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第31話 漫才やるの?

 年が明け、荒木たちは三年生となった。


 瑞穂皇国の一学期は一月から始まる。

 正月のお祝いを過ぎ、数日も経つとすぐに新たな学年での一学期が開始される。


 まずは入学式があり、その翌日に始業式が行われる。そのため、年末近くに学級別けを行い、新年早々に体育館の式典の準備と、先生たちにとってこの時期は一年で最も慌ただしい時期となる。冬休み期間中部活動が休止されるのは実はその為だったりする。


 始業式からの登校の為、荒木たち生徒は意外と年始はゆったりである。

 気怠そうに登校し、昇降口の前に張り出された学級表を見て、面倒そうな顔で新たな教室に行くだけである。女子生徒たちは学級別けに一喜一憂するのだが、男子生徒はそこまでではない。



 一番窓際の前の方の席に座っていると、聞き慣れたあの声がやってきた。


「荒木君おはよっ! また同じ学級になれたね! 一年よろしくね!」


 いつものように史菜が行儀悪く前の机に腰かけた。

 今日は紺。縁に白いひらひらした飾りが付いている。あんなの履いて、痒くなったりはしないのかと思わず心配してしまう。


「これで結局高校三年間ずっと一緒なんだな。何かやった? 教師買収したとか」


 それ以上の事を言おうとしたが、史菜が本気で怒りそうでそこで止めておいた。

そんな事するわけないし、そんなお金も無いと、史菜は少し頬を赤らめ荒木の腕をパンパン叩いて笑い出す。


「ねえ、竜杖球部、補佐の部員が入ったって聞いたんだけど、どんな娘? 元何部の娘なの? 可愛い?」


 最初何の事を言ってるのだろうと思ったのだが、徐々に史菜が何を勘違いしているかわかった。わかってくると思わず笑い出しそうになったが、そこを必死に堪えた。堪えていると代わりに悪戯心が芽生えてきた。


「可愛いく思うかどうかは人それぞれだろうけど、三年生だよ。背は平均的で細身で短髪だね」


 完全に勘違いしている史菜は、どの娘なんだろうと不安げな顔で教室の中の女子生徒を見回している。うちの学級じゃないと指摘すると少し安堵した顔をし、そうなんだと荒木の顔を見て微笑んだ。


「荒木君はどう思うの? その娘の事、可愛いって思う? でも荒木くん、おっぱい大きい娘はみんな可愛いとか言いそうだもんな」


 しれっと失礼な事を言う史菜に、荒木はそんな事は無いと強く反論した。

そんな荒木に史菜は、避球部の諸井さんの胸に釘付けになっていたと指摘。


「あのな、史菜だって、好きな料理と、菓子が好きってのは似てるけど全然違うだろ? 俺にとっては諸井さんはお菓子なんだよ。好きな料理とは全然違うの!」


 荒木はそう力説するのだが、浮気男の言い訳みたいと指摘されてしまった。

 ……確かに言われてみるとそう思えなくもない。


「ほら、気になってる補佐の部員が来たぜ? どんな娘かちゃんと確認しとけよ」


 荒木が教室の入口を指差すと、おっすと言って戸狩が入って来たのだった。

 首を傾げた史菜を見て荒木は大笑いした。


「どうだ史菜、うちの新しい補佐、可愛いかろう?」


 そう言って荒木が笑うと、戸狩は心底気持ち悪いという顔をした。史菜の顔は引きつったままである。


「補佐って戸狩君だったんだ……そうなんだ。私、変に誤解しちゃってた」


 苦笑いする史菜を見て、戸狩は何の話だと荒木にたずねる。

 なんでも絶世の美女が竜杖球部の補佐になったらしいという噂なんだそうだと荒木は大笑いした。


「絶世の美女ねえ。そういう一年生が補佐で入ってくれたらがっつり部員も増えるかもだけどな。去年の事を思ってもなんとか六人、できれば守衛込みでその人数入部してもらわないとだもんな」


