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【完結】竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~

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第56話 ポンティフィシオ戦

 瑞穂の開幕戦。

 選手たちも特に気負う事なく、各々精神統一をしながら大沢が話し始めるのを待っている。


 手の平に竜杖を立て、均衡を取っていた荒木だったが、どうやらかなり緊張をしているようで、均衡を崩して床に落としてしまった。カランコロンという派手な音が控室に響き渡り、皆が一斉に荒木の方を向く。


 大沢監督が告知した先発は、守衛が伊東、後衛が秋山、彦野、中盤が高橋、原、川相、先鋒が西崎。


 本番だからと奇をてらった事をせず、これまでやってきた事を淡々とやるだけ。大沢はそう選手たちに説明した。


「おし! 大事な初戦だ! 絶対に勝つぞ!」


 原が檄を飛ばすと、皆が一斉に「おお!」と雄叫びをあげた。



 いよいよ、その時がやってきた。


 国際竜杖球連盟の旗と共に、両軍の選手が、地元ラインの子供たちと一緒に徒歩で競技場に入場。広げられた旗を中心に左右に選手が並ぶ。

 両国の国家が斉唱され、 両軍の選手が握手を交わし、一旦競技場から退場。


 大歓声の観客席に本日の先発選手が発表される。それに合わせて竜に跨った選手が競技場に入場してきた。


 荒木たち先発以外の選手と大沢監督たちが補欠席前に整列。



 審判の長い笛によって試合が開始となった。


 前半開始からわずか二分。早くもこの試合の流れを決定させてしまう出来事が起きた。


 中盤の後方の選手が右前方のホルネル選手に球を打ち出した。

 川相にしても原にしても、東国戦で頻繁に当たっていて、ホルネル選手がどんな選手かは知っている。なんなら彦野も知っている。さらに言えば、高橋、西崎、秋山、伊東も昨年の瑞穂戦で当たって知っている。


 だが、原や川相と異なり、瑞穂戦で当たっただけという選手には、ホルネル選手の印象はそこまで強く残ってはいなかったのだろう。

 高橋は普通の選手に守備に当たるようにホルネル選手に寄って行った。

 だがホルネル選手はその前に思い切り竜杖を振り抜いた。


 球は緩い弧を描き真っ直ぐ篭に飛んで行く。

 実はホルネル選手は昨年の太宰府戦ではこの超長距離弾を放っていない。そのせいで伊東はあんな遠くから打った球が届くわけが無いと高を括っていた。

 ところが、球は伸びに伸び、ほとんど勢いを削がれる事無く篭まで届いてしまった。

 伊東が竜杖を上に伸ばしたのだが、羽球バドミントンじゃあるまいし、そんな上空の球を打ち落とすような練習はしない。球は見事に瑞穂の篭に飛び込んでしまったのだった。


 この一点で瑞穂は完全に攻撃意識が削がれてしまい、そこからは防戦一方。地区予選じゃあるまいし、そんな状況で守り切れるわけもなく。すぐに二点目を取られ、三点目を取られ。

 三十分間、ひたすら攻撃されまくった瑞穂は、大量五失点という惨憺たる状況で中休憩を迎える事になってしまったのだった。



 一失点目の時はまだ不運な事故程度に大沢も考えていた。三失点目までは、まだ取られたものは取り返せば良い話と思っていた。だが、四失点目で全ての計画が破綻してしまった。


 諦めというより絶望感を感じている。どうあがいてもこれ以上は無理。後はどれだけ失点を少なくして残り二試合を終えるかという方向に舵を切っていた。


「なんやなんや、お前らその顔は! まだ得失点差で最終に残れる道はあるんやから、ここで諦めるんは違うやろ。ここで一点でも返して、残り二つ勝ったら良えやんけ! ほしたらマラジョの代りに最終に残れるやろが!」


 岡田のその発言が岡田なりの檄だという事は皆理解はできている。だがいささか無理がある。そうも感じている。


 大沢は一同の表情を見渡して、首を横に振った。


「西崎と鹿島を代える。それと川相と岡田を代える。一点でも失点を防いでくれ」


 その大沢の采配に、岡田はいきり立った。


「なんでやねん! 一つでも上に行くんやろうが! 荒木を出せや! そのために今日までやってきたんと違うんか!」


 そんな岡田に向かって大沢はダンと右足を踏み鳴らした。


「お前なんぞに言われんでもわかってるわ! 勝つ為にここは捨てるんだよ!」


 大沢に睨まれ、岡田は一瞬怯んだ。だがすぐに睨みかえした。


「ここを捨てて、何で次に勝てんねん! 全部勝つ気でいかな、勝てるもんも勝てへんくなるんと違うんか!」


 そう言ってすごんだ岡田に、大沢は「黙れ!」と一喝。


「ここを捨てればマラジョは必ずうちらが大会を捨てたと思って舐めてかかってくる! 奴らはそういう奴らだ! そこで勝てれば、最後のカルタゴ戦の結果次第となるんだよ!」


 「これは心理戦なんだ」と大沢は低く唸るように言った。それが理解できたのか、岡田もそれ以上の抗議はしなかった。



 後半戦、前半同様ポンテフィシオは徹底的に点を取りに来た。

 交代で入った岡田は、それでも少しでも攻撃をと球を打ち出していたのだが、結局これという得点の機会は作れなかった。

 それでもそれによって攻撃一辺倒だった敵に防御の気持ちを生ませる事はできたらしい。後半は二失点だけで終える事ができた。


 瑞穂代表の世界大会第一戦は、〇対七という大惨敗で終わったのだった。

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