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第19話 準々決勝

 宮田と荒木は、自分の部の試合が終わった翌日には、送球部の試合に向かった。

 二回戦の対戦相手は中部の堀江高校。場所は前回同様、浜松総合体育館。


 二回戦、送球部の顧問別当(べっとう)は前回とは戦略を変えてきた。

 前半に宮田を投入し、相手の疲労を誘ってから荒木で粉砕という手法を取った。

 これが見事にはまり、福田ふくで水産高校は終始相手を圧倒して三回戦へと駒を進めた。


 三回戦、対戦相手は郡東部の土方工業高校。場所は西郡にしのごおり総合体育館。

 前回の戦術がしっくり来たと感じたのか、別当は今回も前半に宮田、後半に荒木を投入。二回戦ほどでは無いものの、楽勝という感じであった。



 その二日後、今度は竜杖球部の準々決勝。

対戦相手は昨年の郡代表、鞍ヶくらがいけ高校。前回同様、今回も会場は今橋総合運動公園。


「おい、広岡ちゃん、また何か言われてきたらしいぞ。広岡ちゃんってのは初対面の人から見てもからかい甲斐があるように見えるのかねえ?」


 川村がそう言って笑うと三年生たちが大笑いした。

 そんな笑いの渦の中、今にも泣き出しそうな顔で広岡は審判の下から戻ってきた。戻って来るなり無言で椅子にどっかと腰かけた。


 今度は何があったと面倒そうに聞く伊藤に、広岡はちょっと聞いてよ言ってと愚痴った。


「向こうの顧問ね、『これはこれは可愛らしいお嬢ちゃんだ』とか言うの! 『もしうちに勝てたら、駄菓子を買ってあげよう』だって! それが教師の態度かっての! ああ、ムカつく!」


 くだらねえ。

 宮田と浜崎は同時に呟いた。


「おお、よちよち、怖かったねえ。お兄ちゃんたちがめってしてきてやるからね」


 そう言って川村が広岡の頭を撫でると広岡は激怒して思い切り川村の頬をつねった。そんな広岡を見て、藤井は俺たちに当たっても仕方ないだろうと呆れ果てた。


「でもよう、舐められた事には変わりないよな。ったくよう、前回もそうだけど、広岡ちゃんも何か言い返せよ」


 伊藤に指摘され、広岡がだってだってと駄々っ子のように口を尖らせる。荒木と戸狩は顔を見合わせため息をついた。



 さすがに鞍ヶ池高校は昨年の郡代表だけあり、福田水産高校の弱点をすぐに見抜いてきた。


 中盤の宮田、浜崎、川村の三人は連携が非常に良く、後衛の藤井、杉田の守備は実に固い。荒木の速度と得点力が圧倒的で、およそ昨年一回戦負けした学校とは思えない。

 だが、最初の得点で守衛が全く反応できていなかった。そこまで強烈な打ち込みじゃなかったのに。

 つまり篭前まで持ち込めれば、後は無人の篭に放り込むだけ。


 そのせいで前半の途中から両軍共に『縦ポン』と言われる大きく打ち出してそれを追いかけるという戦術の応酬となった。


 前半終わって一対二。

 完全に打ち合いとなってしまっている。恐らく後半はもっと向こうは極端な事をしてくるだろう。


「どうするよ、広岡ちゃん。このままだと打ち負けちまうぜ? 広岡ちゃんは駄菓子買ってもらえるかもしれないけどよ、俺たちは駄菓子なんかより勝ちてえよ」


 浜崎の発言に、嫌な事を思い出させるなと広岡は不貞腐れた。

 だが広岡から見ても現状は非常にまずいと思う。不貞腐れている場合では無い。


 当然後半から人を変えるとして問題は戦略をどうするか。

 といっても選択肢はそこまで多いわけではなく、攻撃に特化して打ち合いを制するか、それとも守備を固めるかの二択。

 浜崎、宮田、荒木は打ち合いを望み、藤井、川村、杉田は少なくとも守衛は交代すべきという意見であった。


「わかった。まずは辻君に代わって大久保君に入ってもらい守衛をやってもらいましょう。その上で川村君に代わって伊藤君を入れましょう」


 篭に近い方から二・三・一という状態だった守備人員を、三・一・二という風に変更。中盤の宮田に後衛に下がってもらい、中盤は浜崎だけにし、荒木が左翼、伊藤が右翼という感じで両翼から攻撃して、少しでも打ち漏らしを無くしていく。


