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【完結】竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~

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第57話 マラジョ戦

 一回戦「Group E」のもう一試合、マラジョ、カルタゴ戦はマラジョの勝利に終わった。首位は得失点差でポンティフィシオ。二位がマラジョ。三位カルタゴ、瑞穂が最下位。



 わずか二日を空けただけで瑞穂代表は第二戦となるマラジョ戦に挑む事になった。


 予選の組み合わせ抽選の結果を見た関係者からは、またマラジョとやるのかという声が聞こえていた。同じ地域の国同士が当たるのは決して珍しい事ではない。それはそうなのだが、できる事なら違う国が良かった、新鮮味が無いなどと言われていた。


 今回、大沢はポンティフィシオ戦から先発の選手を代えてきた。

 守衛が伊東、後衛が秋山、彦野、中盤が松永、高橋、川相、先鋒が鹿島。


 一方のマラジョは初戦のカルタゴ戦で投入したブレット選手が先発から外れている。それを見た大沢は「案の定、奴らはこちらを舐めて来た」と呟いた。



 鹿島の打ち出しで試合は開始。


 ここまで大沢は一次予選から、徐々に徐々に全体の速度を上げるような人事をしてきた。最初に選手を選んだのは仰木監督であったが、練習を見て仰木は、まだ時期尚早と感じていたようで、選手の多くをこれまで同様技術重視で選んだ。

 その後監督となった大沢も、やはり同様に思っていたらしい。後衛にはずっと新井を採用していたし、ここまで原だけはなるべく外さない方向であった。だが、ここにきてついに原を外した。


 これは一つの賭けでもあった。本当に技術重視の選手がいなくても攻撃が成り立つのか。


 最初、やはりというか、高橋と松永、鹿島の連携は非常に悪かった。

 川相から高橋へ球が渡ったが、鹿島と松永が同時に飛び出してしまう。絶好の機会だったのだが、川相に球を下げるしかなくなってしまった。しかも、川相もそこから組み立てができず、結局球を奪われて、先制点を奪われてしまった。


 だが、その失点で何か掴むものがあったらしい。そこから高橋は川相、松永の繋ぎに徹し、攻撃の機会を演出。残念ながら最後の最後で鹿島が後衛に潰されてしまったが、かなり得点の気配が強くなってきた。


「これ、いけるんちゃうか!」


 補欠席では岡田と新井が大興奮であった。

 だが、そんな岡田たちを横目に、大沢は非常に不機嫌であった。腕を組み、西崎をちらちらと見ながら、ため息を付いている。鹿島が打ち込みを外す度に、「ちっ」と舌打ち。しまいには、足を組み、その足をカタカタと揺らして苛立っている。


「荒木、お前、どう思う? 俺はこれ、西崎の方が良かった気がするんだが」


 島田がじっと試合を見つめながら問いかけてきた。島田の言わんとする事はわかる。鹿島は確かに昔とは比べ物にならないほど素早い選手になっている。


「今までは気付きませんでしたが、こうしてみると思った以上に型にはまった選手ですね」


 荒木も試合をじっと見ながら言うと、島田がちらりと荒木を見た。


「同感だ。後衛の俺から見ても、あれなら対処可能に感じる」


 島田が言い終わったと同時に、鹿島がまたも相手の後衛に攻撃を防がれてしまった。


 ただ、攻撃の姿勢と中盤の三人の速度にマラジョの選手が付いて来れず、全体的な流れは瑞穂にあるように感じる。

 結局一失点で前半戦は終了。



 中休憩で大沢はまさに満を持してという感じで、荒木の投入を宣言した。それと松永に代えて高木。


 荒木は鞄から祖母の封筒を取り出し、手に挟んで拝みこんだ。


『雅君ならできるよ』


 どこからか、そんな声が聞こえた気がして、荒木は肩に乗っていた何かが、ふっと外れるのを感じた。



 後半の選手交代が告げられると、大沢は「やられた……」と呟いた。


 後半荒木と高木が投入される事を相手も読んでいたのだ。マラジョは後半からクレメンチ選手とブレット選手の二人を投入してきた。


 瑞穂の武器がその速度にあると認識しているマラジョは、後半、竜の体力が落ちてきたところで一気に逆転をはかるという『まくり』戦術を狙ってきた。

 前回の対戦で、ブレット選手の竜が途中で体力切れを起こしている。それによってクレメンチ選手の竜も体力切れとなっている。だから今回は、最初から二人を温存したのだろう。


 どの選手も竜は交換するのだが、マラジョの選手はかなり前半で疲労の色が見えていた。だが、ブレット選手の投入で完全に息を吹き返してしまった。


 後半開始早々にブレット選手からの打ち出しに反応したクレメンチ選手があっさりと追加点を決めた。

 これで〇対二。


 そこで高木が川相に何かを言いに行った。かなり長々と川相に言っており、その間川相が何度も頷いている。


 荒木の打ち出しで試合は再開。

 荒木から球を受け取った川相は、それをそのまま高橋に渡し、自分は一気に竜を前に進めた。高橋にはブレット選手が付いており、球を受けた高橋は、それをすぐに前進している川相に渡す。川相はその球を高木へ。

 ここまで、流れるように球が競技場を走っている。


 高木は持ち前の竜の速さを活かして攻め上がり、一気に前方の荒木の先へ打ち出した。

 それに反応し、荒木が竜を駆る。後衛の一人が脱落。もう一人が反則覚悟で竜杖で荒木の竜を叩こうとする。

 それを荒木は竜杖を後方に振って叩き返し、ついに二人の後衛を振り切った。


 荒木が打った球が篭の上の端目がけて飛んで行く。守衛がそれに向けて竜杖を伸ばす。

 次の瞬間、少しだけ球が落ちた。球は守衛の竜杖をかすり、少しだけ軌道を変えて篭に飛び込んで行った。


 これが世界大会、瑞穂代表の記念すべき本戦初得点であった。

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