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ネコネコパラダイス

中盤あたりから、かわいそうな表現【残虐表現】が多くなってきます。苦手な方は、読まないことをオススメします【回避お願いします】

真っ暗な空間を、僕は体を少し丸くして揺蕩っている。温度や音、重力さえ感じない。ただ、ふわふわと漂っていた。だけど、不思議と怖さはなく、むしろ安心感がある。そう例えるなら、まるで、母親の胎内にいた頃のような、日曜日の朝に、あったかい布団に包まっているような、ずっとここにいたいという気持ちだ。


意識は、まだぼやけていたが、何かが周りにいるのがわかった。手の甲や首筋、太ももや膝裏、ふくらはぎや脛に、滑らかな毛感触がする。お日様のような匂いがして、強張っていた気持ちが、少し癒され頬が緩む。


「かあさん…ふんにゃ゛」


顔に、なにかが当たる。

目を開けて見ると、目つきの若干悪い白と黒のぶちの猫が、肉球を絶妙な力加減で、頬にぷにっとしていた。


僕は、まだ寝ぼけていて猫をじっと見つめる。かわいい。目がまんまるじゃなくて半月なのも、この猫の魅力をさらに高めているように思う。柔軟な体を、器用にまげ、両足を伸ばし座っている。僕の肩や額を足蹴にされているが、気にならない。毛がふわふわでかわいいな。


白地で黒の斑点が7:3の割合で頭や肩、胴体や脚に配置され、特にお腹の部分にある斑点は、ハート型でかわい…じゃなくて!セルフツッコミをして、意識が少しクリアになった。僕は、さっきまで黒猫に追われ公園のベンチで休んでいたはずだ。


だから、これは夢だと自覚する。夢なら怖くない。現実じゃないから、きっと大丈夫だ。普通の大きさの猫だし、少しぐらい堪能してから起きてもいいかな?いいよね。


「にゃにするの?」


ぶちの前足を握る。手のひらに肉球の柔らかさと毛の少しゴワついた感じがした。薄茶色の瞳と目が合う。一切悪気のない目で、ニャーと無邪気な鳴き声を上げられると、かわいいとしか頭に浮かばない。


ぶち以外にも、足元に灰色や茶トラ、三毛猫。みぞおちあたりに、黒猫が香箱座りでいる。さらに、頭の後ろにもいるようだ。毛先の白くて長いしっぽが視界の端に映った。背中にも気配を感じられ、他にも、何匹かいるかもしれない。幸せだ。


「かわいい…でも、動きづらい。ちょっと降りてくれないかな?」


体が上手く動かせなくて、猫たちが周りにいるからだろうと、結論づけ話しかけてみた。明晰夢だとすれば、もしかしたらできるかもしれないと思ったんだ。


ぶち猫が離れていき、体が少し動かしやすくなった。猫は、どんどん遠ざかっていく。どこまで行くんだろう?


ぶちの向かう先が、やけに景色がハッキリしている。木枯らしが舞い秋空が広がる横断歩道のようだ。だが、枯れ葉が宙で留まっていて、時間が経っていないことが、うかがい知れ、写真や絵画のようだと思った。


ぶちが、いったん立ち止まり、こちらを向く。なにかを訴えかけるように一声鳴いて、横断歩道へ向かう。この真っ黒な空間と明瞭な光景の間には、境目があるのか、猫が吸い込まれると水面が波打つように揺れた。


時間が動き出す。歩道の信号が、青から赤に変わる。途端に、車のブレーキ音と幼い子どもの悲鳴が聞こえた。ぶち猫が、跳ね飛ばされ地面に転がり血が流れ出している。まだ、息があるのか前足をかくように2.3度動かし、くたりと倒れた。


車が、ぶちを避け、猛スピードで逃げていく。 


女の子が駆け寄り、血で汚れることも構わず抱き上げ悲しげな瞳で見つめている。冷たい風が、ショートヘアの髪と木の葉を寂しげに揺らしていった。


そして、時間が止まる。

なんの音も聞こえなくなり、僕の荒い息遣いだけがする。ついさっきまで、動いていたのに展開についていけない。ぶちの、ちょっとゴワついた感触が手に、まだ残っているのに…


あの猫の走馬灯というものだろうか?いや、違う!突如、抱き上げられている猫の首だけが、動きだす。不自然に捻じ曲がったと思うと、境界を超えたこちら側にいる僕を睨みつけているようだ。


背筋がゾワリと総毛立つ。怖気付いて、体が硬直するが動けなくて、うつむき目を伏せる。目を覚ましたい!でも、どうやって?


今度は、足元にいた三毛猫が去っていく。嫌な予感がする。見たくないのに、目線が外せなくなった。


先ほどとは、違う景色だ。雨粒が木の葉を揺らし滴り、水溜りが出来ていた。かつては朱い塗料で、色鮮やかであっただろう廃屋の縁の下で、子猫が数匹、身を寄せ合っている。


そのすぐ近くに、狸のような猫のような見た目の、鼻筋は白く、頭や手先足先、尻尾は黒く、胴体は薄茶色っぽい人に慣れることのない野生動物がいた。姿勢を低くし、子猫を狙い定めている。


三毛が、雨の降る景色に入り、波紋が広がる。時間が動き出す。

格子状の窓や崩れかけの瓦に、横殴りの雨が叩きつけるように降る。雷鳴とともに、つんざくような断末魔があがった。子猫が1匹、腹を食い破られる。目に生気はなく、口は開き手や足は伸び、背中をのけぞらせ痙攣している。咥えられ、持ち去られようとしていた。


