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第59話  海外が激怒

 二月に入り、薩摩郡に合宿に行く事になった。


 合宿開始から数日後、国際競技大会の予選が行われた。対戦国はアマテ共和国。


 ――アマテ共和国はペヨーテ連邦の南、瓢箪大陸のくびれ辺りの国である。

 元はいくつかの部族が別れて住んでいたようだが、徐々にそれが集約されていき、最終的に部族連合から代表者を出すという首長連合国が形成。その後代表者が絶大な権力を掌握するようになり、世襲皇帝が統治する帝国となった。


 中央大陸西部の国々の侵略があったのはその頃であった。

 アマテも多分に漏れず侵略を受けたのだが、侵略者の目標は北と南に注がれており、アマテはそこまででは無かった。

 さらにアマテは夜襲を得意としており、侵略者たちを苦しめた。

 最終的にペヨーテで侵略者たちが排除されると、アマテからも侵略者は撤退。

 その後、住民反乱によって皇帝が排され大統領制に移行。現在に至っている――



 アマテは最初の対戦表の決定の際に最初に振り分けられた六か国のうちの一つである。テエウェルチェに比べれば実力は一段下がるが、それでも圧倒的な強さであった。

 瑞穂代表は終始圧倒され、結局無得点に終わっている。


 一時二位にまで順位を押し上げた瑞穂だったが、ダトゥ戦、アマテ戦と連敗し、一気に順位を四位にまで下げてしまっている。


 その二週後にウェハリ戦となった。

 前回の対戦は予選の初戦で、場所は瑞穂の皇都国立競技場であった。今回は敵地に乗り込んでの一戦となった。

 前回は六対〇という一方的な試合であったが、さすがに敵地という事でそこまで楽な試合では無かった。それでも三対一で勝利。



 三月に入り、薩摩郡では球団同士の練習試合が始まった。

 初戦の南府戦に勝利した見付球団は、昨年よりも確実に強くなっているという手応えを皆が得ていた。



 その数日後、皇都国立競技場でテエウェルチェ戦が行われた。

 荒木が抜けた先鋒には北府球団から星野が呼ばれている。

 星野は昨年の二軍の得点王なのだが、一昨年の得点王の荒木とは真逆の選手で、竜は全く速く走らせられない。その代わり、まるで自分の足で走っているのかと思うほどに竜の制御が巧く、荒木よりも竜杖の扱いが巧みという選手である。

 年齢は荒木の一歳下、小早川と同じ年。


 今回、金田監督は荒木が使えなくなった代わりとして、この星野に期待をしていたらしい。

 その巧みな技術は瑞穂では、それも二軍では圧倒的だったかもしれない。だが、どうやら世界に通じるというところまでは行っていなかったらしい。

 確かにテエウェルチェの後衛は星野に手を焼いていた。残念ながらそれだけだった。


 途中から相手の後衛はかなり強引に星野を守備し始め、星野はそれに徐々に手詰まりになっていった。

 結局、試合は一対六という一方的な内容で敗戦。


 その試合の後、ちょっとした出来事があった。

 テエウェルチェの監督ディエゴ・スキアヴォーニが会見が始まる早々、机を激しく叩いて激怒した。


「瑞穂の連盟は最初から勝てないと踏んで主力選手を温存したのか? それとも、我々に何か思うところがあって、主力選手を出さなかったのか? どちらにしても我々を愚弄している」


 我々は前回非常に苦戦を強いられた。今のところ、今大会の予選であそこまで苦戦させられた事は無い。それだけに今回の一戦は皆が楽しみにしていた。本戦に向けてこんなに良い相手とやれるなんて、こんな好運な事があるかと言い合っていた。

