夏の離宮(3)
「なんと。リナが自ら肉を焼くのか!?」
「お料理ができるなんて、リナはすごいわね」
国王陛下夫妻は、ランチの席で私が肉を焼くと申し出ると、驚いたが、興味津々という顔をしている。
「はい、国王陛下、王妃殿下、私が肉を焼きます。これは余興と思い、お楽しみいただければ」
「ジョーンズ公爵令嬢がこの各種のソースを考案したとお聞きしたのですが」
キルリル皇太子のアイスブルーの瞳がキラキラと煌めいていた。
何かと彼とは食の話題で盛り上がっている。皇太子は食べることが大好きで、間違いない! さらに好奇心旺盛で、私のこうすると美味しいという発案もすぐ試してくれるのだ。そんなキルリル皇太子だからこそ、私が用意したタレの数々には興味津々だった。
「お義姉様、すでにこのソースだけでも、美味しそうな香りがしていますわ!」
「見たことのない肉の部位がありますね。これは楽しみですね」
アンジェリーナ王女とマークは、待ちきれないという顔になっている。
「リナがお肉を焼くと言うのなら、これは僕が手伝わないと。これでも狩りをした時、獲物を捌いたり、下処理を手伝ったり。騎士の訓練の一環で、料理もやったことがある。だから」
「レイ。あなたが器用なこと、分かっているわ。鉄板は大きく、お肉も沢山あるの。ぜひ手伝ってください!」
私の言葉にレイモンドは喜び、セレストブルーのスーツにエプロンをつける。私もアイリス色のワンピースにエプロンをつけ、準備万端だ。すると。
「レイモンド王太子殿下が手伝うと言うなら、私も手伝います!」
キルリル皇太子が授業中のように、スッとまっすぐ手を挙げた。
「え、キルリル皇太子殿下は、お料理の経験は……」
「ありますよ! レイモンド王太子殿下と同じで、騎士の訓練に参加した際、野営も経験しているんです。狩りをしたり、魚を釣ったり。獲物を調理したこともあります」
しみじみ思う。
レイモンドもキルリル皇太子も。
王太子と皇太子なのに。
なんでもできるのだと!
「分かりました。ではキルリル皇太子殿下もお手伝い、お願いします!」
こうしてキルリル皇太子も、明るいグレーのセットアップにエプロンをつける。
なんだか三人で調理実習をするみたいで、不思議!
「では最初に、さっぱりといただく、牛タンから焼きます。これは焼く時間が短いので、お皿にのせたら、すぐに用意しているレモン汁につけ、岩塩をかけて召し上がってください。二枚目は、オリーブオイルをつけ、黒胡椒と岩塩で。三枚目はネギ塩タレで味わってみてください。四枚目以降は、気に入ったタレで召し上がってみてください」
まずは牛タンのタレについて説明。
続いて焼き担当になるキルリル皇太子とレイモンドにも牛タンの極意を伝授する。
「薄くスライスされているのと、鉄板は既に熱せられているので、短時間で焼くことが重要です。置いた瞬間『ジュッ』と音がすると思います。そこから数十秒で裏返し、反対の面も焼く。コツは強火で手早く焼く、です。焼きすぎると、せっかくの柔らかいお肉が硬くなり、美味しさが半減するので注意してください。まずはお手本です」
そこで私が焼き奉行として、手早く牛タンを焼いてみせる。
「国王陛下、どうぞ、お召し上がりください」
「おおお、もう焼けたのか。すぐに食べられていいのう」
そこで国王陛下は私のレクチャー通り、レモン汁と岩塩で牛タンを食べると……。
「!? これは……! こんなに美味しい肉、久方ぶりに食べた。さっぱりしており、柔らかく、肉の味わいが……リナ、そなたはもしや宮廷料理人を目指していたのか!?」
「ありがとうございます、国王陛下。このお肉もソースも宮廷料理人の皆様が用意くださったものです」
「だがこの組み合わせはリナが考案したのだろう? どれ、次のオリーブオイルと黒胡椒と岩塩も試したい!」
「かしこまりました」と応じ、レイモンドとキルリル皇太子を見ると、二人は「心得ました!」という顔になっている。つまり私が焼くのを見て、加減など理解したようだ。
こうなると三人で肉を焼くので、国王陛下だけではなく、王妃殿下やアンジェリーナ王女とマークにも、牛タンを提供できる。
「まあ、なんて美味しいのかしら! レモン汁と岩塩が一番だと思ったけれど、このネギ塩ソースもとっても合うわ!」
王妃殿下が絶賛すればアンジェリーナ王女とマークは……。
「私はオリーブオイルと黒胡椒と岩塩が気に入ったわ! もしかしてトリュフをかけてもいいのでは!?」
「自分は断然、レモン汁と岩塩ですね!」
「リナ、こちらの肉も早く食べてみたい」
国王陛下はもう手が止まらなくなっている!
こうして私が考案した焼肉は大盛況で、厨房では宮廷料理人のみんなも残ったお肉でそれぞれのタレで味わい「今後、この焼肉を王家の皆様の定番メニューに追加します!」となった。
牛タンから始まり、ハラミ、サーロイン、ロース、カルビ、ミスジとひとしきり食べると、国王陛下夫妻もアンジェリーナ王女とマークも大満足になってくれた。
するとレイモンドとキルリル皇太子はこんなことを言い出す。
「僕がリナのために牛タンを焼くから、食べて、リナ!」
「ジョーンズ公爵令嬢、私がハラミを焼くので、ぜひ召し上がってください!」
二人ともすっかり焼き奉行になり、私のために次々と肉を焼いてくれるけれど……。
「リナ、僕の焼いた牛タンとサーロイン、そしてカルビ。これが一番美味しかったよね!?」
「ジョーンズ公爵令嬢、私の焼いたハラミ、ロース、ミスジ。最高だと思いませんか!」
レイモンドとキルリル皇太子は自分の焼いた肉を一番にして欲しいとその瞳をキラキラさせるから……。
ここはもうこうなる!
「お二人とも、肉の焼き方はパーフェクトです。勝敗はつけられません! ですが御礼に、私が二人にお肉を焼きます!」
「お義姉様、私も手伝うわ!」
「自分も手伝います!」
アンジェリーナ王女とマークもなんと焼き奉行に挑戦し……。
この日のランチは大いに盛り上がることになった。
お読みいただき、ありがとうございます!
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