剣術試験で潰れることはなくなる」


 そう言うと不意にレイモンドが私の髪に触れるので、ドキッとしてしまうと。


「リナは十六歳になって、背も髪も伸びて、とっても麗しい令嬢(レディ)になったのに。こんなところにクッキーのカケラをつけている」


「! 本当だわ。どうりで甘い香りがすると思ったの」


「クッキーの香り? 違うと思うな。リナからはいつも甘い香りがする」


 それは突然のことで、もう心臓が止まりそうになる。


 こんなに接近したのは、初めてのことだった。

 私から甘い香りがすると言ったレイモンドは、自身の鼻を私の鼻の頭に近づけたのだ!


 この事態にクッキーの甘い香りは吹き飛び、代わりにさっぱりとしたグレープフルーツのような香りを知覚する。


 多分、剣術の試験を終え、シャワー浴びたレイモンドが使った石鹸の香りだ!


 側から見たら、私たちはとても仲睦まじく見えるだろう。


 婚約破棄を諦めた結果。


 レイモンドとの距離はどんどん近づく。

 もはや婚約破棄なんてされないのでは?

 断罪なんてないのでは?

 そう思ってしまうぐらい。


 そして実感する。


 人間とは平和な状況で、危機意識を維持し続けるのは難しいのだと。


 再び生存のために私が動き出すのは……学園に入学してからだった。

お読みいただきありがとうございます!

次話は明日の7時頃公開予定です~

ブックマーク登録してぜひお待ちくださいませ☆彡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一番星キラリの作品を紹介】
作品数が多いため、最新作を中心にバナーを並べています(2025年12月の大掃除で・笑)。 バナーがない作品は、作者マイページタイトルで検索でご覧くださいませ☆彡

●紙書籍&電子のコミカライズ化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~
『悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~ 』

●溺愛は求めていませんよ?●
バナークリックORタップで目次ページ
平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!
『平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!』

●出版社特設サイトはコチラ●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!
80ページが試し読みできる特設サイトへ
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!』


●壮大なざまぁを仕掛けます!●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』

●章ごとに読み切り!●
バナークリックORタップで目次ページ
ドアマット悪役令嬢~ドン底まで落ちたらハピエンでした!~
『ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~』

●商業化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢はやられる前にやることにした
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』

●もふもふも登場!●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で自ら婚約破棄シリーズ
『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』
日間恋愛異世界転ランキング3位!

●コミカライズ化も決定●
バナークリックORタップで書報ページへ
断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない
ノベライズは発売中!電子書籍限定書き下ろし付き
『断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない』


●心温まる物語●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は我が道を行く~婚約破棄と断罪回避は成功です~
『悪役令嬢は我が道を行く~婚約破棄と断罪回避は成功です~』は勿論ハッピーエンド!

●[四半期]推理(文芸)2位●
バナークリックORタップで目次ページ
悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~
『悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~』

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