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第50話 学校が大慌て

 決勝の翌日、武上、戸狩、貝塚の三人は組合せ抽選会に出席するため、幕府へと向かった。


 その裏で福田ふくで水産高校の職員室は蜂の巣を突いたように大騒ぎとなっていた。

 開校以来初、球技の部が郡予選を優勝したのである。正確に言えば、開校以来初、団体球技の部が郡予選を優勝したのである。

 応援団を派遣せねば、生徒にも応援の練習をさせねば、その為には夏休み期間中の生徒を登校させねばと、教師たちは大騒ぎとなっていたのだった。


 そもそも団体球技で東国予選に出た事が無いため、会場がどこになるかもわからない。

 川上教頭たちが危惧していたのは、相手の高校の応援団が満席でこちら側の応援席がガラガラという状況。それはあまりにも選手たちが可哀そうである。


 応援部の部員を呼び出して、吹奏楽部の部員も呼び出し、明日から急遽応援練習をしようと大盛り上がりであった。

 運動部の二年生たちも出られる者たちは全員応援に駆り出してはどうか?

 そうしたら来年は我々がと気合が入るのではないか?

 そんな事が話し合われていた。


 ある程度話がまとまって来ると、突然野球部顧問の広瀬がそんなに輸送車が準備できるのかと川上に指摘。当然その輸送車は竜杖球部と応援部の予算で用意する事になるのだが、そんなに予算が余っているのかと。


 そこは当然各部で融通していただかないといけないと川上が説明すると、野球部の広瀬、蹴球部の大沢、闘球部の杉下は一斉に反発した。こちらだってギリギリの予算でやっているのに冗談じゃないと。


 それに対し水泳部の梶本が同じ学校の運動部が活躍しているのに、それを応援できないというのはいささか恥ずかしすぎると支援に賛成の手を挙げた。送球部の別当、篭球部の土屋も意義無しだと賛同。他にも庭球部、排球部、羽球部、卓球部も賛同。


 最終的に漕艇部の山内が野球部、蹴球部、闘球部を除いて応援に行ける運動部の二年生は応援に行くという事にしようと言い出した。文化部でも行きたい者はいるだろうから、各部で参加者を募ろうと。


「ですが、我が校の部活の運営費の三分の一は、《《今年も一回戦落ちだった》》野球部、蹴球部、闘球部に配られていますからなあ。輸送車の準備がどこまでできるかはわかりませんから、全員は連れて行けないかもしれませんね」


 山内の皮肉たっぷりの台詞に、広瀬が激怒して勝手に会議室を出ていくと、大沢と杉下も同様に会議室を出て行った。



 その日の三時過ぎ、武上たちは学校に戻って来た。

 一旦職員室に行き、抽選結果を報告した後に部室へと向かった。


 部室に入ると、部の卒業生たちが何人か応援に来てくれていた。昨年の卒業生からは大学生の藤井と川村が来ている。

 さらに、送球部の長崎、松原、篭球部の三沢、堂上もやってきていて、組合せ抽選の結果を心待ちにしていた。


 竜杖球部の決勝が行われている裏で送球部も準決勝が行われた。

 準決勝ともなると相手はさすがに強豪校で、東国大会に何度も出場している高校であった。荒木たちを借りられなかったということもあり、あっさりと敗退してしまったのだった。

 だが、ここまで手を貸してくれた恩がある。だから例え会場まで自腹だとしても俺たちだけでも応援に行くと、長崎たちは鼻息が荒かった。


 どうだったんだと皆を代表して荒木が聞く。

 武上たちに皆の視線が集まる。皆、無言で武上たちの返答を待った。


「えっと……陸奥むつ農大付属っていう東北の強豪校……」


 顔を引きつらせながら戸狩が言うと、竜杖球部の卒業生たちは一様にガッカリした顔をした。陸奥農大付属っていえば、東国大会の常連校。良い選手が入った時には決勝に進む事もある。


