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僕の不思議な日常

リビングにある4人がけのテーブルで、みそ汁の湯気がたつ朝食を食べながら、部屋の隅に置いているテレビを見ていた。アニメを見ているのに、父さんが起きてきて、僕の横に置いてあったリモコンで、ニュース番組にチャンネルを変え、向かいの椅子に座った。


テレビ画面の、左上に今日の日付と時間が表示される。平11/4/28(水)7:50と表示され、番組の顔と言うべきキャラクターが飛び出するように現れ、軽快なBGMと共にオープニングがはじまり、天気予報に切り替わった。今日の天気は、1日中晴れのようだ。


朝日が山の谷間から顔を出し始めた頃に、小雨が降り窓を濡らしていたが、今は止み、太陽が青空に完全に昇りサンサンと輝いている。シラスのような、小さくて細い雲の群れが泳いでいく。日差しも暖かで気持ちよさそうだ。


天気予報が終わり、真相究明!ノストラダムスの大予言という特集を放送していた。昔の偉人が残した1999年7月に空から恐怖の大王が来るだろうという予言がテーマだ。


様々な専門家がゲストで出演し、世界の終末について大きな戦争が起こるのではないか、隕石が落ちてくるのではないか、科学技術が発達しオゾン層を破壊することで体に害のある太陽光線が降り注ぐことをいっているのではないかなどなど、色々と議論されている。


あと、3ヶ月でXデーになる。学年が上がったばかりなのに世界の終わりだなんて、驚きだ。


父さんが、焼き鮭から皮を取り除きながら、ニュース番組を見て感想を呟いている。


「馬鹿らしいな」

「そうかな?僕は信じてるよ」

「俺は、見えるものしか信じん」

「あら、そうなの?じゃあ、私の愛も信じてくれないの?」

「それは、話が別だ!俺も愛しているよ」


母さんがホカホカのご飯をよそいながら、チャチャをいれる。正直、仲が良いことは嬉しいが、ふたりの世界に入らないでほしい。たまに、僕がいることを忘れている気がする。


母が作ってくれた甘い卵焼きを箸でつまみながら、さっきの特集ついて思い返す。僕は、予言を信じている。だって、僕は幼い頃から他の人には見えないものが見えていたから。


僕の目には、生き物が2種類の見え方をしている。普通に見えるか、薄いモヤがおおい燃えるように揺らめき体の端から黒い煙が上がっているかだ。モヤついてるものは、他の人には見えず触れられないようだった。しかも、なにかしら怪我をしていたり、話しかけても答えず同じ動作ばかりを繰り返していたりして、どこか歪で変だ。


たぶん、この世に未練があって、生きていた頃を忘れられず、1番記憶に残っている姿でいるからなのだろうと僕は思っている。モヤついているのは…魂やエネルギーみたいなのが直に見えてるからかな?よくわからない。相談なんてできなかったから。


はじめは、みんなに見えていると思ってたんだけど、僕に見えていて父さんや母さんには見えていないことがあって何度も繰り返すうちに僕は人と違うんだということがわかったんだ。


特に印象的だったのは、物心ついた頃の話だ。僕たちの前には棺があり、祖父が笑っている大きな写真が黒い額縁に入れられ祭壇に飾ってある。線香の重く漂うような匂いと手向けられている菊の涼しげな香りが混じり、僕の心を複雑にしていた。


椅子に座り、ハンカチを両手で握りしめ涙を堪えている母のそばで、父は励ますよう肩を抱いている。母の兄妹だというおじさんやおばさんや顔の知らない親戚が、みんな揃ったように黒い服を着ていた。鼻を啜ったり、嗚咽を漏らしている声が聞こえる。


「なんで、母さん泣いてるの?痛い?」

「もう、おじいちゃんには会えないと思うと悲しいからよ」

「どうして?そこにいるのに?」


棺の前で、モヤがかった祖父が下を向き立っていたから、僕は指を差し母に伝えた。母はチラッと棺を見ただけで立っている祖父に気づくことなく、目線を僕に向けた。


「棺の中にいるけど、これからお別れするのよ」

「そう…なんだ」


今まで僕に見えて母に見えない時があるのは偶然だと思っていたが、祖父のことを大好きな母が見逃すはずがない。それが、決定的だった。母に祖父の姿が見えていないことを悟り、僕は口をつぐんだ。今まで見ていたものは、おばけや幽霊と言われるたぐいのものだったんだと自覚する。心配をかけたくなくて、家族には打ち明けられないかったんだ。


ただ、年齢が上がるにつれて見慣れてしまった。思わぬところで出会って、びっくりするぐらいで、特に何かされるわけでもないから可哀想だと思うものの怖くはない。


「あら、もう8時だわ。ボーっとしてないで、早くご飯食べて学校に行きなさい!遅刻するわよ」

「本当だ!」


時計が、8時過ぎている。僕は学年で3位か4位を争うぐらい早く、走れば間に合うだろう。ただ、ゆっくりしている余裕はないから、焦ってごほんをかきこむと少しむせた。


「大丈夫?お水よ」

「ありがとう。ごちそうさま」


水を飲み干し、両手を合わせる。

霊が見える分、命の尊さを僕は身近に思い、ご飯を食べる時など感謝を忘れず、毎回手を合わせるようにしている。今日もありがとう。お米に、大豆に、ワカメに、たまご、あとなんだっけ?あぁ、作ってくれた母さんにも心の中でお礼を言っておこう。


「いってきまーす」


カバンを背負い、玄関を出る。陽の光が明るく僕を照らし、空には七色の橋がかかっている。普段ない幸運に嬉しくなり、僕は、今日1日が忘れられない日になるだろうと感じながら地面を踏み締め、学校へと駆け出した。


