第13話 世界大会に向けて
九月に入り、世間は国際競技大会一色となっている。
連日朝から晩までとにかくどの放送局もその話題ばかり。竜杖球の放送局も、全ての試合を解説付きで放送している。
約半月間その状況が続き、国際競技大会は無事閉幕。
国際競技大会が終わると世界の球技会がにわかに慌ただしくなる。
再来年に行われる世界大会の出場国を決める予選が次月より始まるのだ。
世界大会は全ての球技が同じ国で開催し、各球技の国際連盟の会議によって開催地が決まっている。今回の開催地は中央大陸西部の国ライン共和国連邦。
球技によって、また地域によって予選の方式というのは異なる。
竜杖球の場合、地区ごとに予選の方法は任せているのだが、瑞穂皇国の所属する太平洋、瓢箪大陸地区では、一次予選、二次予選と二度の予選を行い、二次予選の上位四か国が本戦に出場できるという仕組みをとっている。
前回の国際競技大会は申請制だったので十四か国の参加であったが、世界大会は参加が強制されている。そのため、前回資金不足の関係で参加辞退だったタノイ、ククルカンという二か国も参加となる。
国際競技大会の時に最初にクジを引いた上位六か国については一次予選は免除となっている。
残りの十か国を二つの組に別け、上位二か国に入った国が一次予選突破となり、二次予選に駒を進める。
二次予選では、最初に一次予選を突破した四か国を二つの組に振り分けてから、上位六か国を振り分ける。
国際競技大会の予選同様、本戦出場は各組上位二か国のみ。
瑞穂代表の選手発表があるという事で、選手たちは午前中の練習の後、各々昼食を取って、夕方に大会議室に集まっている。
今回も前回同様、事前に打診が来た選手は一張羅でというお達しが出ている。
二大会連続で代表に呼ばれている若松と、国際競技大会で呼ばれた荒木の二人が一張羅である。
「そういえば、ホルネルも代表発表だったんだろ? どうだったんだよ?」
そう八重樫がたずねると、通訳がそれを訳した。
ホルネルは苦笑いし、ふるふると横に首を振った。
選ばれはしなかったものの、予備選手として名前は入れてもらったらしい。
ホルネルの母国のポンティフィシオは今回の大会でも優勝候補という呼び声が高く、その予備選手なのだから、とんでもない快挙という事になる。
選手たちはホルネルに向かって、「すげえ、すげえ」の大合唱。
「だけど、もしポンティフィシオ代表に選ばれたら、うちの球団、ホルネルの年俸払えるのかねえ」
ボソッと呟くように言った尾花に、杉浦が笑えない冗談だと指摘した。
少しざわざわと雑談していると、突然中継画面に連盟の広報の女性に促されて、会長の武田が登場。
武田が長々と挨拶している間も、選手たちはそれを無視して雑談に興じていた。
武田のつまらない話が終わり、新たに今回監督に就任した仰木が画面に現れた。
仰木は北府球団の監督として何度か瑞穂一に導いている人物である。年齢は金田、関根と同年代。二人同様痩せ型で頭髪は真っ白。少し強面の顔をしているが、目尻が垂れ非常に優しい目をしている。
「その球団の強弱や成績に関わらず、全選手から代表選手を選抜いたしました。では、これより選手の発表をいたします」
そう言って仰木は上着の内ポケットから小さな紙片を取り出し、その内容を読み始めた。
守衛が北府の石嶺、太宰府の伊東。
後衛が太宰府の秋山、函館の島田、台北の新井、稲沢の彦野。
中盤が西府の掛布、幕府の篠塚、幕府の原、稲沢の落合、南府の高橋、小田原の高木。
先鋒が直江津の村田、函館の西崎、見付の荒木
後衛で若松の名が呼ばれなかった事で、見付球団の面々は非常にがっかりしてしまった。
さすがに三大会連続での出場は難しいのかと大杉と杉浦が言い合った。
十四人の選手の中に、思った以上に前回の国際球技大会に選ばれた選手が少なく、これは荒木も駄目かなと広沢と秦が言い合っていた。
そして、最後十五人目の選手で荒木の名が上がり会議室はどっと沸いた。
最終的には予備選手が五人選ばれており、その中に若松が入っていた。
「しかし、あの仰木って監督、『球団じゃなく選手を見て選びました』なんて言いながら、見事にその球団の中心人物ばっかりじゃねえか」
祝賀会をやろうと言っていつもの『居酒屋 鼈甲蜻蛉』に行く事になった。
乾杯をして早々に秦がそう毒づいた。選手の発掘でもしたかのような言いっぷりだったのにと。
「そりゃあ、瑞穂の代表だからなあ。どうしたって、あの選手が入ってないだとか、この選手よりあっちの選手の方がって意見は出るだろうから、ああいう人選にならざるを得んだろう」
そう尾花が指摘すると、そういうもんですかと秦が言った。
今回の選抜選手たちの中で、記者たちが驚いたのは太宰府球団の秋山選手くらい。
秦はどうにも納得しがたいという雰囲気を醸している。
「秦が言いたい事もわかるよ。あれだろ? 秋山より若松さんの方がって言いたいんだろ? 今回選ばれた選手と予備招集の選手は、まだ入れ替えの可能性ってのがあるんだからな。最終的な事はまだわからないよ」
そう杉浦が説明するのだが、当の若松が「それはどうだろう」と言ってから笑いした。
今回予備選手には若松の他に、多賀城の梨田、西府の岡田、北府の山田、南府の北別府が選ばれている。
この五人は代表の練習にも呼ばれるし、試合に対しての拘束も発生する。つまりは、普通に代表に抜かれるのと何ら変わりがない。
「しかし、あの江夏さんも江川さんも代表に呼ばないとはねえ。そこはちょっと驚きですね。村田さんも山田さんもこれまで呼ばれる事はありましたけど、江川、江夏の壁が厚かった感じでしたから」
その広沢の意見に、「やっと村田さんが陽の目が見れそうで嬉しい」と渋井が言った。さらに、「秋山も苦労人だから選ばれて嬉しい」と。すると無口な角がふふと笑った。
「おい若松、荒木が《《おいた》》しないように、ちゃんと見張っててくれよ。国際競技大会の二の舞は御免だぞ」
大杉がそう言って荒木をからかうと、渡辺が大爆笑であった。
「国内なら目も届くんですがねえ。海外でお姉ちゃんに悪戯されたら、俺じゃあどうにもならんですね」
若松が笑うと、一同は大爆笑であった。
若松が荒木をちらりと見ると、若松はぶすっとした顔で枝豆をぷちぷち潰していた。
すると不意に「村田、西崎、荒木」と杉浦が呟いた。
「どうかしたのか?」と若松がたずねる。
「いやね。ずいぶん速さに拘った人選をしたんだなって思っただけだよ。高木、篠塚、高橋、新井、秋山、島田、彦野もそんな選手だろ。これまでは若松みたいに技術の高さで選んでた印象だったけど」
杉浦の見解に、「言われてみれば」と尾花がはっとした顔をした。
「……なるほどなあ。もしかしたら何か面白い事を考えてるのかもしれないな、あの監督」
そう言って若松は麦酒をくいっと飲み干した。
よろしければ、下の☆で応援いただけると嬉しいです。