どこで見つけたの!?
ベッドにぽすっと腰掛けたレイモンドは、再び私の手をとり、話を続ける。
「あの魔女、リナを断罪するために、とんでもない話をでっち上げようとしていたんだ」
そう言うとレイモンドは、スーツの上衣の胸ポケットから、何かを取り出す。そして握っていた私の手を持ち上げ、そこにその何かを載せた。
私はレイモンドの手が離れ、手の平に載せられたものを目にして――。
「レイ、このボトルシップ、どこで見つけたの!?」
「魔女が持っていた」
「……ソフィー嬢が……?」
なぜソフィーがレイモンドのくれたミニチュアサイズのボトルシップを持っていたの……?
「あ、もしかしてカフェルームで落としたのを拾ってくれていたのかしら!?」
「違うよ、リナ。君は本当に、人の悪意に鈍感過ぎる」
レイモンドがツンと私の額を押すので、ドキッとしてしまう。
「盗んだんだよ、リナの鞄から。チャリティーバザーの時、荷物をまとめて置いていただろう? その時にこっそり、魔女は盗み出していた」
「レイモンドの手作りだから、欲しかったのかしら?」
「違うよ。これを証拠にしようとしたんだ。断罪理由の」
これにはどういうことかと首を傾げることになる。
「郊外学習で、魔女と僕は洋館の地下に落ちることになった。その理由はウサギを追って洋館に来たからとなっていただろう?」
その通りなのでコクリと頷く。
「あの魔女はそれを覆すことにしたんだ」
「覆す……?」
「そう。ジョーンズ公爵令嬢に脅され、真実を話せなかった。実はあの洋館に行くことになったのは、ジョーンズ公爵令嬢のせいです……と主張すると、あの魔女は言い出したんだ」
これにはもう開いた口が塞がらない。
ソフィーは……ヒロインなのに、なんでそんなことをと思うが。「この世界は全力で私のハッピーエンドを待っているんです。悪役令嬢は潔く散ってください!」と平気で言うような、自己中な人間だったのだ。ゆえに私を断罪するためのでっち上げも……堂々とする気満々だった。しかも自身を魔女であるとレイモンドに信じ込ませ、従えていたのだ。断罪理由をでっち上げることも、レイモンドに話したと言うのだから……。
もはや呆れて何も言えない。
「ウサギを追ったわけではない。僕に好意を抱いていると知ったジョーンズ公爵令嬢から『これはレイモンドの手作りの品よ。欲しいならあげる。ただし、洋館の肖像画の前に置いておくわ。明日の郊外学習で洋館を見つけたら、向かってみるといいわ』と言われた――そう主張すると、あの魔女は言い出したんだ」
まさかボトルシップを盗み、そんな悪巧みのために、利用しようとしていたなんて……!
「それだけではないんだ。断罪するために、『自分は殺されかけたんです! 地下へ落とされて。しかも心配して駆けつけた王太子殿下まで、大怪我をするところだったんです! 怪我こそしませんでしたが、殿下は記憶を一部失いました。あれは事故ではなく、ジョーンズ公爵令嬢による殺人未遂です』と言うつもりだったんだよ、あの魔女は。『男爵令嬢と王太子の暗殺未遂なら、絞首刑で決定ね』と笑った時は……剣に手を伸ばしそうになったよ」
レイモンドが剣を……!
彼の怒りの深さを感じてしまう。
剣術を習い、マスターの称号まで得ているレイモンドは「武器としての剣のすごさを分かっているから、丸腰の相手に剣を振るうことは……相手が余程の悪党でないとできないな」と言っていたのだ。そんな彼が剣を手に取りたいと思ったということは……ソフィーは相当な悪党と、レイモンドに認定されたことになる。
それにしてもシナリオに忠実であろうとするソフィーにはゾッとするしかない。私は何もしていないのだから、せめて婚約破棄で済ませてくれればいいのに……。
「ソフィー嬢がこのボトルシップを使い、私を断罪しようとしていたこと。それはよく分かったわ。それに私の想像以上に恐ろしい令嬢であった……背筋が凍りそう」
そこで一旦言葉を切り、尋ねる。
「ソフィーはそんな恐ろしい断罪を考え、レイは……? その断罪をあのパーティーの場で口にするつもりだったの……?」
「そんな断罪、口にするわけないよ! 僕がリナをそんなでっち上げの罪で断罪するなんて、あり得ない。僕は……こんな風にするつもりだった。『リナ・アンジェラ・ジョーンズ公爵令嬢。君との婚約の件だけど、これは破棄させてもらう。さらに僕の婚約者なのに、最近、一緒にいる時間が少なかったこと。これを罪として断罪する』と」
婚約を破棄する……。それは文字通り理解できるもの。でも断罪が……甘くはない?
「これには続きがある。『婚約は破棄する。代わりにリナ。僕と結婚しよう。一年後、式を挙げよう。そして断罪に対する刑は、その生涯を僕の側で生きることを命じる』ってね」
「……! レイ、それは……!」
「あの魔女に確認したが、『婚約破棄をすればいいの。断罪は何でもいいわ。とにかく罪に問えばいいから!』という答えだった。だからこれでもいいのではないかと考えた。それでももしものことがある。呪いの成就条件がリナの死だったら?と。でも僕はリナを死なせるつもりはない。だからリナが手に入れるはずの劇毒を、一時的な仮死状態を引き起こす薬に変えてもらっていたんだ。はずれ修道士に頼んでね」
お読みいただきありがとうございます!
ミニチュアサイズのボトルシップ。
悪用されかけましたが、リナの手元に戻ることに!
よかったね、リナ~(パチ、パチ拍手☆)
次話は明日の13時頃公開予定です~
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