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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
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第16話 組合せ抽選会

 裾野市での代表合宿が始まり、数日が経った日。

 国際竜杖球連盟の太平洋、瓢箪大陸本部にて、一次予選の組合せ抽選会が行われた。


 一次予選に出場する国はどの国も代表選考を終えており、自分たちはどの国としのぎを削る事になるのかに注目していた。


 一次予選に参加する十か国の内にも強弱というものはあるもので、国際竜杖球協会が毎年発表する順位に従ってまず最初に四か国が二つの班に振り分けられる。

 タワンティン連邦、アオテアロア、アウラク、ティルチュルの順に振り分けられていく。


 非常に残念な事に瑞穂皇国は残りの六か国の方である。

ククルカン、ダトゥ、瑞穂、スンダ連邦、タノイ連邦、ウェハリの順で振り分けられていく。


 最終的に、瑞穂と同じ班はアオテアロア、アウラク、ククルカン、スンダ連邦となった。


 組合せ抽選会が終わると、会長の武田は言葉を失ってしまった。

 選手たちも大会議室の画面でその様子を見ていたのだが、ため息しか聞こえなかった。

 仰木監督は頭を抱えてしまっている。


「ずいぶんとガラの悪い国が多いな」


 画面に映った対戦国を睨むように見て落合が呟いた。


 対戦相手五か国のうち、アオテアロアとアウラクは社会主義国。この二か国は大陸東部の国々との結びつきが強く、道徳に欠ける印象がある。

 アオテアロアは何度も審判の買収で問題となっているし、アウラクは不利になると停電だと言って照明を落としてくる。

 スンダ連邦はそれなりにまともな国ではあるが、ククルカンはとにかく選手たちの行動が荒く、過去には死人も出ている。

 初戦は十一月の一週、そのククルカンを迎えての一戦と決まった。



 今年開幕から調子の良かった見付球団は夏の時点で稲沢球団を抜いて二位に躍り出ている。だが残念ながら幕府球団という壁は厚く、荒木たちが裾野の代表合宿に呼ばれたちょうどその週に幕府球団の優勝が決まってしまった。


 その週は本拠地での稲沢戦であった。やはりそこはどの選手も自分の球団の結果が非常に気になるところで、大宿の会議室をいくつか借りて応援していた。


 荒木、若松と、彦野、落合の四人での観戦であった。

 この時点で見付球団が引き分けか負けると自動的に幕府球団の優勝が決まるという状況。


 椅子にふんぞり返りながら試合を観ていた落合は、一人の選手を指差し、この選手が来てから見付球団は明らかに強くなったと指摘した。

 落合が指摘したのは栗山であった。

 すると、若松は落合をまだまだだと言って笑い飛ばした。


「うちが明らかに強くなったのは広沢が上がって来た時からだよ。そこに荒木が来て、栗山が来たってだけだ。中でやってる俺が言うんだから間違い無いだろ」


 そんな若松を落合が鼻で笑った。


「俺が言っているのは完成度の話だよ。この選手が来た事で球団としての完成度が一気に上がったって話をしてるんだよ。若松もまだまだだな」


 奇しくも、落合と若松は同じ歳、彦野と荒木も同じ歳。何となくお互い意識するところがあるらしい。


「俺はお前みたいに監督になりたいから選手やってるってわけじゃねえからな。なんで監督なんてなりたいかねえ。気苦労が絶えないだけじゃねえか、あんなの」


 そう若松が笑うと、彦野が驚いた顔をして落合を見る。

 「監督になりたいんですか?」と落合にたずねた。

 すると落合は顎をぽろぽり掻いて彦野をじろりと見た。


「自分の思うように選手の起用ができたらってのは、選手なら一度は思う事だろ。上手く行かなかったら何が悪かったか考える。それが監督の考えと違った時、俺ならこうするのにって思う事はあるだろ。俺はそれが強いってだけだ」


 何も特別な事じゃないと少し照れたような表情をして顔を画面に向けた。

 後半が始まり、二対〇で見付球団が勝っている。


「そりゃあ、俺だってそういう気持ちは湧くけどな。だけど俺が監督になるんだとまではならんな。だってそうだろう。監督の仕事ってのはそれだけじゃないんだぜ?」


 そう若松は指摘するのだが、落合はそんなのは些末な事だと笑った。


「俺が監督なら今の見付球団はともかく、幕府球団には負けない自信がある。あいつらは戦術が古い。仰木監督の戦術を聞いて、さらにそう感じたね」


 仰木は最近、しきりに『全員攻撃』『全員守備』と口にする。

 攻撃は狼が狩りをするように、守備は要塞に閉じこもるように。

 その攻守の切り替えを瞬時に行えと命じている。


 そんな話をしていると、見付球団の伊東が点を決め、三点目が入った。


「俺が監督ならこんな無様な試合はさせない」


 中継画面を睨みながら、吐き捨てるように落合は言った。



 二週間の代表合宿を終えた荒木たちは、一旦見付に帰る事になった。

 すでに東国戦は残り二戦を残すのみ。


「ねえ、若松さん。この間落合さんが言ってましたけど、幕府球団よりうちの方が上っていうのはどうなんでしょうね。あの後、彦野と高木さんと飲みに行ったんですけどね、二人もそんな話をしていたんですよ」


 列車の中で荒木はそう若松にたずねた。

 だが、若松はそれに対しては返答をしなかった。


「今期な、渡辺さんと大杉さんが引退だってさ。すでに池山っていうのの昇格が決まったんだそうだ。仰木さんが代表で結果を出したら、今やってる事が主流になっていくだろう。それに付いていけない球団はきつい事になるだろうな」


 そう言って若松は視線を窓の外に向けた。

 確かに、これまで幕府球団は速度より技術という昔ながらの方針を取り続けてきた。勧誘者もそういう選手を勧誘してきたし、監督もそういう方針であった。


「じゃあ、これから小田原球団が強くなるかもですね。あそこは速さ自慢みたいなところがありますから」


 荒木がそう言うと、若松はちらりと荒木を見て鼻で笑った。


「良い先鋒が入ればな。あそこ先鋒が中盤に付いて行けてないからなあ。なるほど。確かに言われてみれば今のうちらは均衡が取れて良い状態かもしれん」


 笑いながらそう言うと、若松は荒木の顔をじっと見た。


「なるほどな。俺ならこうするのにか。確かにそう思う事は無くは無いな。例えば俺なら来年あの飯田ってのを二軍から持ってくる。先鋒と守衛以外どこでもやれて、おまけに快速。あんな理想的な選手はなかなかいないからな」


 監督かあと言って、若松は窓の外の流れる景色に顔を向けた。


「まだ若松さんそんな歳じゃないでしょ。そんな爺むさい事言わないでくださいよ」


 からからと荒木が若松を笑い飛ばした。


「それもそうだな。まだ子供たちを食べさせなきゃいけないからな。監督って給料少なそうだもんな」


 げらげらと若松が笑う。


「そうですよ。関根監督や仰木監督くらいの竜に乗りたくても乗れないような年齢になったら考えれば良いんですよ。そんな事は」


 そう荒木が笑うと若松も笑い出した。

 二人で笑い合っていると、車内に見付駅に到着した放送が流れたのだった。

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