夏の離宮(2)
夏の離宮にやってきて、いきなりチョウで勝負をしたキルリル皇太子とレイモンド。
もはや何でも勝負の題材になるようだ。
庭園の花を摘み、二人が作ったフラワーアレンジメント。そんなことも出来るのかと感動し、これまた勝敗をつけられない。
レイモンドの碧い花をアレンジした花束は、夏らしくとても爽やか! キルリル皇太子のアレンジメントは、ヒマワリを中心に夏の思い出を束ねたようなアレンジメント。どちらも素晴らしく、選ぶことなんて出来なかったのだ。
アンジェリーナ王女とマークに聞くと……。
「私はキルリル皇太子の元気いっぱいのアレジメントがいいわ!」
「自分は王太子殿下一択です!」
そして私が勝敗をつけられないから、やはり引き分けになってしまう。
すると……。
「では次は森の中で食べられる物を集めましょうか」
そんな提案をキルリル皇太子がすると、レイモンドは「ええ、いいですよ」と応じる。
翌日二人が森で採取したフルーツは、その日の夜のディナーに登場。国王陛下夫妻も食べたが、やっぱり引き分けになってしまう。ということで二人の勝負は続くが、甲乙つけがたく、引き分けになってしまうのだ。
そして滞在三日目のこの日。
ランチは、テラスでバーベキューとなっていた。
前世でバーベキューというと、河原やキャンプなどアウトドアで、みんなでワイワイ楽しむイメージがある。
だが今回バーベキューをやるのは王族なのだ。
テラスに鉄板など用意されるが、肉や魚を焼くのは、宮廷料理人!
当然だけど、王族の旅には専用の料理人が同行しているからだ。
でも私として、前世のあのワイワイお肉を焼くバーベキューが楽しかった思い出がある。そこで宮廷料理人に相談して、その場で焼くお肉を用意してもらうことにした。私が焼き奉行となり、焼肉を楽しむことにしたのだ!
さらに、あの懐かしの焼肉のタレを再現出来ないか。前世の記憶を呼び覚まし、タレのレシピを考案した。
この世界にある材料で作る焼肉のタレは、赤ワインとワインビネガーを使う。そこにピューレにしたマッシュルームと少量のアンチョビソースを加え、旨味とする。さらに風味を出すために、すりおろしたニンニク、ブラックペッパー、タイム、クローブなどのハーブも投入。マスタード、塩で味を整えるというものだ。
「ジョーンズ公爵令嬢、なかなか斬新なレシピですね! 早速試してみましょう」
こうして宮廷料理人が私のレシピに従い、焼肉のタレを作ってくれたのだけど……。
大変美味しいものが出来た!
「これは……お肉につけて食べたくなります。ジョーンズ公爵令嬢、このタレ、今後の王家の皆様のお料理に活用してもいいでしょうか!」
まさかそこまで気に入ってもらえると思わず「ぜひどうぞ!」と快諾。
「それと普段は活用することのない牛タンなのですが……」
「ギュウタン、ですか……?」
夏の離宮がある場所も一応王都なのだけど、もはや王都とは思えない程、宮殿がある中心部からは離れている。よって今回、王族とキルリル皇太子やマークや私が来るということで、牛を一頭使い、昼食と夕食を作ると聞いていた。そこで前世ではお馴染みの牛タンを食べたいと思い、宮廷料理人の皆さんにリクエストしてみたのだ。
この世界、牛タンを食べる食文化はまだない。よって私の申し出にはびっくりだったが、スライスして用意してくれることになった。
「そのギュウタンも、先程のソースで召し上がる予定ですか?」
「いえ。牛タンにはレモン汁をつけ、岩塩をふりかけ食べる予定です。……黒胡椒をふりかけたり、あ、オリーブオイルをかけてもいいかもしれません。黒胡椒とオリーブオイルに岩塩」
「なるほど。レモン汁と岩塩はさっぱり。オリーブオイル、黒胡椒、そして岩塩だと味わい深くなりそうですね。分かりました。レモン汁なども含め、ご用意いたします」
そこで私はゴマ油がないので無理かなぁと思いつつ、牛タンと言えばのネギ塩ダレが作れないか、相談して見ると……。
「そうですね。我々で用意できる材料を使うなら、刻んだネギ、レモン汁、塩、ニンニク、黒胡椒……そこにコンソメスープを加えると……ジョーンズ公爵令嬢がお望みのソースに近くなるかもしれません」
「! それはイメージに近いと思います。それもご用意いただいても……」
「勿論ですよ。ジョーンズ公爵令嬢のリクエストは我々の発想にはないものなので、大変なチャレンジです。勉強させていただきます!」
宮廷料理人が協力的なので、私の焼肉計画は成功の予感しかしない。
「あ、お義姉様、そこにいらしたのですか! またお兄様とキルリル皇太子が勝負をはじめるようなんです」
「え、今度は何を!?」
「シャボン玉の大きさや持続時間を競うみたいです」
もう二人は本当に。
なんだか子供みたいだと思いながら、私はアンジェリーナ王女と共に、庭園へと向かった。
そしてこの勝負。
シャボン玉なんて運勝負かと思ったら違う!
巧みな技があるようで、レイモンドもキルリル皇太子も妙技を披露してくれる。
当然勝敗は……つかなかった……!
お読みいただき、ありがとうございます~
ヒロイン登場前の夏の離宮では、ほっこり時間が流れています。
でもこれがまさに嵐の前の静けさであることは……皆様、既に本編をお読みなのでご存知かと!
しばし平和な夏時間をお楽しみくださいませ(*´꒳`*)♡