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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
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第5話 警備をどうする?

 翌日、さっそく荒木は美香の案を集客対策の特別班で発表した。


「それ、良いじゃないですか! うちらの認知度も上がって、地元商店街も盛り上がるなんて一石二鳥じゃないですか!」


 最初に面白いと言ってくれたのは栗山であった。裸の広告より断然良いと言って。どうやら栗山も裸の広告には抵抗があったらしい。


 すると伊東が手を挙げた。


「商店街の話は、それはそれで良いと思う。それとは別にこういうのはどうだろう? 鮮魚市場や生鮮市場には卸問屋直売の店ってのがあるんだ。日付を決めて彼らに特別市を開いてもらうんだよ。もちろんうちらが行ってそこで呼子をするんだ」


 その案に面白そうとまず秦が乗って来た。さらに荒木と栗山も面白そうと賛同。

 だが杉浦は慎重で、「一旦冷静になって一歩引いた視点から見てみろ」と四人に指摘。何か問題になりそうな点を見落としていたりしないか考えてみようと。


 当然相手のある話なので、相手が何と言ってくるかが未知数と伊東が指摘。

 ただ、それ以外の問題点は出なかった。


「よし。じゃあ満場一致って事で、この二案で行こう。もしかしたらお互い連携してくれて特別市に料理出してくれるような事もあるかもしれんし、そこで話題になれば、球場の方に出店を出してくれるかもしれんしな」



 こうして、班長の杉浦と、勝手に副班長にされた荒木の二人で球団の広報部に集客案を提出しに行った。

 案を受け取った広報部の若い女性職員がとても楽しそうと言ってくれた。特に伊東の出した特別市。私も行ってみたいとまで言ってくれた。

 若い女性に手放しで喜んでもらえて杉浦の顔はデレデレであった。


「特別市かあ。それだけの大がかりな催しとなれば、きっと地元の放送局も来てくれるぜ。放送で映ればさ、『お! 竜杖球盛り上がってるな!』って、観客もきっと増えてくれるぜ」


 そう言って杉浦は獲ってもいない狸の皮の枚数を数えほくそ笑んだ。



 小田原戦を終えると、杉浦と荒木は呼び出しを受ける事になった。

 どうやら球団側でも話がまとまったらしいと杉浦は荒木に言っていた。


 ところが、広報部の田口部長の回答はまさかの没。


「はあ? どちらの案も自分たちだってかなり真剣に考えて、その上で自信をもって提出した案なんですよ! いったい何が駄目だっていうんですか? ちゃんと納得の行く説明をしてくださいよ」


 後輩たちの案を足蹴にされ杉浦はそう言って憤った。


 そんな杉浦に、田口は実に冷静に指摘した。


「案自体はどちらも悪くないんだよ。いやそうじゃないな。非常に面白いと思うんだよ。確実に話題になるだろうしね。仮に初回から数回の集客がいまいちでも、回を重ねるごとに効果はどんどん上がると思う。だがね……」


 そこで田口は一回話を区切って、非常に言いづらそうにした。

 隣に座る吉野課長が実に渋い顔をして、田口の代わりに言葉を続けた。


「実はね、この二案を緊急の経営会議にかけてもらったんだよ。俺も面白い案だと思ったからね。ところがね、そこで一つ指摘が出てしまってね。それで会議の流れみたいなものが変わってしまったんだ」


 杉浦と荒木は顔を見合わせて、吉野の次の言葉を待った。


「その指摘というのはね、君たちの身の安全が確保できないかもしれないというものなんだ。こういう言い方が正しいかどうかはわからないが、我々球団にとっては選手っていうのは大切な商品なんだ。それを傷つけられる危険があるところに晒す事はできないんだよ」


 田口の言う指摘が理解できるだけに杉浦は露骨にがっかりした。

 報道のこれまでの行動を考えると荒木もそれ以上は言えなかった。


 そんな二人に、田口は「気を落とす事は無い」と言って微笑んだ。


「まあまあ、お二人さん。部内でもこれが面白い案だという声は高いんだよ。なので、この案はこちらで一旦お預かりさせていただく事にする。これを実現可能なものにするのは我々広報部の仕事だと思うからね」


 それでもがっかりしたままの二人に吉野が声をかけた。


「よくよく考えたらね、会議で問題になったのは君たちの警備だけなんだ。そこを最優先に考えて主催者側と協議をして行くという事で、こっちでもう一度案を修正して会議にかけてみるから。結果を待っててね」



 こうして、杉浦と荒木は会議室を後にした。

 二人はああ言っていたが、恐らくは許可は下りないのだろう。残念だけど、帰って別の案を練る必要があるだろうと言い合っていた。


「やっぱり『裸広告』かねえ……」


 そう杉浦が呟くと、「それだけは嫌」と荒木が呟いた。



 数日後、杉浦と荒木は再度球団の呼び出しを受けた。

 恐らく別の案はまとまったのかと催促されるのだろうと杉浦は荒木に言っていた。


「おお、よく来たね、二人とも。取り急ぎ君たちには報告しておこうと思ってね。例の商店街の売り子の案と、特別市の件ね、どちらも会議通ったんだよ」


 「えっ?」と杉浦と荒木は同時に声を発した。

 これが通った企画書だと言って、吉野は修正した企画書を二人の前に置いた。自分たちが提出した企画書からすると、三倍以上の厚さに膨れ上がっている。


「純粋にね、企画書としては内容が不十分だったからね。かなり加筆させてもらったよ。肝心の君たちの警護なんだけど、あの後すぐに良い案が部内で出てね。営業をかけてみたんだよ。そうしたら二つ返事で承諾してもらえてね」


 嬉しそうに吉野は企画書をぺらぺらとめくって二人に見せた。


「浜松に軍の鎮台があるのは知ってるよね。そこを退役した軍人さんがね、保安会社をやってるんだよ。そこに選手の警護をお願いしたいっていう話をしたんだ。それで定期的に仕事を依頼するので、できれば出資もしてもらいたいって」


 出資金も増えて、集客案も通って一石二鳥、これで集客が増えれば一石三鳥と吉野はホクホク顔で言ったのだった。

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