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第23話 竜杖球最高!

「美香ちゃん! 聞いてよ! 俺、今日三点も入れちゃった!」


 その浮かれ切った声で美香も荒木が電話先で大喜びしている事がわかったのだろう。くすくすと笑い続けている。


「だから言ったじゃない。荒木君だったらやれるって。もっともっと活躍して、きっと近い将来一軍で活躍する日だってくるんだから」


 いつもより少し高めの声からするに、恐らくは美香もつられて浮かれているのだろう。そんな美香の声が疲れた荒木の体を緩やかな音楽のように癒してくれる。


「美香ちゃんが応援してくれたおかげだよ。あれで俺、やれる!って気になったもん。ありがとう」


 爽やかな声でお礼を言う荒木に、電話先で美香は顔を真っ赤に染めた。荒木には見えていないが、照れて自分の髪を手遊びしている。


「私は、ほら、荒木君の応援団一号だもの。例え荒木君が補欠としてじっとしてるだけでも、頑張れって応援するよ。荒木君に何があっても、どんな事があっても、例え私だけになったって荒木君を応援し続けるんだから」


 応援ってこういうものなのか。

 美香の声援に、荒木は体の中から何か活力のようなものが沸き上がってくるのを感じている。


 口では応援に後押しされたなんて言うけれど、そんなものは社交辞令のようなものだと感じていた。だがこうして沸き上がるものを感じると、本当に応援というのは助力になってくれるんだとういう事を実感する。


「ありがとう、美香ちゃん。俺、その応援に答えられるように頑張るから!」


 そこからしばらくの間、今日自分がどんな活躍をしたか、荒木は美香に嬉しそうに話し続けた。それを美香はうんうんと相槌を打ちながら、時に笑い、時に驚きながら聞いている。


 さんざん電話で話した後で、そろそろ夜も遅いからこの辺でと荒木が言った。


「うん。あの、私から切るの嫌だから、荒木君から切って」


 美香のその一言に荒木の鼓動は何故か早まった。

 絶対に次も活躍してこうして電話をするんだ。そういう気持ちが沸き上がって溢れ出る。


「じゃあ美香ちゃん、おやすみ。また今度会おうね」



 電話を切った荒木は、球場に併設されている宿泊所の窓から露台に出た。

 夜空の星々一つ一つがまるで自分を応援するために輝いていてくれるようであった。

 大きな月の隣に一際輝く星がある。きっとあれが美香ちゃんなのだろう。


「くぅぅ! 竜杖球、最高!」


 思わず荒木は叫んだ。

 すると隣の部屋の窓が開いた音がした。


「うるせえぞ、荒木! さっさと酒でも呑んで寝ろや!」


 ……広沢に怒られた。



 翌週、昇鯉団との試合では、先発の先鋒は荒木であった。

 七人の先発のうち、三人が見付球団の選手というのは、もしかしたら過去に例が無いかもしれない。

 さすがに安部、石毛の二人は不動の選手という感じで、恐らくは今年一年二軍で活躍したら来年からは一軍に昇格するのだろう。その前に緊急で昇格する事があれば別だが。


 前半から荒木は絶好調であった。

 相手の守備は荒木に対応できず、前半だけで三点を献上するという有様であった。

 後半から石井に交代したのだが得点は上げられず。三対一で勝利。



 さらに翌週、猛牛団との試合でも、先発の先鋒は荒木であった。


 どうやら獅子団に無名の大物が出ているらしい。

 その報は北国の競技新聞でも話題になったらしい。その為、観客席にはそれまで一人二人しかいなかった報道が、写真機に片手に詰めかけていた。


 試合前、日野監督は選手たちに向かって言った。


「ここに来て選手を変えて連勝しているが、大鯨団はそれなりに強かったが、昇鯉団は最下位球団。今回の猛牛団が試金石である。ここで勝てるようなら、二軍優勝も見えてくる!」


 確かに日野が言うように猛牛団は強かった。


 開始早々に中盤の金村かねむら選手が敵陣深くまで球を持ち込んで来た。

 一度は広沢が跳ね返したものの、それを拾った後衛の岡田選手が大きく打ち返し、正確に先鋒の御子柴みこしば選手の先に落とした。

 金森が守備に当たったのだが、御子柴選手を押さえる事ができずに、先制点を許してしまった。


 守っては後衛の二人、特に岡田選手の守備が固く、荒木もなかなかに自由な行動が許されない。

 さらに守衛の木戸きど選手の反応が良く、荒木の巧みな打ち込みも弾かれてしまった。


 前半十六分に何とか同点に追いつきはしたものの、雰囲気としては敵に分があるという感じであった。


 後半金森に代わって蓬莱ほうらいが出場する事になった。

 鴻野こうの、石毛、安部の三人は、現状では動かせない。交代させる人員もいない。

 先鋒の荒木が変えられない以上は金森を変えるしか道が無い。日野としてはここではその札しか切れなかったのだった。


「荒木、後半はちゃんと竜を変えろ。多分お前を変えるという選択は無いだろうから」


 日野が中休憩でそう荒木に命じた。


 荒木は竜を速く走らせられる。そのせいで荒木の竜は体力の消耗が激しい。それを見込んで日野はここ二戦、荒木を前後半どちらかしか使っていない。

 ここで二頭を使えというのは、次の試合はお前は使わないという事である。


 多少納得はいかないが、勝つためなら私情を挟むべきじゃないと荒木は感じ、無言で頷いた。



 後半戦、開始早々に荒木が得点を決め、獅子団は勝ち越しに成功。

 だが、そこから猛牛団は選手を交代した。


 猛牛団はとにかく岡田選手の守備が異常に上手い。

 岡田選手は大声で的確に指示を出し、荒木が動こうとするのを事前に制してくる。

 そのくせ自分はちょこちょこと攻撃にまわって御子柴選手に球を集めてくるのだ。


 後半十三分、猛牛団に一点を返され同点とされると、日野は大胆にも鴻野と竹本を交代させた。

 荒木を右翼、竹本を左翼として左右から攻撃をさせた。

 防御よりも攻撃。日野の交代はそういう指示でもあった。


 そこから竹本が果敢に攻めたのだが、やはり岡田が指示する防衛線が固くて突破できない。

 すると石毛が竹本に何かを言った。


 そこから竹本はかなり強引に球運びをし、無理やり敵の守備を突破しようとした。

 そんな手段は通じないはず。竹本ですらそう思っていた。

 だが石毛の狙いはそこでは無かった。


 竹本から球を奪った後衛の北村選手が球を獅子団陣地に向けて打ち出した。

 だがそれを拾った石毛が迷いも無く荒木の前に打ち返した。


 即座に荒木はそれに反応し、恐ろしい速さで竜を走らせ、篭に向かっていき、押し込んだのだった。


 さらに後半二三分にも荒木に球が渡ったのだが、岡田選手の懸命の守備に阻まれ、残念ながら追加点は防がれてしまう。


 残り七分。

 猛牛団は何とか同点にしようと奮闘。だが攻め切る事ができず、無常にも試合終了の笛が鳴った。


 三対二で獅子団の勝利。

 実は猛牛団には昨年から全く勝てておらず、実に七試合ぶりの勝利であった。

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