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第37話 協会が問題視

「おお、荒木! だいぶ元気になったみたいじゃねえか」


 目を覚まして三日後、病室に岩下と片岡がお見舞いにやってきてくれた。

 二人は丸椅子の位置を変えて、二人並んで病床の隣に座った。


「昨晩にやっと食事を許されましたよ。食事って言っても具が一切入っていない汁ですけどね。それでも水しか飲んじゃ駄目って言われるよりは元気が出ますよ」


 医師からの説明を話し、病気じゃなく怪我だから、どうにも元気が有り余って困ると荒木は笑った。

 二人ともそうかそうかと聞いてはいるが、顔は痛ましいという表情である。


「ところで、何で俺はこんな大怪我になってるんです? あの時、その前にも落竜してますけど、こんな大怪我にはなってないですよね。その後、普通に点取ったし」


 荒木からの質問に岩下も片岡も互いに顔を見合わせ、どうやって話したものかと困り顔をする。

 お互いが話すのを憚り、渋々岩下が話し始めた。


「実はな、荒木。あの試合の後、協会から監査の人が来て、あの試合に出た選手は全員事情聴取を受ける事になったんだよ。選手だけじゃない、監督も指導者も審判も」


 これは小川と栗山から聞いた話と言って岩下が経緯を語った。


 一試合で同じ選手が二度落竜するというのはそれだけで珍しい。

 普通は落竜したらさせた側に注意の黄札が出される。それで気を付けるからである。悪質と見られれば警告の赤札が出され退場となる。


 今回も荒木の一度目の落竜の際には川相選手に注意の黄札が提示されている。

 荒木が病院に搬送された後、吉村と山田の二人に警告の赤札が提示された。襲鷹団は一気に二人が退場となり、その後は五人で七人を相手する事になった。

 獅子団側は負傷交代なので交代枠を使わず、荒木の代わりに伊東が出場。後衛のいなくなった襲鷹団はもはや試合にはならず、伊東が三点を得点し、六対一という大差で獅子団が勝利した。


 試合終了後、すぐに職業球技協会の大会組織委員会の者が審判を呼びつけた。

 その後、職業球技協会の人は両軍の監督も呼びつけ調査を行う事を通告。

 口裏を合わせられると困ると言って、係員の指示に従い選手たちは控室では無く決められた部屋にバラバラに入れられた。


 まず審判が呼ばれた。

 次いで襲鷹団の監督が。さらに襲鷹団の指導者たちが呼ばれた。

 小川や栗山たち選手が呼ばれたのはその後の事であった。


 事故の時点で競技場にいた小川と、補欠席に下がっていた栗山、試合に出ていない秦では、それぞれ聞かれた事が違ったらしい。

 だがどれも全体的な内容は同じで、事故に至るまでの相手の選手の動きをどう感じたかと、事故前後の相手選手たちをどう見たか。


 獅子団の選手たちが帰された後で、襲鷹団の選手たちが呼ばれたらしい。

 栗山が水野選手から聞いたところでは、最後の一人が解放になった時には、もう日付を跨いでいたのだとか。


 報道によると、その翌日の午後には早くも皇都にある協会本部で最初の対策会議が開かれたらしい。


 会議は夕刻まで続き、その後、最初の記者会見が開かれた。

 まずは何が起こったかが語られた。

 報道も荒木という選手が二度の落竜をし、それによって後衛二人が警告退場になったという事は知ってる。できればそれ以上の事を知りたいと思っている。

 そこで渡辺会長が報告したのは、荒木選手がかなり危険な状況だという事であった。


 その後、協会として今回の件で二点の事を問題視していると公表。

 一点目は、後衛二人を警告処分とし、完全に試合を壊してしまった審判の判断。

 そしてもう一点は今回の件が事故か故意か。仮に故意であった場合、そこに至った経緯はなんだったのか。


「そこから毎日のように対策会議しているらしいよ。あの渡辺って会長、報道出身なのに、ちゃんと記者会見やってくれててさ、小出しではあるけど少しづつ情報出てきてるんだよ」


 今回の件が故意か事故か。

 これについては選手たちの証言でほぼ判明しており、『故意』であった事がわかっている。


 襲鷹団は監督も指導者も選手も全員事故であると主張した。だが、その前に獅子団の選手が川相選手が大声を上げた事に気付いている。

 襲鷹団の先鋒である槇原選手、中盤の山内選手、守衛の村田選手もその声を聞いている。


 いったいあの時何に対して大声を上げたのか?

 『そんな事』とはどんな事なのか?


 結局、川相選手が全てを自白してしまった。


 あの時、後衛の山田選手と中盤の駒田選手で、どうやってもあの荒木を止められないという話をしていたらしい。

 『らしい』というのは川相選手は聞いていないし、山田選手も駒田選手もその事を否定している。

 そこの二人でどのような話し合いがあったのかは知らないが、後衛の吉村選手と中盤の川相選手が駒田選手に呼ばれた。


 そこで山田選手が言ったのが、もう一度荒木選手を竜から突き落とそうという事であった。


 二度の落竜となれば監督は大事を取って交代せざるをえないだろう。

 すでに注意を受けている川相選手がやってしまうと注意の累積で退場になってしまうが、他の選手であれば先ほど同様に注意程度で済むであろう。


「そんな事やって良いわけが無い。正々堂々とやって勝つ事に意味がある」


 そう川相選手は主張したのだが、駒田選手は青いと言って鼻で笑った。


「お前だって将来は幕府球団で一軍でやる選手だろうが! そうなれば海外の選手ともやる事になるんだよ。海外ではこんなのは日常の戦術だ。事故にかこつけて相手の選手を潰すなんてのはごく普通、当たり前の行為なんだよ!」


 それでも反対する川相選手に、聞いたからにはお前も共犯だと山田選手が通告。

 さらに駒田選手から、もし何を聞かれても知らぬ存ぜぬを貫き通せと言われてしまったのだそうだ。


 最後まで川相選手は反対したが、吉村選手は渋々賛同し、故意の反則行為は実行されてしまった。

 山田選手が竜杖で荒木の竜の後脚を殴った事で、竜は驚いて体勢を崩し前脚を捻ってしまい骨折。

 竜が突然前脚を曲げた事で荒木は前方に放り出される事になった。

 そしてその荒木の胸部を吉村選手の竜が踏みつけた。


 あの事故から何度かその時の映像が流れているのだそうだ。



「って事は俺の胸骨が折れたのって、吉村が竜で踏んづけたからって事なんですか。そりゃあ、意識が無いところに、あの重い体が乗れば骨くらい折れますよね」


 ただ落竜しただけにしては重症すぎると不審に思っていたのだ。

 二人の話でかなり合点がいった。

 ただこれまでの話だと、連日対策会議をしているという事であった。

 であれば、いったい今は何を揉めているのだろう?


「今揉めているのは、あの四人の処分についてらしいよ。四人全員を処分するのか、それとも実行犯の二人を処分するのか、はたまた自白した川相だけは許すのか。協会としては処分をせずに球団に委ねるのか」


 色々と取り調べをして、監督及び指導者がそれを指示したわけではない事はわかっている。

 協会は四人の選手と契約している幕府球団と台北球団に逐次報告しており、球団は四人の選手を謹慎処分に処しているらしい。

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