 それがなんだ。何なんだこの試合は。

 そう言って、怒りでスキアヴォーニは椅子の背もたれにもたれかけて天を仰いでしまった。


 そんなスキアヴォーニに瑞穂の記者から、「前回の試合から選手はほぼ変わっておらず、言いがかりなのではないか」という指摘が出た。

 それが訳されると、海外の記者たちが一斉に「えっ?」と驚きの声をあげた。何やら母国語でごちゃごちゃ言っているが、残念ながら瑞穂の記者たちにはよくわからない。

 そんな外国の記者たちを落ち着かせて、スキアヴォーニは低く威圧するような声を発した。


「『ヤガー』だよ。あの選手が出ていないんだよ。お前たち瑞穂の記者が知らないわけがないだろう。我が国だけでなく瓢箪大陸の報道はこぞって彼の件を記事にしたのだから」


 アルゴンキン遠征の後、突然代表戦に出なくなったと聞いた。元々古傷のある選手だから、それが傷んだのだろうとテエウェルチェの連盟は言っていた。だが、二月から練習試合に普通に参加しているという話を聞いている。だから今回は出てくるだろうとテエウェルチェの連盟は言っていた。

 それなのに出てこなかったというのはどういう事なんだ?

 そうスキアヴォーニは威嚇するように言って、最後に「ふざけやがって(ノ・メ・ホダス)!」と悪態をついた。


 スキアヴォーニの鋭い眼光に瑞穂の記者たちが怯んだ。


「あの、すみませんが、その『ヤガー』とはなんですか?」


 そんなスキアヴォーニに、恐る恐るという感じで競報新聞の記者がたずねた。


 海外の記者たちが一斉にざわつき始める。

 最も驚いた顔をしたのはスキアヴォーニだっただろう。最初に出てきた言葉は「嘘だろ(ノ・プエデ・セル)?」であった。


 何かを言おうとして馬鹿馬鹿しくなり、乾いた笑い声を発して、スキアヴォーニはぽりぽりと耳を掻き、呆れ果てたという顔をした。

 結局、『ヤガー』が何かについては回答しなかった。


 そこからスキアヴォーニは海外の記者の質問のみに回答した。

 瑞穂の記者が何かをたずねても、「どうせ答えてもお前たちでは何も理解できないだろう」と回答するだけであった。


 翌日、瑞穂の各新聞はこの屈辱的な会見について何も報じなかった。

 唯一報じたのが日競新聞であった。


 日競新聞自体は放送局を持っていないが、親会社の産業日報は放送局を持っており、この件について特番枠を一枠設けて報道を行った。

 普段はそこまで視聴数のある放送局では無いのだが、この特番の番組宣伝を竜杖球の放送局でも流してもらい、さらに竜杖球の盛んな北国と、球団が合宿している薩摩郡でこの事が非常に話題になった事で、それなりの視聴者数となっていた。


 そこで語られたのが、前回のテエウェルチェ戦の後で、荒木選手の事をテエウェルチェの報道が『ヤガー』と呼んで称えたという事であった。

 今回も一月ひとつきも前から来月は瑞穂との一戦だと報道は煽っていたらしい。ここ三戦出場していないが、我々の時には出てこないわけにはいかないだろうと。


 そして競報新聞の記者の「『ヤガー』とはなんですか?」という質問する映像が流された。それに対するスキアヴォーニの呆れ顔も流れた。


 その後、海外でこの事をどう報じたかという事を各国の新聞を取り寄せて報じた。

 その内容はほぼ同じ内容で、一言でいえば『瑞穂の報道は無知蒙昧』という内容。

 瑞穂で竜杖球の知名度が低いという事は知ってはいる。それなのに何の興味も持っていない記者に取材に行かせるというのはどうなのか?

 どうせ野球や蹴球、闘球、篭球も同じようなものであろうから、今後は瑞穂の報道は排除をする、もしくはそれができないのなら無視をしていくのが良いかもしれない。

 そんな感じの事が書かれていた。


 恐らくはこの件で、国際競技大会の取材は非常にやりにくくなるだろうという言葉で番組は締めた

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