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【完結】竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
あとがき

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あとがき

 競竜師を書き終えてから、ここまでいくつかのショートストーリーを書いてまいりました。

 ショートストーリーはショートである以上、少ない文字数で、設定をちゃんと書かないといけません。そうなると当然深い話は書けませんし、設定とオチだけという話になる事もしばしば。どうしても恋愛系の話になってしまう事が多いです。


 できる事ならショートストーリーでも恋愛物以外を、そんな風に毎回考えてはいます。当然、それはニーズとは違うでしょうから、読まれる機会はぐっと減ってしまうでしょう。それはそれで仕方がないかなとも思っています。


 ショートストーリーをいくつも書いてよくわかったのは、長編では、そういう深い設定や、込み入った設定が使えるという利点があるんだという事でした。数千字では到底書ききれない設定、わざわざ長編を読んでいただける方は、そういうものを楽しみにしてくれるのだろうと。


 でも、深い設定ってなんだろう?

 設定資料は数か月をかけてちまちまと、何なら書いている最中に追記して作っているわけですけど、そのページ数が多くなったからといって、それが深い設定なのかというと、それはそれで違う気がする。


 色々と書いていて、この「設定」というもので気が付いた事があるんです。どうやら話が広がる設定と、一言書いて終わりの設定というものがある。

 例えば競竜師で話が広がったなと感じるのは、紅花会の三姉妹の設定。当初の設定では、会員制竜主会を会長の長女がやっているという程度でした。強いて言えば次女と三女は牧場をやっているという程度。まさか、この三姉妹が後々、義弟の岡部を支援し会派を支える柱として活躍するなんて、当初は全く考えていませんでした。

ましてや会長の奥さん(あげは)なんて名前すら決まって無くて。


 逆に絶対に話が広がるはずと考えていた競竜の五つの協会の話は、さほど広がりませんでした。それと会派とは別に存在している古河牧場なんかも。


 もしかして、この差が深い設定と浅い設定の差なのではないか?

 もしくは、こうして一つの設定を深堀していく事で深い設定というものに育っていくのではないだろうか?

 抗竜記を書きながら、そんな事をぼんやりと感じながら、次の話はどんな話にしようと考えていました。


 次に何を書こう。毎日少しづつでも書く事が日課になってくると、書かない日があるという事が怖くなってくるんです。(重度の体調不良の日は別ですが)

 暑い夏が過ぎ、秋になった頃から、かなり具体的に来年の連載をどうしようと考え始めました。

 抗竜記を書きながら感じていたのは、超長編にハイファンタジーは向いていないかもしれないという事でした。ハイファンタジーというものは雰囲気を楽しむものらしく、設定をいくら詳細に書いても、その設定が全然生きている実感が無いんです。


 ハイファンタジーといえば真っ先にRPGのようなゲームをリンクして見てしまうのですが、どうやらそうでは無いらしい。RPGのようにストーリーや背景、設定で魅せるものではなく、登場人物の動きで魅せるのがハイファンタジーらしいのです。つまり、ゲームでいえばキャラゲー。


 次は、もっと面白そうな設定で話を書いてみたい。そればかり考えていたんです。誰も見た事が無いものに挑戦したいとも考えていました。


 この話を書き始めたのは、抗竜記の終わり頃。『砂塵の彼方にある栄光』を書き始めた頃です。

 そこでふと思ったのは、競竜師のスピンオフを書いてみたらどうだろうかという事でした。実際、競竜師の時にそんな感想もありました。(恐らくは別の主人公で競竜師を書けという意味でしょうが)


 競竜師を書いていて、自分の中でもの凄く疑問に感じていた事があったのです。それは、競竜師の中のとある設定に関するもので、1章17話で、戸川が岡部にする会派の説明部分。

『いくら商業動物やいうても、いらなくなったらポイいうわけにいかへん』

 だから、竜一頭一頭の競竜としての役割を終えた後にも責任を持っているという説明。

 この件、実は最後まで詳細が全く語られていないんです。


 もちろん今回の竜杖球のために語らなかったわけではありません。設定が無かったんです。この事は競竜師を書いている途中で気付いてはいました。具体的には、5章33話で『サケケアラシ』が輸送事故で竜運車もろとも燃えてしまった時です。


 競竜としての役割を終えた竜ってどうなってしまうのだろう?

 もちろん良い竜は繁殖入りできるだろう。ではそうでない竜は?


 そこでふっと思い浮かんだのは「ポロ」というスポーツです。ポロシャツのポロといえば想像いただけるでしょうか。ポロシャツには、胸に馬にのって杖を持った人が刺繍されていますよね。あれがポロというスポーツです。

 ならば、これを呂級の竜でやっている事にしたらどうだろうか?

 こうして、竜杖球の最初の設定はできあがりました。



 スポーツのプロットというのは、そこまで込み入ったものはありません。特に団体球技の場合、どんな大会に出て、どこと対戦して、どんな結果になったか。それをただただ考えていくだけです。常勝ではつまらないですから、ほどほどに引き分けや敗戦を入れる。こうして、試合結果だけをただただ組んでいく事で最初のプロットは完成です。


 ですが、そんなストイックなスポーツニュースを読んでも、あっという間に飽きてしまうと思うんです。そこで、この話のもう一本の柱であるヒロインとの恋愛の話を付け加えました。

 これは私の偏見かもしれませんが、サッカーでもFWって女子にモテる気がするんですよね。そこで主人公に恋する女性を数人出そうとなったんです。


 主人公はFW。という事は陽キャ。じゃあ、お相手は非モテ。

 主人公はプロの選手。という事は女子アナにターゲットにされる。負けヒロインは女子アナ。

 あとは高校時代のマネージャーかな。

 安直かもしれないが、この辺りが王道じゃなかろうかと。


 競竜師では、主人公の岡部に報道から様々な負の感情が降り注いでいたのですが、それをヒロインに向けたらどうなるだろう?

