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第38話 北国に着いた

 竜杖球部の部員たちは東海道高速鉄道に乗り小田原駅へ行き、駅からほど近い小田原空港から飛行機で北国の室蘭空港へと向かっている。



 瑞穂皇国には空港は全部で九つある。大きなものが六つ、小さなものが三つ。大きな空港は北から北国の室蘭空港、東国の直江津空港、小田原空港、西国の福原空港、府内空港、南国の台北空港。小さな空港は全て南国で、奄美空港、沖縄空港、小笠原空港。


 瑞穂皇国は四つの国による連邦制を敷いており、それぞれの国府である北府、幕府、西府、南府を中心に高速鉄道、高速道路が街道に沿ってきっちりと整備されている。


 競竜の中でもっとも賞金の高い級が『伊級』という翼竜の競争である。

 つまりは昔から翼竜がいる。当然翼竜を使役し、空の便というものが大昔から世界的に発達している。

 ただ、残念ながら瑞穂皇国には元々翼竜は住み着いておらず、今の『伊級』と呼ばれる翼竜は外国からの輸入であった。


 瑞穂皇国ではその分海上交通が栄えていた。その為、瑞穂各地で港は整備されていた。そこに翼竜が入ってくる事になり、空港が必要という事になった。

 ただ、そんな事を急に言われても広い空き地などあるはずが無く。困った統治者たちは、大きな港を拡張して空港として使う事にした。空港がどこもかしこも海に面していて、大きな港と併設になっているのはその為である。



 現在の竜杖球部は一年生が多く、初めて飛行機に乗る者も多く、最初はかなりはしゃぎ気味であった。恐らく一番はしゃいでいたのは貝塚だっただろう。


 最近、もう一年生たちが自分をちやほやしてくれない事に貝塚は気付いている。さらに三年生たちが下級生たちのおねだりに弱い事にも気づいている。おまけに一年生たちは三年生たちの意向に逆らわない事にも気づいている。

 つまりは二年生を篭絡すれば、なし崩し的に部全体の意志を操れるという事に気付いた。都合の良い事に、今の二年生、大久保、石牧、福島の三人は非常に貝塚に甘い。


 貝塚は二年生の三人に数札をやろうともちかけた。

 二年生たちが鼻の下を伸ばし、やろうやろうと言い出すと、今度は三年生たちを誘った。きっとうんと言ってくれると貝塚は思っていた。

 ところが三年生で乗って来たのは戸狩だけであった。


「あのなあ。飛行機はうちらの貸し切りじゃないんだぞ? 他の客の迷惑も考えろよ。教頭に叱られるぞ? せめて向こうに着いてからにしろよ。というか、戸狩もデレデレしてないでそう言って叱れよ。お前部長だろうが!」


 普段口数の少ない杉田に一喝され、貝塚たちはしゅんとしてしまった。

 一年生たちもやれやれといった態度で貝塚たちを見ている。

 川上教頭は満足気にうんうんと頷いた。


 その隣で、魂が抜けたような顔で武上が呆然としている。


 ちょうど出発の前日に見付球団の若松選手の結婚式が催された。

 さすがに極めて個人的な事であり、結婚式が中継される事はなかったが、その後で記者会見が行われた。

 広岡先生は同席しなかったが、若松の口からはっきりと『大学時代の友人』『元高校教師』という情報が語られてしまった。事前に部員たちから話は聞いていたが、嘘であって欲しと願っていた。だがどう考えても嘘じゃなかった。

 昨晩、一晩武上は泣いた。

 そのせいで今朝見付駅に現れた武上は化粧がぼろぼろであった。



 室蘭空港に降り立った一行は、昨年同様に土井が手配してくれた輸送車に乗って伊達町へ向かった。

 今年も宿泊所は『安達荘』であった。心なしか昨年よりも老朽化したような感じがする。


「……えらいボロっすね」


 誰か言うだろうとは思っていた。恐らく言うとしたら岡本だろうと思っていたら大庭であった。

 荒木は大庭の頭を叩き、思ってても口に出すなと小声て叱った。


 昨年同様安達夫妻は、笑顔を絶やさずに今年もよく来てくださいましたと挨拶した。昨年は『《《ふくだ》》水産』と言い間違えたが、今回はちゃんと『《《ふくで》》水産』とちゃんと言っていた。


