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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
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第12話 ホルネルの真髄

 ホルネルがやってきて、すでに五試合を終えた。

 七月初戦の多賀城遠征の時にはまだ瑞穂に来ておらず、次の直江津球団戦は観戦のみ。初戦はその次の小田原遠征であった。

 ホルネルはヘラルトのような軽快さというものはまるで感じない。どちらかというと竜を操る技術で勝負する質の選手である。


 それがどうにも他の選手たちと噛み合わない。

 選手たちも前のヘラルトの感覚でホルネルに球を繰り出すために、とにかく追いつかずに、競技場から球が出てしまったり、敵に奪われるという場面が多い。そんな場面を見て、関根監督も思わず使いづらいと漏らしてしまっていた。


 上手くいっていないというのはホルネルも感じているようで、かなり悩んでいるらしく、徐々に口数が減っていった。


 定期的にホルネルを食事に誘ってはいるものの、瑞穂の食事に対する感動よりも、今は試合でどう活躍しようという事で頭が一杯になってしまっているらしい。


 なるようにしかならないし、ヘラルトだって来たばかりの頃は全く生かせなかったと若松は周囲に言っている。

 練習後ホルネルが一人居残って練習している風景を皆が目撃しているだけに、何とかしてあげたいという気持ちは日々強くなっていく。



「何かヘラルトの爆発的な瞬発力のような大きな売りがあれば良いんですけどね。相手の中盤が好き放題やれちゃってますもんね」


 蕎麦をすすった後、米酒をちびりと呑みながら荒木は言った。

 「それなんだよな」と若松も同調。

 小川は無言でホルネルの顔を見ている。


「栗山の時はそれでも何とかなってるんだけどな。小川は栗山と違って支配力で勝負するわけじゃないから、ホルネルとは絶望的に合わないんだもんな」


 若松の分析に、小川も無言で頷いた。

 ここまでを通訳越しに聞いていたホルネルは、眉を寄せ悲痛な顔をして黙ってしまっている。


「でもですよ。うちの勧誘者が例え急遽交渉したからって、何の特徴もない選手を推挙するとは思えないんですよね。ホルネルにも何か光る物があるから推挙したと思うんですよ」


 それは確かにそうだと小川の意見に若松が同調。

 ただその『光る物』が何かがわからない。


 するとホルネルが何かを呟いた。それを聞いた通訳が「え?」と聞き返した。

若松たちが何を言っていたんだとたずねる。すると通訳は驚く事を口にした。


 今ヘラルトの代わりとして使われているのだが、そもそもホルネルは先鋒の選手らしい。

 中盤もやれるが、できれば先鋒として試して欲しいと呟いたらしい。


「先鋒かあ。先鋒ねえ。俺が監督でもホルネルを先鋒で使おうとは思わねえだろうな。一人で敵の後衛の二人を相手にできるような気がしないもんな」


 確かに、ホルネルの母国ポンティフィシオの代表は、中盤の選手が上手く敵陣深くまで持ち込み、最後を巧みに先鋒が決めるという場面を良く目にする。だからそこまで速度は要求されない。


 だが、今の瑞穂は中盤がそこまで成熟しておらず、先鋒の竜の速さで勝負するという戦術が一般的になってしまっている。


「先鋒ならって言うんなら、それを試合で見せてやったら良いのに。強引に篭前まで持って行って点を決めてみるとかさ。これは!っていうものが見えたら監督も何か考えると思うんだけどなあ」


 その小川の言葉が通訳によって訳されると、ホルネルは鋭い目をして、無言で数回うなづいた。



 八月の最終戦は見付球団の本拠地である三ヶ野台総合運動場での小田原球団戦。

 その日の先発は前節の直江津遠征同様、守衛が八重樫、後衛が広沢、杉浦、中盤が栗山、角、ホルネル、先鋒が尾花。


 若松、小川、荒木の三人は揃って補欠席に座っている。

 これは調子を落としているという事ではなく、単に暑いので竜の疲労の蓄積を考えての起用というだけである。


 試合が開始されると、ホルネルはいつもと同じように中盤の一選手という感じで角、栗山に球を渡しながらじっくりと攻め入った。


 だが途中で球が奪われ、攻守が交代してしまう

 小田原球団の後衛二人、加藤選手と屋敷選手は快速を誇っている。

 特に屋敷選手の快速ぶりは荒木でも手を焼いているほどである。


 ただ、悲しいかな小田原球団は中盤が弱い。

 確かに高木選手は竜を走らせるのが速い。だがそれだけ。特に先鋒の質が良く無く、一番点を入れているのが高木選手というのだから目も当てられない。


 見付球団は守備力に定評のある球団である。そのせいで小田原球団戦は後衛から後衛の間で球が行き来しているという展開になりやすい。


 前半戦も残り十分を切ったところで、広沢が奪った球を栗山が持ち込んで攻め上がった。

 どうにもホルネルの動きが読めず、栗山は角に球を渡す。角もある程度攻め上がったところで栗山に球を戻そうとした。

 だが視界の先に白群色の試合着が見えた。

 この時点では尾花だろうと角は感じていたらしい。だが、打った後で、もっと敵陣深くに尾花がいる事に気付いたらしい。もう一度自分が球を打ち出した相手を角は確認した。


 そこにいたのはホルネルであった。


 出せる全速力で球に駆け寄ったホルネルは、少しだけ前に打ち出し、そこに再度全力で竜を駆った。

 そしてまだ篭までかなり距離があるというに、思い切り竜杖を振り抜いたのだった。


 球はまさに弾丸という感じで篭に目がけて一直線に飛んで行く。

 だた少し篭より上に軌道を取っているように見える。

 この時、相手の守衛の若菜選手は守衛線ギリギリの所に立っていた。


 若菜選手も球の軌道を見て、篭の中には飛ばないと判断したらしい。

 ところが球が徐々に高度を下げ始める。若菜選手が一歩一歩後ずさる。

 しまったと思った時にはもう遅かった。球はほんの少しだけ勢いを殺して、若菜選手の竜杖の先をかすって篭に飛び込んで行ったのだった。


 見た事も無い超長距離からの得点に観客席が一斉に総立ちとなった。

 決して多くない観客が大歓声をあげる。

 小田原球団のかち色の応援服を着た応援団も総立ちで歓声をあげている。


 審判までもが笛を吹くのを忘れてしまっている。

 はっと気が付いた審判は慌てて得点の笛を吹いた。


 競技場内の選手が全員ホルネルを凝視。

 さらに両軍の補欠席も総立ちとなっている。


 竜杖を天高く掲げてホルネルが「ウラッ!」と大声で叫んだ。



 そこから小田原球団はホルネルをかなり重点的に守備した。


 後半、尾花に代わり伊東が、栗山に代わり小川が入った。

 入って早々にホルネルが再度長距離からの得点を決め、小田原球団は軽く錯乱状態になってしまった。

 これまでのように先鋒が優秀という事ならばそれなりに対処はできた。

 後衛を増やすなり、球を出す選手を守備すれば良い。

 だが、不意を突いて長距離から正確に篭に打ち込んで来るというのはどうにもならない。

 しかもホルネルは単に長距離から打って来るわけでなく、しっかりと守衛の位置を観察して打って来ている。


 この日、後半に入った伊東も二得点をあげており、四対〇で勝利。

 三位に落ちていた見付球団は、稲沢球団を抜いて二位へと浮上したのだった。

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