中二病……?
王家に伝わる機密事項を知っていた上に、自身がインフェルノ・ルビーに封じられた魔女の末裔と言い出したソフィー。
これは……完全にヒロインの暴走ではないのか。
インフェルノ・ルビーの話は、確かに乙女ゲームに登場している。うろ覚えだが、何かのイベントの際、この話が紹介されていたはず。よって王族でもないのにソフィーが知っているのは、私からすると特に驚きではない。が、レイモンドは違う。
なぜそんな機密をソフィーが知っているのか、さらにソフィーが魔女の末裔!?と、困惑することになる。
「王家に伝わる話とはいえ、何百年も昔の話だ。にわかにあの女の話を信じるわけにはいかない。でもあの女はこんな風に言った。『私の先祖はインフェルノ・ルビーに封じられたけど、私はそんなヘマはしません。レイモンド王太子殿下が私を選ばないと、ジョーンズ公爵令嬢は死にます』と。そして『近日中に殿下には公爵令嬢と離れ離れになる事件が起きます。それこそ魔女の呪いの一部に過ぎません。愛する令嬢が地獄の業火で焼かれたくないのなら、私を選ぶことですね』なんて言うんだ」
私は思う。
ソフィーは前世で中二病を拗らせたまま、この世界に転移したのか?と。よくまあそんな話を真剣に言えたと驚きながら、リンゴを食べ終える。
「さらに『公爵令嬢には呪いをかけてあります。殿下が婚約破棄をして、断罪しない限り。彼女は死の運命から逃れることができません。……信じるか信じないか。それは殿下次第ですが』なんてことまで言い出した。正直、かなり困惑することになった」
ソフィーは中二病を拗らせ、さらに都市伝説マニアだったのか。
というか、乙女ゲームのシナリオの流れ=婚約破棄を、自身を魔女だと称することで、必要なものだと主張した。しかも悪役令嬢である私に求められる役割=断罪による死を、呪いと説明するとは……。
無茶苦茶だが、インフェルノ・ルビーは確かに存在し、王族の一員であるレイモンドとしては、真っ向から信じないわけにもいかない。これはもう混沌! レイモンドが大変困惑したことは、容易に想像できる。
「無視するかどうか悩んでいたら、王宮で火事が起きた。あの女は『愛する令嬢が地獄の業火で焼かれたくないのなら』と言っていたが、一歩間違えればリナはマークと同じように、大火傷を負っていたかもしれないんだ。リナとアンジェリーナの部屋は全焼していたのだから。そうなると、荒唐無稽に思えたあの女の言葉を、放置できなくなった」
まさかあの王宮の火災は、乙女ゲームのイベントだったのかしら? 私がこの世界に転生した後、そんなイベントが追加されたの……? だから後から転移したソフィーは、地獄の業火という言い回しで、火災を示唆できたということ?
それとも火災が起きることは分からず、ただ単にレイモンドがソフィーを選ばなければ、私がシナリオの抑止力で不幸になることを、婉曲な言い回しで言ったのかしら?
王宮の火災は偶然だった……。もしくはこの世界がヒロインの言葉を後押しした、か。
「しかもあの女は火事の翌日に『ねえ、私の言った通りだったでしょう。呪いはね、かけた本人でもどうすることもできないの。呪った瞬間から、呪いは私の手元を離れてしまった。呪いをかけた本人でもお手上げなの。こぼれたミルクを元に戻せないようにね』と僕に告げたんだ」
ともかく火災を上手く利用したソフィーは、自身が魔女の末裔であり、私に呪いをかけていると、レイモンドに信じ込ませることに成功した。さらにその呪いを解くには、婚約破棄と断罪など、そのすべてが実行されるしかない――そうソフィーは言い切ったという。
呪いをかけたソフィー本人でも、呪いは解けない。だが婚約破棄や断罪、それらが行われれば、呪いは解けると言うのだ。
「リナを死なせるわけにはいかない。そのためには僕が婚約破棄をして、断罪する必要があった。そんなこと、したくない。でもそうしないとリナが死んでしまうと思い……僕は行動することになった」
ソフィーが用意周到だったのは、この呪いの件を本人が知れば、私の死期が早まると言ってのけたのだ。それだけではない。呪いを知る人間が増えれば、呪いはその強さが増す。人には暗黒面があり、人の不幸は蜜の味になる。本当に死ぬのかどうか、そちらへの興味が高まり、それが呪いの力を強めると──。
しかも「嘘だと思うなら、本人に話してご覧なさい。それで公爵令嬢が死ぬことになっても……それは殿下のせいかもしれませんね」と付け加えたのだ。
ソフィーの言葉が嘘か本当か。万が一を考えたら、確認なんて出来るわけがなかった。
そこでメイドがやって来て、淹れたてのアールグレイのいい香りが室内に漂う。たっぷりミルクを入れ、レイモンドと共に紅茶を飲む。
紅茶を飲みながら、しみじみ思う。どうやらソフィーは、中二病で都市伝説マニアで、かつ某SF映画の金字塔作品も好きだったようだ……というのは笑い話で済むが、人の心を巧みに操るのに長けている点は……深刻な問題を引き起こす。機密情報までちらつかされ、レイモンドはソフィーに翻弄されることになる。
「私の呪いを解くために、レイはソフィーの言いなりになるふりをしたのね」
「そうだね。魔女に手足を絡め取られた……でも諦めるつもりはない。絶対にリナを救うと決めたのだから」
そこから文献など調べるが、魔女の話なんてこの世界でも伝承になるぐらい古い。適当なことを書いたオカルト本の方法を試し、それがもしも負の方向で作用したら取り返しがつかない。結局、ソフィーが言う以外の解決方法は見つけられなかった。
「あとはずっとだ。打開策を考えようとする度に、頭の中に靄がかかるようで……何だが見えない力に邪魔されている気分だった。靄がかかると眠気が強くなる。だから何度も腕に針を刺して、目をこじ開け、リナを救う方法を考えることになった」
やはりゲームのシナリオの強制力は働いていたと思う。レイモンドは自らを傷つけながらも、そこに抗おうとしてくれたんだ……。
そんなレイモンドなんだ。
これは聞く必要はないと思った。
それでも乙女心としては気になってしまう。
「ソフィーに従うふりをして、抱きしめたり、キスをしたり……」
「するわけないよ。未婚の男女の接触は禁じられているで押し通した」
これには心底安堵する。レイモンドのことを疑い、変な想像をしたことを、心の中で何度もお詫びをしてしまう。そして尋ねる。
「キルリル皇太子の屋敷に私が滞在することになったのも、その一環だったの? ソフィーに従い、私と距離をとっていると示すために」
「いや、それは違うんだ」
「え、違うの……?」
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そしてSF映画の金字塔で暗黒面といえば……☆ウォーズ!






















































