夏の離宮(7)
ティータイムはゴンドラを使った勝負が行われ、それも引き分けで終わった。
いよいよ夏の離宮での滞在はお終いで、宮殿へ、王宮に戻ることになる。そうなったら本当に、バカンスシーズンが終わってしまう。そして王立アルデバラン学園に入学し、婚約破棄と断罪の時に向け、走り出すことになる……。
そんな少し気分が沈む中での夕食だった。
すると夕食の席でキルリル皇太子がこんな提案をする。
「今日はこちらの離宮での滞在最終日です。今宵、レイモンド王太子殿下。最後の勝負をしませんか?」
「いいですよ。この夏を締めくくる勝負をしましょう」
「ふむ。レイモンドとキルリル皇太子殿下は、仲が良く、そして切磋琢磨の勝負をしているのだな。良きこと、良きこと」
国王陛下はニコニコしているけれど……。
まさかまだ勝負をするなんて!
これにはビックリしてしまう。
「最後なので、ここにいる皆さんを楽しませた方が勝ちでどうでしょうか?」
「ええ。それで構いませんよ、キルリル皇太子殿下。ジャッジは明日の朝食の席で」
そこで視線を交わしたキルリル皇太子とレイモンドだったが、皇太子はすぐに私達の方へそのアイスブルーの瞳を向ける。
「実は、皆様を楽しませようと、持参しているものがございます。よろしければこの食事の後、バルコニーに出ていただけますか」
キルリル皇太子のこの言葉には驚くしかない。どうやらレイモンドに勝負を挑んだが、既に皇太子は準備万端だったことになる。
だが勝負を受けてしまったのだ。
レイモンドはどうするのだろう……。
そう思っている間に食後のコーヒーが到着し、クッキーをいただくことになった。
レイモンドは自身の従者に何やら耳打ちをしている。しかしすぐに従者は「分かりました」とダイニングルームを出て行く。
しばらくはコーヒーとクッキーを楽しみ、そこではこの離宮での思い出話で盛り上がる。
初日のチョウの勝負は、国王陛下夫妻も自室の窓から見ることになったという。「あんなに一斉にチョウが飛び立つのは初めて見たのう。感動したぞ」と国王陛下。「でもやはりお肉の勝負もよかったですわよね。ギュウタンは大変美味しかったわ」と王妃殿下。アンジェリーナ王女は今日のマークのゴンドラの件を話し、それを聞いた国王陛下は「ほお。マーク。やるではないか」と褒めている。
そんな談笑が終わると、キルリル皇太子に言われた通り、皆、バルコニーへと向かう。
バルコニーは沢山あるが、一つ一つはそう大きくはない。自然と、国王陛下夫妻、アンジェリーナ王女とマーク、そしてレイモンド、キルリル皇太子、私の三人で、バルコニーに出ることになった。
「では、始め!」
キルリル皇太子の声が凛と響く。すると……。
ヒュ~という音が聞こえる。
この音、私には聞き覚えがあり、かつ懐かしい音だった。
もしやと思った瞬間。
ドンという音に続き、バチバチバチという音が響き渡る。
「あっ」という声を皆が発した瞬間。
夜空に大輪の花火が花開く。
「これは……花火、ですよね。初めて見ました。こんな花火は」
レイモンドの瞳は次々と打ち上げられる花火に釘付けになっている。
「ええ。この花火は大陸のものではないのです。東方の舶来品の花火。私達の知る花火とは全く違います」
そう、そうなのだ!
これは懐かしい、前世の花火だった。
日本の伝統的な花火と欧米の花火は全く違う。
今、目の前で打ち上げられている花火。
それは昭和の夏空を彩ったような、菊や牡丹を思わせる白や金色の花火だった。
「数はそう手に入らなかったので、これが最後ですが、とても印象深い花火だと聞いています」
キルリル皇太子がそう言うのと同時に打ち上がった花火は……。
それは柳花火!
金色の花火が、しだれ柳のように空からゆっくり振り落ちる。その軌跡はこの世界の花火と違い、ゆったりと深い余韻を残すもの。これを見た国王陛下夫妻、アンジェリーナ王女とマーク、そしてレイモンドと私も。無言でその壮大な美しさに酔いしれる。
火の粉が完全に夜空から消えた時の切ない感じ。
まさに夏の終わりとシンクロし、郷愁を誘う。
「これはお見事であった、キルリル皇太子殿下……」
国王陛下のこの言葉が、みんなの気持ちをまさに代弁していた。
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