 大広間に荷物を置き、初めて北国に来ただの、ここまで長かっただの、見渡す限り周囲が何も見えないだのと、皆思い思いに好き放題言っている。

 三年生と大久保、石牧は昨年も来ているので安達夫妻を良く知っている。放心状態でどうにもならない武上に代わって荒木たち五人で挨拶を行った。



 暫く自由に過ごしていると、広岡先生の先輩の土井が到着。

荒木を見るとすぐに土井は待ってたよと言ってぎゅっと抱き着いた。

荒木は恥ずかしそうに逃げ出そうとするのだが、土井が力を込めて離さない。

どうやら土井にとっては荒木が最も印象に残っていたらしい。


 その後土井は昨年同様、今回の合宿のあらましを説明した。

 早朝に各牧場から迎えが来るので、牧場へ行き、竜の世話をしてもらう。

 その後朝食を取ってもらい、そこから竜の騎乗を習ってもらう。

 最後に騎乗した竜の世話をして、昼食を取ってここに戻ってもらう。


「食事は育ち盛りの君たちでも十分満足できる量が用意されているから、絶対に竜を潰して食べようなんて思わないように!」


 そう土井が言うと、一年生たちはそんな事する奴なんていないと言って大笑いした。

 だが、三年生と大久保、石牧の五人は顔が引きつっている。まだそれを言うのかと荒木がぼそっと呟くと、土井は大笑いした。


「去年の感じだとそこから勉強会って感じになるのかな? その後は夕飯を食べて、入浴してもらって、翌朝早いからそれに備えて寝てもらう感じね。当たり前だけど寝坊は厳禁だからね」


 ただ前回同様、今回も牧場は五つしかない。その為、基本的には牧場へは三人で行ってもらう事になると一同を見渡して土井は言った。


「おし、じゃあ、去年みたいに三年と大久保、石牧で部員を取り合いするか」


 そう言って戸狩が立ち上がった。

 すると荒木が戸狩も行くのかとたずねた。

 当たり前だと戸狩は言い切った。なんなら貝塚も行くんだと。

 だが、戸狩には運動制限が病院から課せられている。


「別に労働って言ったって、やれる事はあるだろ。お前たちの働いた金で合宿なんて嫌だからな。ただ俺は竜には乗らねえよ。ただし、福島と大庭は守衛だけどちゃんと竜に乗れるように練習しろよ」


 順番は昨年同様じゃんけんで決めようと戸狩は言い出した。

だが大久保から、戸狩さんのところには竜に乗れる人が一人は入らないとまずいのではという指摘が入った。

それもそうだという事で、乗竜経験のある長縄、岡本、樽井、青野、貝塚の中から、戸狩は長縄を選んだ。


 五人には絶対に負けられない理由がある。

 間違いなく失言して気苦労する事になる岡本と大庭だけは引きたくない!


 まず最初に勝った石牧は樽井を指名。この班だけが二人の組となる。ここから先は全て三人組。


 一巡目、次に勝った大久保は同じ中学の青野を指名。

 杉田が同じ中学校の内山を、戸狩は溝口を指名。

 一番負けた荒木は熱い視線を受けて貝塚を指名。


 残りは三人。

 福島か、岡本か、大庭か。

 大久保、杉田、荒木で残りの三人を取り合う事になった。


 はずれの二人は絶対に嫌だと、荒木は手を合わせてぶつぶつと繰り返して祈った。

 それに対して大庭がはずれって言うなと抗議。

 一年生たちが一斉に笑い出した。


 すると、福島先輩をはずれ扱いはかわいそうと岡本が言い出した。

 びしっと岡本を指差し、お前に決まってるだろうと荒木が激昂。それに一同は大爆笑であった。教頭と土井さんも腹を抱えて笑っている。


 結局じゃんけんの結果、大久保が福島、杉田が岡本、荒木が大庭となった。



 その日の夕方、杉田と荒木は、武上と三人沈みきった顔で、明日から何が起こるんだろうと呟いて、ぼそぼそと夕飯を食べた。

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