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第12話 新入団選手がやってきた

 年末年始はどの選手も家で過ごし、新年も明けて一週間、選手たちが一斉に日高に帰って来る。


 その三日前に選手は全員見付球団の事務所に集められた。

 『出陣式』に参加するのである。


 出陣式はまず全員で輸送車に乗り込んで神社に行くところから始まる。

 場所は浜松の北部、磐田市にある秋葉神社。秋葉神社は火事を防ぐ神社なのだが、そこに何故に優勝祈願に行くのかは不明だ。


 社を前に全員で整列し、社長の松園と監督の二人が代表で神主からお祓いを受ける。全員揃って二礼二拍手一礼。

 その後、社の中で再度お祓いがあり、神主が祝詞を奏上する。

 最後に一人一人順番に榊の枝を神前に供え、二礼二拍手一礼。


 祈祷が終わると再度輸送車で見付球団の事務所に戻る。

 そこで式典が開始となる。


 式典はまず社長である松園の挨拶から始まる。

 次に監督の挨拶となるのだが、昨年まで監督をしていた中西が契約終了となり、新たに監督となった関根和明が就任の挨拶を行った。


 関根は御年六六歳。

 竜杖球の選手らしく背が低く、瘦せ型。顔は面長で頭髪は既に真っ白。

 竜杖球がまだ企業の部活動だった時代に活躍した選手である。竜杖球が職業球技になる前に引退しているので、正式には職人選手ではない。

 さらに言えば現役時代に所属していたのは幕府球団の前身の球団であり、見付球団との接点すらない。

 それでも監督としての才能を買われて今回こうして大抜擢される事になったのだった。


 見付球団はここ五年、非常に成績が低迷している。

 五年前が五位、四年前が四位、三年前が五位、二年前が五位、そして昨年が最下位。その低迷に合わせて観客動員数も減っている。


 一朝一夕で成績が上がるわけでは無い事は、社長の松園も重々承知はしている。であるならば、せめて観客動員数だけでも上げて欲しいと思っている。

 それを関根に託した。


 悲しいかな、見付球団は東国でも群を抜いて動員数が少ない。

 自球場での開催ですらそれなのだから、他球場の時などは推して知るべしである。

 そのせいで、他の球団からお荷物球団のような扱いを受けてしまっている。


 他の球団が熱狂的な顧客を増やし続けて、他球場の試合でも応援に行くという人が増えている一方で見付球団は観客動員数を減らし続けているのだった。


 色々と意気込みを語った後、最後に関根は言った。


「この球団は圧倒的に魅力が少ない。お客様の足が遠のいた原因、それを俺は選手の年齢が上がった事にあると見ている。そこで今年、二軍にいる若手に機会を与えて行こうと思う。二軍の選手はぜひそれに応えて欲しい」


 関根の挨拶の後は新入団選手の挨拶が行われた。

 今年の新入団は三人。三光大付属出身の池山大介、秀優学園の高野光範、そして育成枠で大学に行っていた栗山年宏。池山、高野が十七歳、栗山は二一歳。


 昨年、荒木もそうだったのだが、高校を卒業したての若者に一言挨拶をしてくれと言われても、何を言っていいかわからない。そのせいで池山も高野も聞いていて何を言っているのだろうというものであった。

 だが、大学を卒業するとその辺りは自然とやれるようになるものらしい。栗山は明らかに新入団選手という感じでは無い立派な挨拶をしたのだった。



 日高に帰った荒木たちは、早速新入団の三人を交えて呑み会に繰り出した。


 出陣式の後でも懇親会があり、そこでお酒が用意されたのだが、残念ながら一軍でやっている人たちを前にすると、どうしても気後れしてしまう。そのせいでどうしても二軍の選手だけで固まりがちである。