 そう嘆く戸狩に、六人だとまたどこかから人を借りないといけないと荒木が指摘。

 それに対し、常識的に考えて八人も入ってくれるわけ無いだろうと戸狩が言い放った。


「八人かあ。確かにな。お前を抜くと四人しかいないんだもんな。倍の人数が新入部員で入るとは、正直とても……。広岡ちゃんも寿退職しちまって、顧問も誰になるかわかんねえしな」


 鬼軍曹みたいなのが来たらどうしたもんかと荒木は軽くため息をつく。

 ふと史菜を見ると、目を丸くしてこちらを見ていた。


「えっ? 広岡先生ってそうなの? 退職したのは知ってたけど、そうだったんだ!」


 驚く史菜を見て荒木はしまったという顔をした。言ったらマズかったかなと戸狩に確認を取った。


「別に良いんじゃねえか? どうせ今年中に瑞穂中の人が知る事になるんだろうし」


 相手は誰なのと聞き出そうとする史菜に、荒木と戸狩はさあと言ってとぼけた。

 荒木の肩をつかんで教えてと言って乱暴に揺すったのだが、荒木は笑っているだけで言わなかった。そんな二人に史菜は「けち!」と悪態をついたのだった。



 始業式が終われば、新入部員への部活紹介会となる。


 前日、荒木たちも何をするか必死に考えた。

 そもそも昨年何をしたんだっけという話になったのだが、荒木たち三年は全く思い出せなかった。ただ石牧は覚えていた。

 昨年は浜崎先輩が少し喋って、川村先輩と藤井先輩の二人で漫才をしたらしい。


「おい! 石牧! お前俺たちが覚えてないからって、適当言ってるんじぇねえだろうな!」


 荒木にそう指摘された石牧は間違いないと胸を張った。こういうネタだったと言うと大久保も思い出したらしく、あれが竜杖球部だったのかと笑い出した。


 戸狩が無言で杉田と荒木の肩に手を置く。


「ちょ! 冗談じゃねえぞ! 俺はやらねえからな! そんなもんウケるわけねえだろ! そもそも去年いったい誰がそんなネタ考えたんだよ!」


 そう言って荒木が拒絶すると、杉田は一年前の事をうっすらと思い出したらしい。宮田先輩だと呟いた。

 そこまで言われて荒木もやっと思い出したらしい。川村と藤井が引きつった顔で漫才の練習するところを観客代わりといって真正面で見せられた事を。


 ネタは今からみんなで考えようと変に張り切る戸狩。

 大久保と石牧が妙に乗り気で、この部分はこうしたら良いんじゃないか、ここはこうしたらどうだろうと、荒木、杉田をそっちのけで盛り上がりだした。


 どうやらネタが固まったらしく、荒木と杉田は台本を渡された。内容としては昨年の北国合宿の一コマであった。

 ただ……どうにもやっていて面白い気がしない。戸狩も大久保も石牧も面白いと言って笑っているのだが、それって台本を書いた本人だから笑えるだけなのではないだろうか?



 こうして部活説明会当日を迎えた。


 紹介は運動部、文化部の順で行われ、部員数の多い順で行われていく。

最初に野球部から始まり、蹴球部、闘球部と続いていく。

野球部、蹴球部、闘球部など、部員たちによる寸劇が行われたり、小道具を持ち出したりして会場の笑いをさらっていく。

 団体競技だというに竜杖球部は一番最後。


 ついに竜杖球部の番となった。

 最初に部長として戸狩が竜杖球の説明をした。


「では、どんな部なのか、実際に部員の二人の漫才をお楽しみください!」


 そう戸狩に言われ、引きつった顔の荒木と杉田が壇上の真ん中に立った。


「どうも、荒木です」

「どうも、杉田です」

「「二人合わせて、竜杖球部です!」」


 そう挨拶した後で戸狩が二人をぱしっと叩く。


「おい! それだと部員が二人しかいないみたいじゃないか! もっと真面目にやれ!」



 三年生にはこれだけで大うけだった。

 二年生からもそこそこ笑いはあった。

 だが、一年生はぽかんとしていた。


 結局、荒木と杉田の努力の甲斐無く、ウケているのは三年ばかりで、肝心の一年生の反応は全くなかった。

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