何が何だかさっぱり分からない
「リナ……! 良かった、本当に! もう大丈夫。全部、終わった。何もかもすべて」
そう言われた時、何が何だかさっぱり分からなかった。何よりも劇毒をあおり、あの世に旅立ったはずなのに。
どうして目覚めたのか?
その疑問の答えはないまま、レイモンドの呼びかけに応じ、医師やメイドが次々とやってくる。
その様子からここが王宮で間違いないと理解した。しかもいろいろと調度品も新しいので、どうやらここは、修復された私の部屋なのだろうと判断する。
「ジョーンズ公爵令嬢、まずは脈を確認させてください」
診察が始まり、体調に問題ないかと問われ、水を飲むように勧められた。さらにお腹が空いていないか尋ねられる。
そんな食事より、今の状況を知りたいと言おうとしたら、白い寝間着を着た私のお腹が「きゅるる」と鳴いている。
これには恥ずかしくなり、本能的にここがあの世ではないと悟る。こんな風に空腹を感じるなんて、元気に生きているからでは!?
何より天蓋付きのベッド、暖炉、壁に飾られた絵や立派な置き時計。ふかふかの絨毯も見えている。
それらに加え、私に声を掛ける人達が、あの世の世界の住人とは思えなかった。
医師は宮廷医だし、メイドだって知った顔ばかり!
「リナ、目覚めたのか!」
「リナ、目覚めたのですね!」
今度は国王陛下夫妻までやってきた。
間違いない。
私、劇毒をあおったはずなのに、死んでいなかった。
生きていた。
そして今日は……十二月三十一日。
どうやら三日間、爆睡していたようだ。
◇
「どこから話そうか。とても長い話になる。この朝食を摂りながら、ゆっくり聞くといいよ」
そう言ってレイモンドはえくぼを見せ、笑顔になる。しかしその表情は……疲れ切って見える。それに着ている白シャツや空色のベストにスーツ。仕立てのいいものであるし、生地は上質であるが、気を遣った感じがない。
「レイ、もしかしてこの三日間、私につきっきりだったの……?」
ベッドのそばに置かれた椅子に座るレイモンドに尋ねた。
「そうだね。リナが飲んだのは毒薬ではないと分かっていた。でもすぐに目覚めると思ったら、そうではなかったから……でもこの三日間で、すべてに決着をつけることが出来た。ソフィー・ベネット。あの女は王都北部にあるノースタワーに収監した。年明け後、早々に裁判を行うし、証人は僕だ。間違いなく実刑になる」
私が飲んだものは毒薬ではない!?
そんなはずは……でも実際に私は生きている。
ということは劇毒だと思い、飲んだのに。
違っていた。でもなぜ……?
そちらも気になるが、それ以上に聞き捨てならないことがある!
「どうしてベネット男爵令嬢がノースタワーに!? レイ、あなた、彼女と婚約するつもりだったのではないの……?」
尋ねる間にレイモンドは、エッグスタンドの半熟卵の上部をスプーンで割っている。
「リナ。君は三日間、飲まず食わずで寝ている状態だった。まずは食事をして。それにあの女は両親から勘当され、もう男爵令嬢なんかではない」
ヒロインが両親から勘当された!?
衝撃の情報だったが、レイモンドにスプーンを渡され、私は用意されている塩胡椒、そしてマスタードで味付けをして、半熟卵を口に運ぶ。
「美味しいわ……」
「パンも焼きたてだよ。リナの好きなブリオッシュを用意した」
「ありがとうございます」
朝食の世話をレイモンドが甲斐甲斐しくしてくれること。それは何だが現実感がない。
生きていると思ったが、やはりあの世なのではないかと思ってしまい、パンを手に動きを止めると……。
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これらの応援に答え、読者様への感謝を込め、もう一話公開したいと思います☆
ということで次話は22時頃公開予定です~
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明日は12時頃公開予定です。
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