「名付けて『鶴翼の陣』!」


 広岡は自信満々に言ったのだが、間髪入れずに藤井から何のことだよと指摘された。これだから歴史の先生はと川村が呆れ口調で言った。



 後半、これまでの戦略を大きく変えてしまった事で、なかなか宮田と藤井、杉田の連携が取れず、立て続けに二点を失点。点差が三点に開いた。だがその二失点で宮田と浜崎が何かに気付いた。


「荒木! 北国の時の事を覚えてるか? お前はあれを徹底しろ! それ以外の事は浜崎にやらせる!」


 宮田からそう指示されると荒木は大きく頷いた。

 一方の浜崎は伊藤の下に行き、荒木はいないものと考えて俺と二人だけで攻撃を組み立てようと指示した。


 そこからの福田水産の攻撃は凄まじかった。

 宮田は球を確保すればすぐに荒木に向けて大きく打ち出す。一方の浜崎は伊藤と二人で球を持ち込んで攻め上がる。

 この二種類の攻撃に敵軍は全く対処ができず防戦一方となってしまった。


 特に宮田、荒木の攻撃が痛かった。そのせいで守備位置を容易には上げられなくなってしまったのだ。守備位置が上げられないと、攻撃に重きを置けなくなり中途半端なものになりがち。

 ゆっくり攻め上がってくるかと思いきや、いきなり一人で速攻される。速攻を警戒すれば残った人数で流し込まれる。しかも零れた球はどこからともなく現れた荒木が篭に押し込んでしまう。


 試合が終わった時には得点は五対四となっており、福田水産は後半だけで四得点をたたき出したのだった。



 翌日、福田水産高校竜杖球部宛てに小さな小包が届いた。差出人は鞍ヶ池高校。中は高級駄菓子の詰め合わせであった。

 相手の先生の手紙が添えられており、『失礼な事を言ってしまい大変申し訳ありませんでした』と謝罪文が記載されていた。また、『貴校が郡の代表として国予選に進出できる事を陰ながら祈っています』とも書かれていた。


「謝罪文は送ってきたけど、私をガキんちょ扱いするのは改めないのね。失礼しちゃうなあ」


 そう言って不貞腐れる広岡に、伊藤はそんな態度だからガキ扱いされるんだと指摘。胸はまだまだガキだけどなと宮田が笑うと、川村と藤井が広岡の胸を指差し大笑いした。

 広岡は激怒し、竜杖を握りしめて宮田たちを追いかけまわした。


「準決勝の相手って幡豆はず高校ってとこらしいですね。うちと違い次が二戦目ですけど、昨日の試合三対零だったって新聞に出てましたね」


 おかきをぽりぽり食べながら戸狩が言った。

 新聞の寸評では鉄壁の守備を誇ると書かれていたらしい。何度も攻め込ませて、敵を前掛かりにさせ、引き絞った弦を解き放つように速攻で点を取る。

 その戦術は完成されており、職業球団でも苦戦するのではないかと思われると書かれていたのだとか。

 なお、福田水産高校の方には、攻撃力というか破壊力は凄まじいものがあるが、万事に置いて雑さが目立つと書かれていたらしい。


 どこの新聞だよと憤る浜崎に、竜杖球の郡予選の記事なんて書く奇特な新聞なんて競技新報きょうぎしんぽう日競にっきょう新聞くらいなものだと伊藤が笑い出した。最近では地元紙である三遠新聞ですら竜杖球の郡予選の記事は結果しか書かなくなったと。


 ところで宮田たちの方はどうなったんだと浜崎が聞いた。どうやら竜杖球部の方には何も情報が入っていないらしい。


「先発で出されてるよ。明後日四回戦目だってさ。ったく、約束が違うんだよなあ。俺たちは補欠だって聞かされて行ったのによう。でもまあそれも次で終わりだろ。相手の西尾にしお農業って前回の郡代表らしいからな」 

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