三毛が駆け出し、野生動物に爪を立て耳を噛み切った。その瞬間、口に咥えた物を取り落とさすが、すぐさま鋭い牙を親猫の喉笛に突き立てる。猫は首を振ったり前足で引き離そうとしたりしているが、牙を食い込ませたままなので、傷口が広がり毛皮を赤く滲ませている。


猫が苦痛に顔を歪めながらも、顔を引っ掻く。その攻撃が効いたのか、押すと音がなるおもちゃのようなキューという高い鳴き声をあげ、逃げていった。三毛は、最後の力を振り絞るように、子猫の方へ向かおうとするが、濡れた地面に足が沈み横たわってしまう。それでも、上体を起こし前へ進もうとするが抜け出せずに、血と泥にまみれていく。


打ち捨てられ力なく横たわる子猫の下へ、母猫が這いずっていった。ようやっと近づくと、安心させるかのように、舌で傷ついた子猫を舐め愛情を示す。そして、雨に打たれた体を温めるように優しく寄り添う。三毛の目が、ゆっくりと閉じていく。


静寂が訪れ雨音だけがする。遠くで、階段を登る音と黄色い傘がちらついた。なにかが、ひっかかる。視点は違うが、僕はこの光景を見たことがあった。


怖いというよりも、驚きや後悔、悲しみといった感情が湧いてくる。


三毛猫がこちらを向いて鳴き、思考が中断された。


僕の周りにいる猫達が、1匹また1匹と離れていく。

その度に、体が自由になるが引き換えに心は鉛のように重くなる。


「嫌だ。行かないで、もう、見たくないよ…」


目に涙が溜まり、口が戦慄き言葉が上擦る。僕は、体育座りのように膝の前に手を持っていき、強く握った。そうでもしないと、手の震えを抑えられない。まぶたを閉じようとしても、目の前の黒猫が許してくれない。


「いっ…」


はじめは、甘えるように柔らかく鳴くが、僕が目を開けないとわかると、体を伸ばし首筋に噛みつく。手加減されていて痛みはあまりないが、驚いて目を開け、黒猫の脇を抱え引き離す。黄色い目が、忘れるなと、僕を責め立てているように感じた。


猫達が行きつく先で何かしら、傷つき倒れていく。


茶トラは、高齢の飼い主が亡くなって、家の縁側で帰りを待つように眠り続け痩せ細っていき、灰色の猫の行く末は、捕獲され狭いゲージに入れられ数日過ごし、他の犬や猫と一緒に薄暗い部屋に入れられて、訳もわからないままに、この世を去った。白猫は、元々飼われていたが年老いた為に、捨てられ野生化したものの適応できなかった。


サビ色の猫は、遊び半分で虐待され耳や目も見えず毛が抜け落ち、後ろ足がダラリと垂れ下がっていて虫の息だ。サバトラは、ペットショップで売れ残り、繁殖の為だけに移され最低限の餌しか与えられず、糞尿まみれる悪環境で泡を吹いて倒れている。


どの猫も、過去が再生し終えると時が止まり、むこうの世界から、こちらにいる僕を咎めるように猫が見ている。


「もう、いい…もういいよ」


我慢の限界を超えた。視界が歪み拭っても拭っても涙が溢れ出す。嗚咽を漏らし鼻水を啜る。


「どうして?僕に見せるの?悲しいよ…」


残るは、みぞおちにいる黒猫だけだ。ミャウと声を上げ、鼻先を僕の右手に擦り付ける。トンっと、飛び降りて、橋の下の河川敷へ向かっていった。


雨が降っている。空は灰色一色だ。コンクリートを土台として鉄でできた橋の下に、ダンボールがポツンと置いてある。川は雨水によって、かさが増しているので危なそうだ。どこからか弱々しい猫の声が聞こえる。


ダンボールの中に子猫がいた。目は開いたばかりのようで、先ほどから何度も何度もか細く鳴き声をあげ、母猫を呼んでいるが返事は返ってこず、力尽きたのか、もう声がでていない。口寂しくて、タオルを含み吸い上げている。飢えは満たせず、命の灯火が消えていく。


ダンボールと白いタオル、橋や雨雲が、はじめから終わりまで、この黒猫が見た唯一の世界だろう。


何もできず箱の中を見ていると、視界の端に黄色い傘をさした少女が橋の下に近づいてくるのがわかった。途中までは歩いていたが、子猫の存在に気づくと駆け出してきた。黄色い傘をたたみモヤをまとった小さな黒猫を、そっと抱きかかえる。


「気づいてあげられなくて…ごめんね」


やるせなさそうな声だった。


その時、視点があの黒猫に吸い込まれブラックアウトする。すぐに明るくなったと思ったら、抱きかかえられている子猫の目線になった。自然と、目の前の少女を見上げる形になる。そして、気づいた。悲しげに眉を下げ、涙で瞳を揺らしているのは、僕だ。


黒猫が暴れて、右手首を引っ掻く。それにシンクロするように水面の向こう側にいる僕とこちらにいる僕の傷が疼いた。地面が近づき、河川敷を駆けていく。


右手をさする。なぜ、苦しんだ生前の記憶を見せたのか。危害を加えた人や獣に対する怨みからなのだろうか。それとも、助けを求めていたんだろうか?そういえば、どの猫も見覚えがあった。僕がもっと早く気づいて行動していれば、救えたかもしれない。何かしてあげられたかもしれない。


意識が浮上する。

わかりづらくて、すみません。

余談ですが、主人公はボクっ娘です。

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