 そんな風に考えて、ヒロインの美香を学生時代にいじめていた娘がやくざと繋がり、美香の両親にまで危害を加えるという、ちょっと目を背けたくなるような設定にしました。



 実はこの話、第1章は当初のプロットにはありませんでした。第1話から数話を書いたところで2章1話に飛ぶ予定だったんです。つまり、1章の50数話分、高校時代編は1話を書いた後で挿話したんです。

 理由はいくつもあるのですが、2章から書いてしまうと史菜との出会いが無いんですよね。それが無いとただただ発情した女子アナがしつこく言い寄って来るだけになってしまうと思ったのです。

 それと、いきなりプロじゃなく、高校時代から始まった方が、一歩引いた視点からプロを見れて、竜杖球というスポーツの概要がわかりやすいんじゃないかって思ったんです。


 それとこの話のラスボス、堀内明紀がどんな奴なのかもわかるでしょう。

 この堀内について、過去の話としてごにょごにょ説明するより、急に現れて嫌味を言う方が嫌な感じを受けるし、知らないところで捕まる事で小者感も出せる。しかも、その堀内と史菜が繋がっていたとなれば、読んでいる方にも「それは史菜ちゃん、ダメだわ……」って思ってもらえるんじゃないかと思ったのです。


 ちなみに、美香は苫小牧の路地裏での再会(2章14話)の場面が出会いになる予定でした。初対面で、いきなり借金を肩代わりして付き合う事になるとか、ドラマにありそうな設定だと思ったんですよね。



 当然、1章を丸々挿話なんていう豪快な無茶を働けば、どこかに歪みは出ます。

 元々、プロットは5章分で作っているわけですから、そこに一章を加えたら、他がどうなるか。当然あらゆる部分がカットです。

 本来であれば二軍の前半で1章を使う予定が、二軍編を丸々2章としました。もちろん、1章に入れる事のできた部分もあります。泣く泣くカットしたシーンも多いんです。


 例えば史菜との再会。

 本来は二軍編で美香との交際が盛り上がっている時に現れる予定でした。ここは史菜の発言で北国にいたというだけになってしまいました。そこから暫く史菜は登場せず、再登場が例の番組視聴になる予定だったんです。


 山田、駒田の二人が球界追放になった後、六花会のやくざとして荒木の前に顔を出すというシーンも予定していたのですが、それもカット。


 そこまでの事をしながら、それでも話数は足りませんでした。

 それがわかったのは最終章の残り10話くらいの頃。これちゃんと書いたら、残り全て1話が5000字を越えてしまう。

 そこで、世界大会に割くはずだった話数を大幅に端折って、一次リーグ敗退後のゴタゴタ(帰ったら卵を投げつけられたというような、ちょっと気分の悪くなる話です)を綺麗にカット。こういうエンディングとなりました。なんだか大河ドラマの最終話みたいで、今見ても、あまりにも駆け足でしたね。



 書いていて惜しいと思ったのは、やはり広岡先生ですね。

 ここまで読んでくださった方だとかなり驚くかもしれませんが、書き始めた時には何一つ設定はありませんでした。名前すらない。単に「若松先輩の奥さん」でしかなかったんです。


 高校時代編を書こうとなった時に、顧問の先生が決まらないという事にし、変な先生が来たら面白いかもしれないとなり、徐々に広岡先生のキャラが固まっていきました。

 1章の途中で広岡先生は退場していくわけですけど、こんな面白いキャラを捨てるなんてさすがに勿体無い。そう思い、前述の「若松先輩の奥さん」を広岡先生にしたんです。


 1章を挿話した事で、一番割を食ったのは間違いなく鹿島でしょう。

 彼の途中の登場シーンは気が付いたら全てカットになってました。本当は川相や彦野と同じくらい登場シーンがあったんです。最後に代表の舞台に上がるまでに、挫折を努力で克服するというジャンプ漫画のようなエピソードがあったんです。

 様々な理由で、泣く泣く削られてしまいました。


 次回の反省点として、これからは、書いている途中でプロットの大幅修正はしないように心がけようと思います。話数を合わせるのが大変になりすぎ。

 それと多少はそういう事態も考慮して、もっと緩くプロットを作ろうと思います。


 ちなみに、最後に荒木の行く事になるクメアイ球団は、こちらでいうロスアンゼルスです。モデルは大谷選手の所属するドジャースですね。



 ここまで十か月にわたり、拙いお話を読み続けていただきまして誠にありがとうございました。最終話まで書き続ける事ができたのは、ひとえに皆様の暖かいご声援があったればこそです。この話は終焉となりますが、もしよろしければ、次の話も続けてお楽しみいただけましたら嬉しく思います。



 令和七年十一月朔日 敷知遠江守

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