第60話 同期四人の共演
まるで光の矢のような打ち込みに、観客席が総立ちで大歓声をあげている。その後、場内の掲示板に先ほどの得点映像が流れると、観客席は騒然となってしまった。
あの速さで飛んだ球が、守衛の手前でカクンと落ちている。その様子が映し出されたのだった。
カルタゴの守衛は、世界最高峰の職業球技戦の一つ、イベロスの職業球技戦で活躍している選手である。しかも、毎年優勝候補に挙げられるセヴィージャの守護神と言われるような守衛である。
その選手が竜杖にかすらせる事すらできていない。
この荒木という先鋒が想像以上に凄い選手だというのは、誰の目から見てもわかった。
観客席からの感動の唸り声が徐々に大きくなり、轟音となって競技場に響き渡る。竜たちが驚き暴れ出す。それを選手たちが懸命になだめる。
だが、荒木は竜杖を掲げるでも、喜ぶでも無く、淡々と自陣へと戻って行った。荒木からしたら今のは偶然。しかも、まだたった一点だけ。
カルタゴの打ち出しで試合は再開となった。
カルタゴとしても、ここで勝てば勝ち抜き戦への切符が得られる望みが残っている。これは決して消化試合では無い。
選手たちはまずは振り出しに戻そうと、中盤の選手を起点に攻撃を組み立ててきた。だが、やはりというか最初の障壁である原、岡田の守備が突破できない。
瑞穂の戦術は徹底していて、中盤二人と後衛二人の四人で守備をし、零れた球を西崎に、最後に荒木が決めるという流れである。高校時代から荒木が慣れ親しんだ『縦ポン』戦術をここに来てやる事になったのだった。
中盤の二人の守備で零れた球を、秋山が持込み西崎へ。西崎が攻め込み、荒木に渡そうとする。
だがカルタゴも、そう同じ手を何度も食いはしない。西崎が穴と見たカルタゴは、徹底して西崎を守備し始めた。
これが高木だったら……
いとも簡単に球を奪われた西崎を見て、荒木はそう思わずにはいられなかった。
そこから暫く、試合は両軍の中盤の選手間で球が行き来するという状況に終始。
試合終了間際に荒木が追加点を決めたところで、前半は終了してしまった。
中休憩で、大沢は原に手応えを聞いていた。原の返答は「方針は間違っていないと思う」というものであった。大沢が大きく頷く。
「おし。後半選手の交代をする。西崎に代えて鹿島。それと岡田に代えて川相。敵は必ず足が止まる。鹿島、川相、その時を絶対に見逃すな!」
そこで一人の人物が控室に入って来た。連盟の職員で、喜色で目が爛々と輝いている。
大沢にぼそっと耳打ちすると、大沢はそれを皆に言ってやれと促した。
「今、シュトゥットガルトから途中経過が入りました。マラジョが二点差を付けて勝っているそうです。このまま行けば得失点差でうちが追いつけるかも!」
その一報に選手たちの闘志が完全に燃え上がった。
「まさか、荒木とこうして一緒に竜を並べて競技場入りする日が来るなんてな。しかもこんなラインなんて遠い国で。高校三年のあの敗戦の日の俺に言っても、絶対に信じないだろうな」
鹿島が荒木を見て笑った。
「二軍時代の俺たちに言っても、信じないと思うぜ」
そう言って彦野も笑う。
「多くの同期の期待が、この俺たちの竜杖に宿ってるんだ。絶対に勝ち抜こうぜ」
川相が竜杖をぎゅっと握りしめる。
「何点でも取ってやる!」
やんちゃ坊主のような顔で言う荒木に三人は大笑い。その後、四人はそれぞれの守備位置に向けて竜を走らせて行った。
長い笛が吹かれ、後半戦が開始となった。
大沢が言うように、後半の十三分までは前半同様、一進一退という感じ。だが、そこでガクリととカルタゴの竜の動きが悪くなった。
「川相! 走れ!」
彦野が大声を張り上げ、竜杖を振る。それに応えて、川相が竜を走らせる。
「鹿島! 頼んだ!」
竜を走らせた川相が鹿島の先に向けて竜杖を振り抜く。
「荒木! 行けぇ!」
鹿島の掛け声で荒木が竜を走らせる。後衛二人を振り切り、体を捻って竜杖を振り切った。
球は守衛が竜杖を構えた逆の方に飛び、篭の中へ飛び込んで行った。
これで三対〇。
それを見た大沢は、ここが攻勢だと判断したようで、最後の交代札を切ってきた。原に代えて高橋を投入。
原から主将の腕章を渡された高橋が叫んだ。
「最後まで点を取りに行くぞ!」
高橋の檄に、選手たちが竜杖を掲げて応える。
カルタゴの攻撃で試合は再開された。
交代の間で少し竜を休める事ができたようで、再開直後はカルタゴも息を吹き返したかのように見えた。だが、それも一瞬だけ。とにかく竜の体力が尽きてしまっていて、攻撃が遅々としている。
積極的に守備に入った鹿島によって簡単に球は零れ球となり、それを彦野が拾う。
彦野はそれを川相に渡し、川相が鹿島に代わって竜を走らせている高橋に向かって打ち出す。快速自慢の高橋がカルタゴの選手を置き去りにし、荒木に向けて球を打ち出す。
もはやカルタゴの後衛はなす術も無く、さらなる追加点を入れられてしまったのだった。
そこでカルタゴの監督も最後の札として中盤の後ろの選手を交代。だが、そんなのはもはや焼け石に水だった。
体感で倍近い速度の差がある。途中から入った高橋はそう感じていた。とにかくカルタゴの選手は全く付いて来れていない。
高橋も瑞穂で竜杖球をやっていて、こんな状態になった敵の竜を見た事が無い。とにかく息が荒く、足取りがフラフラしてしまっている。並走しても、いとも簡単に敵が剥がれていく。しかも後ろから追えば簡単に追いつく。
一方で瑞穂の竜は全く疲れを見せていない。そのせいで、圧倒的な速さで荒木が攻め上がり五点目が入った。
さらに終了間際に六点目を荒木が叩き込んだところで、審判が試合終了を告げる長い笛を吹いた。
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