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第32話 部員が来た!

 案の定というか、放課後、新入部員の受付が開始になっても誰も来なかった。

 部室の前に机と椅子を置き、そこに石牧と大久保が暇そうに座っている。


 戸狩がパッと見て竜杖球部とわからないのかもと言い出し、石牧と大久保の後ろに竜杖を立て掛けた。

 当然、そんな気休めで状況が変わるわけがなく、石牧は自分の竜杖を磨き始め、大久保は机に突っ伏して寝始めている。

 そんな二人にどう考えても場違いな高くて綺麗な声が投げられた。


「あの……ここって竜杖球部の受付で合ってますか?」


 目の前に立った女子生徒に石牧は、どこの部の受付が知りたいのかとたずねた。

 すると女子生徒は口元を隠し、くすくすと笑い出した。


 可愛い!

 石牧は瞬時にそう感じた。

 手足が細く、なんとなく小学生が初めて制服を着ましたというような、着ているというより着せられているという感じを受ける。

 背が小さく、胸も小さい。だが顔は美形そのもの。


「私、竜杖球部の補佐したいんですけど、受付ってしてもらえるんですか?」


 石牧はガタンと立ち上がった。その衝撃で大久保も目を覚ました。

 部長を呼んで来ると言って石牧は部室に駆け込んで行った。


 ただ扉をちゃんと閉めなかったせいで、上ずった声で『凄い美少女か来た』という石牧の声が見事に漏れてしまっている。

 それを聞いた大久保は恥ずかしいやつだと眉をひそめた。

 女子生徒は口元を隠し、くすくすと笑っている。

 気になって大久保も女子生徒の顔を見る。確かに石牧の言うように美少女ではある。ただ、色々と好みが違うなと感じていた。


 部室から中々石牧たちが戻って来ず、大久保は女子生徒に椅子に座るように促した。


 どうやら漏れ聞こえてきたのは男子生徒が来なかったら補佐を入れてもしょうがないという言葉であった。

 早く結論出してやれよと大久保が呟くと、女子生徒はまたくすくすと笑い出した。

 この娘が入ってくれたら部が明るくなりそう、そう大久保は感じていた。


 やっと石牧と戸狩が部室から出て来た。

 どうやら戸狩は想像以上に可愛いと感じたらしい。女子生徒を見るとあからさまに緊張した顔をする。

 ただ、容姿と部の実情とは別問題である。戸狩は部の実情を懇々と説明し、もしも締め切りまでに六人以上の生徒が来るようなら採用しようと思うと言ったのだった。


 そこから大久保と石牧の間に座って女子生徒も一緒に受付をする事になった。



 そこに少し遅れて荒木と杉田がやってきた。


 二人は史菜に呼ばれて放送部に遊びに行っていた。

 史菜は放送部の部長で、草崎という二年生と一緒に受付をしていた。

 部長じゃないなら暇だろうから杉田君と遊びに来て欲しいと言われ、二人で放送部に遊びに行ったのだった。

 杉田を見て受付の草崎が黄色い歓声をあげる。


 二人の効果なのか、放送部の受付に吸い寄せられるように女子生徒が数人やってきた。そのせいで史菜たちは説明で忙しくなり、そろそろ部室に戻ろうかと言って戻って来たのだった。



「あ! 荒木先輩! お久しぶりです!」


 荒木を見ると女子生徒は嬉しそうに手を振った。最初それが誰なのか荒木はわからなかった。近寄って初めてそれが同じ中学の娘だという事がわかった。


「おお、貝塚ちゃんじゃない。この学校来たんだね。どうしたの、そんなとこに座って」


 女子生徒――貝塚は荒木が自分の事を覚えていてくれたという事だけで嬉しかった。さらに名前まで憶えていてくれた事に若干感動を覚えている。


 ここまでの様子を大久保たちから聞き、貝塚とは同じ中学で同じ部だったんだと説明すると、大久保も石牧もそうだったんですねと無機質に相槌を打った。

 何があったのだろう?

 二人からの視線に若干冷たさのようなものを感じる。


 荒木が竜杖球部は男子生徒しか出れないという話をすると、貝塚は補佐しようと思ってきていると説明。

 補佐なんて必要かなと杉田と笑っていると、どういうわけか大久保と石牧が必要に決まっていると真剣な目で抗議してきた。粗忽な戸狩先輩に補佐なんてどうせできっこないんだからと。


 すると部室から戸狩がぬっと出て来て、大久保と石牧の頭を無言で小突いた。

 それを見て貝塚はくすくす笑う。その顔を見て大久保と石牧はデレデレする。


 戸狩から事情を聞いた荒木は貝塚に、新入部員が集まると良いなと声をかけた。

 「はい」と貝塚が元気に返事をすると、その顔に戸狩がデレデレした。



「やっぱ色々見たけど、俺、竜杖球部にしようと思うわ。竜術部が無いんだから、選択それしかねえだろ。お前も一緒にやろうぜ」


 そんな声が後ろの方から聞こえてくる。

 振り返ると二人の生徒がこちらに向かって歩いて来るのが見える。

 すると貝塚が、長縄ながなわ君だと言って手を振った。


「あ! 荒木先輩じゃないですか! 荒木先輩も竜杖球部なんですか?」


 そこにいたのは同じ中学校だった長縄と樽井たるいであった。

 二人とも竜術部である。


 だが、そんな事はどうでも良い。

 それよりも今の長縄の発言。羞恥心に押しつぶされながらやった昨日の漫才はいったいなんだったのだろうと泣きたくなる。


 二人は貝塚に急かされながら入部申請に名前を書き、よろしくお願いしますと言って荒木に頭を下げた。



 その後、立て続けに杉田と石牧と同じ中学の内山、戸狩と同じ中学の溝口が入部した。さらに大久保と同じ中学の青野が入部。

 ここまでの五人は中学時代に例の郡予選の決勝の報道を耳にしており、一通り部活を見てからこれと思う部が無かったら竜杖球部にしようと言い合っていたらしい。



「五人かあ。もう一人だな。もう一人入ったら貝塚ちゃんを採用できるんだけどなあ」


 そう言って戸狩は貝塚を見て微笑んだ。

 すると貝塚は手を合わせて目をぎゅっと瞑り、神様と可愛く言って拝み始めた。その姿に石牧と大久保がデレデレする。


 すでに入部が決まった長縄たちは、荒木たちと竜杖で球を弾き合って遊んでいる。



「いや、だから俺ずっと蹴球部で、竜杖球なんてやったことねえから。入るならお前一人で入れよ」


 そう言って揉めている二人組がやってきた。

 もう一人の生徒は荒木たちを指差して楽しそうだと思わないかと必死に勧誘。

 だが、竜なんて乗った事はおろか、触った事すら無いからと必死に拒んでいる。


 それを聞いていた貝塚は、がたっと席を立ち、嫌がっている方の生徒の手を取る。にかっと笑い、一緒に頑張ろうよと誘った。

 生徒は真っ赤な顔で照れ、こくこくと壊れた玩具のように縦に首を振った。


「やった! これで私も採用ですよね? 採用してもらえますよね?」


 戸狩が無言で頷くと貝塚はやったと言って大はしゃぎした。


 こうして長縄、樽井、内山、溝口、青野、岡本、大庭、貝塚、計八人が入部する事となった。

 これで戸狩も入れて十二人。竜杖球部は単独で夏の大会に出場できる事になったのだった。



 広岡先生が言っていたように、諦めなかったらちゃんと奇跡は起きた。

 後は新しい顧問が決まるのを待つのみ。

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