 それを気にして八重樫選手と渋井選手が話しかけて来てくれたが、面識の無い荒木たちからしたら、やはり雲の上の存在に感じてしまうのだった。


「同じ球団の先輩選手なのにな。なんであんな風に引け目を感じてしまうんだろうな」


 生麦酒をぐびぐび呑んだ後で小川がそんな事をぼやいた。


「同じ競技場で竜を並べて一緒にやってないから、ずっと憧れのままなんだと思うな。俺も毎年同じ風に感じるんだけど、絶対に良い傾向じゃないよな」


 羊肉を口に頬張りながら広沢が言った。

 その行儀の悪さは置いておくとしても、広沢の言う事には多くが同意した。


 新入団の選手で酒が呑めるのは栗山だけ。荒木と荒井ですらまだ酒は呑めない。そのため、四人が炭酸水を飲んでいる。


 徐々にお酒が入り声と気分が大きくなっていく。そんな酔った者たちの話を炭酸水を飲んでいる荒木たち四人が聞いている。


 酔った先輩たちに監督の言った事はどういう事と思うかと荒井がたずねた。


「そのまんまの意味だろ。俺たちを使ってくれるって事じゃないのか? だけど、今上げても観客動員にはつながらねえだろうからな。まずは二軍で試合に出ねえとな」


 ぷちぷちと枝豆の鞘を潰して出てきた粒を口に放り込みながら伊東が言った。


「だとしたらよう。岩下さんや、小川、広沢あたりが真っ先に機会が得られるかもな。今の獅子団は守備が弱いからな」


 二杯目の麦酒を喉に流し込みながらはたは言った。

 こっちは守衛の枠が空かなくて見通しは暗いと不貞腐れる。


「それはどうなんだろうな? 今獅子団は守衛は太宰府の伊東ってのが三年やってるけど、去年あの球団守衛が一人引退してるよな。だとするとあいつ一軍昇格するんじゃねえか? 開幕前に昇格になったら、秦にお声が掛かったりしないのかね?」


 広沢の指摘に、ぴたりと秦の麦酒を呑む手が止まる。

 にやっと口元を歪め、顔全体をほころばせた。


「秦じゃねえけどさ、守衛ほどじゃないにしても、先鋒も枠が少ないからなあ。岩下はともかく、俺や伊東、荒木はしんどいよな」


 麦酒を呑みながら片岡が、新入団の高野に、中盤もやれるようになった方がいいぞと助言。

 実は高野は先鋒と中盤の両方がやれる選手なのだが、どうやら片岡は知らないらしい。


「去年契約満期ぎりぎりで森が昇格したから、何気に今、先鋒は三年目の工藤ってのと竹本っての二人だけだったりしないか? 竹本ってのもあの感じだと時間の問題だろ。だったら次の合同練習で主張できればあるいは」


 岩下の指摘に、伊東が希望に満ちた顔をする。


 宴もたけなわになってきたところで、酒宴の話題は新入団の選手の中でも栗山の話になった。

 四年大学に行って入団という事は年齢的には岩下、片岡と学年は同じという事になる。だが、岩下も片岡も栗山の事を知らないらしい。


「俺は巨海こみ高校の竜杖球部だったんですよ。岩下さんと片岡さんは三光大付属でしょ? 俺たちは別の組で決勝まで行ったんですよ。花弁学院に負けましたけどね」


 それで育成枠という事で四年契約で大学に進学した。

 高校時代は中盤の選手だったのだが、守備力を磨いて後衛に転向。そこで一気に才能が開花。晴れて再契約を勝ち取った。


「つまり若松選手と同じ形態かあ。これはあれだな、広沢より先に上がるかもしれねえな」


 そう言って秦が煽った事で、全員の視線が広沢に注がれる。

 広沢は目を細めて栗山をじろりと見た。


「最終的には両方上がって二枚看板で見付球団を盛り立てれば良い。昨年谷松さんたちが言ってただろ? 俺たちの目標は見付球団を瑞穂一にする事だって。まあ、俺が先に上がって先輩の意地見せるけどな」


 広沢が不機嫌そうな顔で言って枝豆を口に放り込むと秦が、俺たちより年上だぞと指摘した。

思わず広沢は枝豆を一粒噴き出してしまった。

それが見事に正面に座っていた荒井に当たり、汚いと怒られてしまった。


「確かに契約更改してるから、今年契約五年目だもんな。ようはあれだ、先輩とか後輩とか意味が無いって事だな」


 そう言って片岡が大笑いすると、皆がつられて笑い出した。

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