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第21話 いよいよ決勝

「聞いたよ、送球部準々決勝で敗退したんだってな」


 決勝の会場へと向かう輸送車の中、浜崎は宮田にそう話題を振った。

 宮田は一言、「アホすぎる」と悪態をついた。


 準々決勝の相手は潮見坂高校であった。

 これまで何度か練習試合を行っており、そこまで実力差の無い学校だと認識していたらしい。応援部にもそんな話をしており、もしかしたら群代表になれるかもしれないから、しっかり応援してくれと頼んでいたのだそうだ。


 さすがに応援部が来ている手前、先発に他の部員を入れるのは体裁が悪いと思ったようで、宮田も荒木も先発からは外れていた。何なら今回は一戦休んでもらって、準決勝に温存でも良いなどと言い合っていた。


 ただ宮田と荒木はその送球部の判断に疑問を抱いていた。

 送球部の奴らは、恐らく自分たち二人がいなかったら一回戦突破も怪しかったかもしれない。その程度の実力のはずなのである。

 送球部の奴らは自分たちと同程度なのだから、竜杖球部の二人がいなくても勝てるという計算をしている。だが竜杖球部から来ている自分たちからしたら、相手だって準々決勝まで上がってきた高校だと思うのだ。最後まで残った八校のうちの一校という実力のはずと。


 相手の潮見坂高校は応援部が来ておらず、自分たちは来ている。それだけで送球部の選手たちはまるで自分たちが強くなったと勘違いしたらしい。


 前半は明らかに相手を舐めたような試合をしていた。だが、そんな態度で実力伯仲の相手にまともな勝負になるわけがなく、徐々に点差が開き始めていった。

 休憩時間、顧問の別当べっとうは真面目にやれと選手たちを叱り飛ばした。応援部の手前、あんな試合内容で負けたら恥ずかしいどころではないぞと。


 後半、明からに選手たちの態度は変わった。変わりはしたのだが、じりじりと負け始めたのが一進一退になっただけで、好転とまではいかなかった。

 宮田と荒木を入れた方が良いんじゃないかと進言する部員もいたのだが、別当は次の試合のために休ませるの一点張りだった。


 だが、残り二十分で別当も観念して、宮田と荒木を投入する事にしたのだった。

そうは言っても八点も差が付いてしまっている。残り十分でどこまでという状況であった。


 ところが二人が入ってから明らかに選手たちの動きが変わった。福田ふくで水産が一方的に攻める流れとなった。平松が三得点、荒木と高本が二点づつ得点し、宮田も一得点。しかも失点は零に抑えている。

 これで点差は一点。残り時間は五分ちょっと。


 だが、そこで試合が止められてしまった。


「応援部が興奮して喧嘩しだしたから失格なんだってよ。かわいそうにな。送球部なんにも関係ねえのに。平松怒りで泣いてたぜ。当たり前だよな。アホすぎる」


 宮田はそう言って両手を胸の前で広げ、再度呆れ果てたという顔をし首を振ったた。


 笛が吹かれ、両軍の選手たちは何で試合が急に止められたのかと不信な顔で審判を見た。

 すると審判は競技場の外の一角を指差した。

 選手たちが視線を移すと、応援部がどこの高校生かわからないような者たちと派手に殴り合いの喧嘩をしていたのだった。

 審判は即座に福田水産高校に失格を通告した。


 平松と高本の二人で審判にあいつらは関係ないと言い張ったのだが、審判はかわいそうだけど規約は規約だからと聞く耳を持ってくれなかった。


 その後平松と高本の二人は号泣し、目を腫らして応援部を睨みつけた。


「まさかあの応援部の馬鹿ども、今度はうちに来たりしねえだろうな? 嫌だぜ、送球部みたいに失格は」


 ぶすっとした顔で言う宮田に、浜崎も同感だと言って笑い出した。笑いはしたものの一抹の不安は残ったのだろう。浜崎は広岡先生に、応援部は今日来るのかとたずねた。


「来るわけないじゃない! あの愚か者たちは当分の間活動休止になりました! 竜杖球部の応援が残ってるから来月からにしてとか寝ぼけた事ぬかしてたけど、来なくて良いから今日からにしてって言って、一昨日から活動休止になってます!」