教室の扉を開けると、友達に「おはよー」と挨拶をしながら自分の席へ急ぐ。まだ、チャイムはなっていないセーフだ。


クラスの中は、賑やかな雰囲気で大体の生徒は椅子に座っていて、隣同士でしゃべったり、本を読んだりノートに落書きをしたり、頬杖をついて自分の世界に入っている子も、ちらほらいる。


僕は,机に筆箱をだし教科書はしまって、カバンは後ろの格子状の棚に入れた。


学年が上がると教室を移動して、前の学年が使っていた机や椅子を、今度は僕たちが使う。席につき、机をなでと、滑らかな手触りやキズやへこみを手のひらに感じ、この机や椅子が、これから1年共に過ごす仲間だと思うと、なんだか新鮮な気持ちになる。


風が、少し開いている窓から入り薄手のカーテンを控えめに揺らし、花瓶に飾られたスイートピーの甘く爽やかな匂いを僕の鼻に届けてくれる。これからの授業や遠足などのイベントが楽しみだと、まだ見ぬ出会いに思いを馳せていると、はじまりを告げるチャイムが鳴った。


朝の会が終わり、机の上に英語の教科書やノートを準備する。1時間目の授業では、ネイティブな外部の講師を招き本場の発音を体験したり、国語では、雪国に住んでいたキツネの物語を音読したり、道徳の時間は、お題に対してグループに分かれ意見を出したり討論したりした。算数は、分数の小テストがあり、頭がこんがらがりながらも、全て記入できた。


待ち遠しかった給食の時間になる。今日は、なんとプリンがついているんだ!!休みが1人いたから、争奪戦に参加したけど、すぐ1回戦で僕だけ負けてしまった。とても、ジャンケンに弱い…


昼休憩には、日が1番高く昇っていて、実にサッカー日和だ!友達を誘い校庭で汗を流す。体育では、縄跳びのテストがあり、前回の授業では、どうしても手首の回しが遅いのかジャンプがたりないのか2重跳びをするとひっかかっていたが、今回は成功することができた。家で黙々とひとり練習したり父に見てもらい助言を受けたり、努力した日々を思うと、拳を握りしめ嬉しさに感じいった。


理科ではテレビで光や色の三原色について見て学んだ。知らないことを知れたり、できなかったことができるようになるのは、胸が躍りワクワクする。


教室の掃除をする。机に椅子を逆さにのせ移動させたり、1日中僕たちを支えてくれた床を水で絞った雑巾でキレイに磨き、次も頑張ってもらえるように黒板消しをはたいたりした。帰り会で、また明日も同じクラスの仲間に会えることを楽しみに、別れの挨拶をする。


放課後、学校のグラウンドで友達と集まり、かくれんぼをすることになった。僕は気が乗らないが、4対1と多数決で決まってしまったから、仕方ない。カバンや荷物は、そこら辺の木の下に置いた。ジャンケンをすると、すぐに鬼は決まる。僕だ。ジャンケンも弱いが、かくれんぼは見つけるのも隠れるのも苦手だ。どちらかというと、かけっこやおにごっこのような目標が目の前に見えている方が動きやすい。


白いペンキで塗装された校舎に額をつけ、10秒数える。ルールは、学校の敷地内のみで建物の中はダメだ。僕は、数え終わり声をかけた。


「もういいかい」

『もういいよ』


声のする方へ向かったが、校舎の後ろや木の上も見ても見つからない。焦るばかりで時間だけが過ぎていく。ガサガサと葉が擦れ合う音がして、茂みが動く。そこから、カラスが飛び出してきた。


とっとっと、器用に片足でジャンプするように僕の目の前に移動してきた。これは生き物じゃない。体の端から黒い煙がちょろちょろと昇っている。左羽がカーブのところで傷つき捻じ曲がっており足は片方、針金が巻きつき肉に食い込み薄紅色を覗かせ、関節は伸ばせないのか折り曲げて、片足立ちに常になっているようだ。足を手当てしたくて触ろうとするが、僕の手は空を切るだけだった。


カラスはつぶらな瞳で僕を見つめ、首を傾ける。少し可愛いかもしれない。


僕を呼ぶかのように少し鳴いて、また、とっとっと跳ねていく。気になって追いかけると、その先にある植え込みの近くの木の前に止まった。ガサッと物音がして、気になってまわり込む。


木の後ろに友達が隠れていた。「悔しいな。見つかっちゃったかぁ。ユーマにしては早かったな」といいながら頭をかきながら出てくる。毎回かくれんぼをすると、1人目を見つけるのに時間ギリギリだったり誰も見つけられなかったり、隠れていることに飽きたのか鬼の前に出てきて追いかけっこのような感じになったりグダグダな終わり方をよくするのに、今日は幸先がいい。


偶然かと思ったけど、違った。カラスは優秀で、隠れている場所を次々と案内してくれる。かくれんぼが上手くて、いつもなかなか見つけられない子を意図も容易く見つけた。


さっきまで、全然見当違いのところを探していたのに、急に場所がわかったかのように僕が見つけるので友達は不思議がっていた。みんなには、カラスは見えてないようだ。


どうだすごいだろう!とでも言うように、カラスは胸を張り誇らしげに一声鳴いた。


高い木や百葉箱に飛び登って周囲を見渡し、僕に隠れていそうなところを教えてくれる。僕もベンチの下や飼育小屋の後ろや屋根の上など探してはいるもののいたのはモヤがかかった動物ぐらいだった。いつも友達を見つけられなくて悪戦苦闘していたから手助けしてくれて、カラスが頼もしい相棒のように感じる。


「ありがとう。君のおかげで、かくれんぼが少し苦手じゃなくなったよ」


しゃがみこみ、手でカラスの頭を撫でるマネをする。カラスは目を細め柔らかく鳴いた。



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