永遠ではない
レイモンドから差し出された木箱は、父親が手に取り、蓋を開け、私に中が見えるようにしてくれる。
覗き込むとそこには……。
「これはリナが作っていたボトルシップでは!?」
父親はそう言うと木箱からボトルシップを取り出した。
昨日、完成するはずだったボトルシップ。でも最後、力加減と引く向きを微妙に間違え、ヤードが変な方向を向き、マストも傾いた。
「!? リナ、見てご覧! マストが元に戻っている。ヤードも、ちゃんとバランスがとれているじゃないか。帆も綺麗にピンと張られている!」
「まあ、これがリナが作ったボトルシップなの!? すごいわ!」
母親が感嘆の声をあげる。
私はというと、何が起きたのかと目をぱちくりしてしまう。
「僕の方で……勝手に直してしまいました。その……初めてボトルシップを作るリナが手直しするには、かなり難しいと思って……。リナに許可をとらず、ごめんなさい」
「! そんな! 殿下、厚意で直してくださったのです。しかも初心者では難しい作業。リナでは直せなかったでしょう」
そう言うと父親が私の顔を覗き込む。
「リナ。殿下に直してもらえて、嬉しいだろう? 昨晩あれだけ泣くほど、悲しかったんだ。ちゃんと元通りに、元よりさらによくなった。良かっただろう、リナ?」
父親に問われるまでもない。
「とっても、とってもうれしいでしゅよ。でんか、ありがとうございましゅ!」
そこは間もなく四歳児の体が勝手に動いていた。
ソファからぴょこんと絨毯に降りると、スタスタとレイモンドに駆け寄り、その体にぎゅっと抱きついていたのだ!
「まあ」「おや!」
両親はこの様子を見ると、示し合わせ「二人で話したいだろう」と退出してしまう。
一方のレイモンドは私をぎゅっと抱きしめ「リナが喜んでくれてよかった」とささやく。
ゆっくり体を離すと、レイモンドははにかむように笑い、私にソファに座るよう促す。
素直に従い、私は腰を下ろしていた。
「婚約をはきしよう」
てっきりそう言われると思ったら。
まさかの私の失敗をリカバリーしてくれていたなんて。
そこで気づく。
レイモンドの目の下のクマ。
疲れた表情。
きっと彼は徹夜も同然で直してくれたのでは?と。
「でんかは……ねないでなおしてくれたの?」
「……眠るつもりだった。でも僕が不器用で、時間がかかってしまった。ただ、昼寝はしたから大丈夫だよ」
そう言って笑うし、あのえくぼも見せてくれるけど。レイモンドはとても疲れていると思った。そんな姿を見た私は思わず尋ねていた。
「でんかはどうしてリナにやさしいの?」
「え!?」
「リナがでんかのこんやくしゃだからやさしいの?」
そんなことを問われると思わず、レイモンドはビックリしている。でも柔和な笑顔になると……。
「リナは僕の婚約者というのはその通りだよ。婚約者だから……と言われてしまうと……。僕はそういうつもりではなく……。なんと言えばいいのかな」
そこでレイモンドは真剣な表情で考え込み、そして――。
「リナは……僕にとって特別なんだ。僕がしょうがいかけ、大切にして守りたいレディだから。そうしようと意識しているわけではないんだよ。リナの笑顔をみたいと思ったら、自然と行動している感じかな」
間もなく四歳児とは思えないレイモンドの言葉に。
中身アラサーの私は感動で胸が震えている。
レイモンドは……今のレイモンドは本当にリナを好きなんだ。一途にリナのことを愛し、守りたいと思ってくれている。
だからこそ。
彼が将来、ヒロインを前にして豹変することを思うと……胸が苦しくなる。
私はアラサーだから知っている。
どんなに愛し合う二人でも。
それが永遠ではないことも。
おしどり夫婦として知られた二人が破局する報道を前世では沢山見てきた。
レイモンドは今は、生涯をかけ、守りたいと思ってくれているけれど……。
それは本当に『今』だけのこと。
『未来』で彼が一生そばにいて大切にしたいと思うのは……ヒロインなのだ。
ここはヒロインのための王太子攻略ルートの世界。レイモンドのリナへの気持ちは永遠にはなりえない。
「リナ、どうしたの!? そんなに悲しい顔をして。……もしかして」
そこで言葉を切ったレイモンドは私の手をぎゅっと握りしめる。
「僕を信じて、リナ。僕は君のナイトでありたいと思う。この気持ちは絶対に変わらないから」
お読みいただきありがとうございます!
次話は20時頃公開予定です~
【併読されている読者様へのお知らせ】
本編完結、読み切り番外編3話を更新
『私の白い結婚』
https://ncode.syosetu.com/n9568jp/
やっぱり兄貴は愛すべきいい奴です~
ページ下部に目次ページへ遷移するバナーが
ございます。
くすりと笑いに来てくださいませ☆彡






















