 冗談じゃないと言った広岡は実に機嫌が悪そうであった。恐らくそれ以外にも何かあったのだろう。



 輸送車が停車し、プシュという何かから空気が抜けるような音がした。輸送車は決勝の会場である今橋総合運動公園に到着した。


 対戦相手は前年の郡代表、挙母ころも市の花弁かべん学院。

 『去年の』というか、過去十年で七回代表となっており、四年連続の郡代表という三遠さんえん郡屈指の強豪校である。


 これまで一回戦の作手つくで高校、準々決勝の鞍ヶくらがいけ高校、準決勝の幡豆はず高校と、福田水産高校の対戦相手はいづれも公立高校であった。福田水産高校も公立高校である。


 今回対戦する花弁学院は私立高校。

 公立高校と違って、私立高校は資金力が段違いである。竜術部もあって普通に学校の敷地内で竜を飼育しており、いつでも竜に乗って練習ができると聞いている。


 郡代表として各郡二校が東国予選に出場するのだが、花弁学院は毎年準決勝くらいまでは確実に残っている。最終的に東国代表には幕府と東北の私立高校が選ばれてる事が多いのだが、そこに互角に食らいついていっているのだから、いかに強いかがうかがい知れる。


 三遠郡の予選には私立高校は三校しか出ておらず、他二校はそこまで竜杖球部に力を入れていない。そのせいで郡内では花弁学院の強さが際立っていると言っても良いだろう。



 福田水産の選手たちが球場に現れると、既に花弁学院の選手たちは到着して練習を開始していた。

 福田水産の選手たちが使う、脈々と受け継がれてきたのかというような年季の入った竜杖と違って、どの選手も非常に真新しい竜杖を使用している。恐らくは練習用と試合用で別の竜杖を使う余裕があるのだろう。気のせいだとは思うが、制服もどこか気品が漂っているようにも感じてしまう。



 荒木たち福田水産の選手たちも練習を終え、広岡を囲んで作戦会議となった。


「相手の事、新聞とか読んで調べてみたんだけど、無茶苦茶強いみたいね。どうしたら良いと思う?」


 広岡がほぼ無策だったことに部員たちは呆然としてしまった。

 ……いや、誰も期待はしていなかったが。それにして、何か言ってくれるだろうと思っていたが、まさかの無策であった。


「とりあえず最初から出し惜しみせずに全力でやるしかねえんじゃねえか? それで駄目なら俺たちじゃ歯が立たないって事だろ。しょうがねえとまでは言わないけど、全力でやって駄目なら諦めもつくだろ」


 浜崎の発言に三年生たちは全員賛同した。

 相手の強さが未知数な上に、恐らく超格上相手。残念ながらどうあがいても勝てる気はしない。全員、やる前から敗戦気運が非常に高かった。


「えぇぇ、そんな後ろ向きなの嫌だ! ねえ、勝ちに行こうよ! どうしたら勝てるかみんなで考えようよ!」


 まるで駄々っ子のように言う広岡に三年生たちはピリピリしだした。そんな三年生たちを浜崎がなだめた。


「あのなあ広岡ちゃん、俺たちだってできる事なら勝ちてえよ。なんなら一対零の辛勝でも良いから勝ちてえよ。だけどよう、さっきの練習見たろ? 悔しいけど次元が違うんだよ」


 そう言って浜崎は広岡の方もなだめた。

 だが、広岡はだってだってと、いつものように駄々をこねる。


「別にこっちが一人減とかじゃないわけじゃない? だったらさ、相手は強いかもしれないけど、みんなで考えたら勝てるかもしれないじゃん!」


 ね、ね、と言って広岡はみんなの顔を覗き込むように見ていった。

 すると伊藤が、ならまず何かしら案を言ってくれと指摘。何の案も無く、ただ勝ちたいだけじゃ、ただの観戦者と同じだと。


「私はね、荒木君に全てを託してみたらどうかって思うのよ。いつもの荒木君に走ってもらうあれ、あれだけを愚直に繰り返したらって」

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