ふ、ふぇーーーん!
有能なレイモンドのおかげでなんと夕食後!
デザートをいただきながらのまったりタイムを早めに切り上げ。ボトルシップの最後の仕上げをできることになった。
父親は既に迎えに来ていたので、レイモンドの書斎には、アンジェリーナ王女を除くメンバーが集結した。
つまりレイモンド、マーク、私、私の父親、レイモンドの近衛騎士やメイドが見守る中での、仕上げを行うことになった。
「リナ。難しく考える必要はない。マスト・帆、ヤード(横木)は全て倒してある。この状態で瓶の中に入れるけれど、糸をそれぞれにつけているだろう? これをゆっくり瓶の外から引きあげればいい。ただいきなりは失敗するかもしれない。だから瓶に入れて作業する前に、練習をしよう」
練習……瓶にはいれない状態で、マスト・帆・ヤードを起こす作業をやってみるということだ。
「わかりましたでしゅ」
ここは上手くできない場合に備え、たどたどしい言葉遣いで、まだ幼いのです!アピールだ。もし失敗しても仕方ないよね、まだ子どもなんだし!ということ。緊張を誤魔化す意味合いもある。
「さあ、リナ。その糸から順番に引いてみて」
「こう?」
「そう。リナはお利口さんだね」
レイモンドの指導はとても的確。
かつ優しい!
「最後の仕上げで起きる失敗は、糸を切り損ねること。糸を引けば外れる状態のものだったら問題ない。でもここは糸を焼き切る必要がある。きちんと焼き切れないと、中途半端な場所で糸を切ることになるよね。そうすると仕上がりが悪くなる。ようは見た目が悪くなってしまうんだ」
糸を焼き切るため、熱した針金を使う。
そのためのロウソクも用意してある。
そして今の練習ではちゃんと焼き切ることができた!
「あとはこの帆が上手く展開できないと困る。製作には時間がかかっているだろう。折り目が帆についてしまうんだ。そうなるときちんと広がらない可能性があるから……。でも僕の方でそうならないよう、広げておいたから、大丈夫」
ボトルシップ作りは一週間に一回しかできない。でもその間もレイモンドは私のボトルシップに気を配ってくれていたようなのだ!
これは普通に「ありがとうございます!」だった。さらに今、ボトルの外で試したが、問題なく帆を広げることができた。
「あとは糸の支えがなくなることで、ヤードのバランスが崩れ、見た目が悪くなってしまうことがある。でもパーツを作る時、重さの調整もしたし、着色した後もバランスの確認はした。だからここも問題ないはずだよ」
ここも糸をするりと外す形で調整したが、ちゃんとバランスはとれている。帆もきちんと広がり、ボトルの外で試す分には問題なかった。
この様子を緊張の面持ちで見守っていた父親は「すごいね、リナ。殿下のおかげで完璧じゃないか!」と絶賛してくれた。マークも「殿下のご指導の賜物です」と拍手をしてくれる。
するとレイモンドは……。
「僕はあくまでアドバイスをしただけだよ。ここまで作り上げたのはリナなんだ。しかも初めて作るボトルシップ。細かい作業も多いし、根気もいる。でもリナはちゃんとがんばってここまでやったんだ。とても立派だと思うな」
そんな風に言われてしまうと、泣きそうになってしまう。それはもう単純に褒められたことが嬉しい。加えて頑張りを認められたことにも、感動してしまう。
その上で思うのは……。
幼いレイモンドはこんなにも優しいのに。
成長したらヒロインに心を奪われ、私と婚約破棄すると言い出し、断罪を……するのだ。
ずっと。
ずっと、ずっと。
今のままのレイモンドでいてくれたらいいのに。
「公爵令嬢、泣きそうになっていませんか!?」とマークが驚く。「リナ、泣くのはまだ早いよ。これから瓶の中での作業なんだから」とレイモンドが励ましてくれた。「そうだよ、リナ。嬉し泣きにはまだ早いぞ」と父親が私の頭を撫でる。
「わかりました。がんばりましゅ」
こうして先程焼き切った糸などを新しくして、遂に瓶の中でマストを立て、ヤードと帆を広げる作業となる。
緊張するが、さっき予習をしたばかり。
そしてレイモンドの指導で完璧にできたのだ。
大丈夫。
私はやればできる子!
そんな風に暗示をかけ、作業を開始する。
「そう。リナ。ゆっくり。ほら、熱した針金を持って」
先程と同じようにレイモンドがアドバイスをしてくれる。
ゆっくり。慎重に。
「できた!」
「うん。いい感じだね。そのまま続けて」
そうやって順調に作業をしていった。
成功を確信し、最後に結び目のない糸をゆっくり引っ張ろうとしたまさにその時。
ボトルの外での作業。
それは手の動かし方が、ボトルの中での作業とは微妙に異なる。
力加減と引く向きを微妙に間違え……。
「「「「あっ……!」」」」
まず糸が引っ掛かったヤードが変な方向を向き、それに引っ張られ、マストの一本が傾いた。そこでレイモンドが私の腕を掴み、止めてくれたおかげで、完全に倒れる事態は免れたものの。
大変バランスが悪い状態になってしまった。
こうなるとリカバリーは……無理ではないだろうか。
「しっぱいしちゃった……」
「ごめん、リナ。僕の指導がまずかったと思う」
「「そんな。殿下のせいではありませんよ」」
マークと父親の声が揃ったが、それはまさにその通り。
レイモンドは何も悪くない。
失敗したのは私だ。
「ふ、ふぇーーーん!」
中身はアラサーなのに。
見た目は間もなく四歳児。
大人の私なら泣かないだろうに。
この体は感情にすぐリンクし、反応してしまう。
ようするに失敗したことが悲しくなった私は……大泣きすることになった。
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