 そう言えばこの人くじ運が悪かったんだったと大久保と石牧が言い合った。

 それが耳に入った戸狩が額に青筋を浮かべる。


「そう言われるだろうと思って今回は俺は引いてねえよ! 文句は引いた人に言ってくれ!」


 言うと思ったんだよと拗ねて戸狩は不貞腐れた。

 じゃあ誰が引いたんだと川村に聞かれ、戸狩は無言で武上を指差した。


「いや、だって戸狩君がもの凄く嫌がるから……私だって嫌だったのよ。私だってくじ運無いからって拒絶したのよ。それなのに貝塚さんったら酷いのよ。さっさと引いて来てくださいって怖い顔しちゃってさ」


 だってだってと子供のように拗ねて泣きそうな顔をする武上に、川村も呆れてからかう気力も起きないらしい。そんな二人に大久保が、いつもこんな感じなんで気にしないでくれと説明した。


 対戦相手も問題だが会場も問題である。東国大会は十日間、立て続けに試合が行われる。その会場も小田原、幕府、郡山、多賀城とどこも福田からは遠い。


「最初の会場は郡山だそうです。だから、さっき教頭先生と相談して俺たちは高速鉄道で向かう事になりました。しかも試合開始時間が早いので前泊だそうです」


 さらに言えば、もし勝ち続けた場合、郡山から小田原に向かわないといけない。

 元々小田原会場を引いていれば移動無しの遠征したままだったのに。そういう意味でも実にくじ運が悪い。



 くじ引の結果を聞くと、さっきまで揉めていたのはいったいなんだったんだと川上は笑い出した。郡山まで輸送車で行けるわけがないではないか。

 それでも初の東国予選である。応援部と吹奏楽部だけ、それ以外は有志で応援に向かってもらおう思うと川上は嬉しそうに言った。

 ところがそれに武上は苦笑いした。


「実はその……大会説明がありまして、竜が暴れる危険があるので、過度な鳴り物や怒声での応援は控えるようにと……」


 結果的に応援は有志のみ個別でという事になったのだった。


 その応援の費用は浜松市の北部にある乗竜牧場での最終調整に使われる事になった。

 暇している学生の川村、藤井もやってきて練習に参加してくれた。

 久々に竜杖球をしたというのももちろんあるのだろうが、川村も藤井も明らかに昨年よりも強いと感じたらしい。昨年の卒業生よりも今年の一年生の方が明らかに技術が高い。これは東国予選出場も納得できると。


 だが欠点も多い。

 後半は川村は大久保と内山を、藤井は石牧と青野を徹底して指導した。

 二人とも、まともな技術指導を受けるのは初めての事で、かなり気付かされる事が多かったらしい。わずか一日の調整であったが、目に見えて動きが良くなったように感じる。



 こうして、福田水産高校竜杖球部は万全の体制で郡山へと向かったのだった。

 夏休み期間中でどうにも暇らしく川村と藤井も同行。さらには責任者として川上も同行。


 一行は見付駅で東海道高速鉄道に乗車。駿府駅、甲府駅を経て幕府駅へ。幕府駅で東北道高速鉄道に乗り換え、小山駅を経て郡山駅に降り立った。



 郡山市は陸前郡の郡府で東国第二の都市である。

 ただ東国は幕府一極集中という政策をとっているため、西国の大都市に比べると大都市といってもそれなりという感じにすぎない。


 逆に西国は地方分権化が進んでおり各郡府は軒並み栄えている。

 その代わり首都である皇都、国府である西府でも、幕府に比べるとそこまで大都市という感じはない。

 荒木たちが住む三遠郡の郡府は豊川なのだが、西国のどの郡府よりも人口でも経済規模でも劣ってしまっている。


 郡山は大都市ではあるのだが、見渡す限り周囲は山である。学校の屋上から遠州灘が一望できる福田水産高校からすると、何とも別世界という感じがする。真夏だというに気温もどこか涼しく感じる気がする。


 そんな別世界の風景が遠征に来たのだという気分をいやが上にも高まらせるのだった。

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