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第17話 組合せ抽選

 一月間の送球部での活動が終わり、二学期も残り半月となった。


 七月に入れば竜杖球部も大会に出場する事になる。だが、現時点で三点不安点があった。

 一点目はあの春休みの合宿以降、全く竜に乗っていないという点。

 もう一点は参加登録の規定である十二人に二人足らないという点。

 そして最後は十人の中に守衛の選手がいないという点。



 竜杖球部の部室でいつものようにまったりと過ごしていると、嬉しそうな顔をして広岡先生がやってきた。いつにも増して気分が高揚しているように感じる。広岡の気分が変に高揚すると部員の士気が落ちる。これは今年に入ってから何度か見られる光景である。

 その都度広岡は同じ事を言うのだ。


「はい、注目! じゃあん! 今日はみんなに良いお知らせがあります!」


 何だと思うと嬉しそうに聞く広岡だったが、部員たち、特に三年生たちは露骨に面倒そうな顔をする。広岡はそんな態度にもめげず、伊藤になんだと思うと個別にからみに行った。伊藤はそんな広岡を完全に無視。次に川村に同じように何だと思うと聞いた。


「知らねえよ。あれか? 何か可愛い下着でも買ったのか? 良かったじゃねえか。今度見せてくれよ」


 川村の無神経な発言に広岡は顔を真っ赤に染め、そんなんじゃないし、仮にそうだったとしてもあんたたちになんて見せるわけがないと憤った。すると藤井は、あれが来ないと焦ってたら来てほっとしたとかじゃないのかとさらに無神経な事を言い、広岡を完全に怒らせてしまった。


「もう良いもん! 本当に良いお知らせだったのに! 何でそういう態度かなあ。みんなが喜ぶと思って、私るんるんでここに来たんだよ!」


 『るんるん』という単語に大久保と石牧がひっかかったらしく『るんるん』と何度も言って笑い合った。その態度に広岡は今度こそ完全にへそを曲げてしまった。

 もったいぶってさっさと言わないからそういう事になると宮田が指摘。広岡は頬を膨らませて抗議した。


 そこにそろそろ良いですかと言って二人の生徒が入ってきた。部員たちは皆一斉に、二人を指差しどうしたのかとたずねた。

 二人は共に送球部の一年で、一人は辻、もう一人は福島。二人が事情を説明しようとするのを広岡が制した。


「実は、送球部のお二人を別当先生に無理を言ってお借りしちゃいました!」


 二人は当然竜の騎乗経験は無いので守備位置は守衛。この十二人で夏の大会に出場登録をしておいたと広岡は薄い胸を張った。

 その説明に部員たちは一斉に喜んだ。これでこれまでの懸念点が二点まとめて解決できたわけである。後はなけなしの部費を使って最終調整に行くのみ。


 だがここで宮田のぼそっと発した一言が部室の空気を変えてしまった。


「しっかし、送球部も登録外の一年とはいえ、よく無償で貸してくれる事になったよな。送球部だってそこまで余裕があるってわけでもないだろうにさ」


 部員が本当だよなと言い合っている前で、広岡が明らかに焦った顔をしている。

 ……この顔。これまで何度か見た顔。絶対に裏に何かある。そう部員たちは感じ、広岡を見る目が極めて冷たい物になった。


「えっと……宮田君、荒木君、ちょっと……外でお話聞いてもらえないかな?」


 おどおどという広岡の態度で、宮田は何となく広岡が何を言ってくる気なのか想像がついた。極めて冷たい目で広岡をじっと見ている。広岡はその視線に耐えられず顔を反らした。


「つまり何か、ようは俺と荒木を売ったのか、送球部に! 何考えてんだあんた!」


 宮田の広岡を見る目がさらに冷たいものになる。


「違う、違うのよ! そうじゃないの! そうじゃないんだったら! 貸すだけなの。日程的に被ったら当然うちを優先して良い事になってるから! だから、お願い。部の為だと思って、ね」


 卑怯だと宮田が怒ると、荒木もやっと状況を理解したようで、卑怯だ卑怯だと連呼した。だが浜崎たちは少しバツの悪そうな顔で黙っている。


「ま、まさか、お前らも俺たちを売る気じゃねえよな? おい! ふざけんなよ! 冗談じゃねえぞ!」


 宮田は全力で拒絶。だが、浜崎は部の為に涙を飲んでくれと頼み込んだ。川村と藤井が頼むと言って土下座をすると、宮田も折れるしかなくなってしまった。

 だが荒木は見てしまった。ほくそ笑む悪魔のような広岡の顔を。



 送球部の平松が聞いたと言っていた広岡が作っていた拷問器具、それは木馬であった。打ちつけられた鐙に足をかけて木馬に跨り、竜杖で球を弾く姿勢の練習のためのものであった。それと送球部から借りた二人の守衛の練習のため。


 竜は必ずしも自分の思う場所に移動してくれるわけではない。そのため、竜杖の方を竜に合わせないといけない。しかも極端に体勢をどちらかに傾けてしまうと竜もそちらに傾いてしまい、最悪の場合、竜が寝転がってしまい下敷きになりかねない。竜杖を振る姿勢はそれなりに重要なのだ。


 こうして夏休みまでの最後の二週間はあっという間に過ぎ去った。



 二学期の終業式を五日後に控えた日の事。浜崎は広岡と二人で郡の教育委員会の事務所の多目的広間へと向かった。


 全国大会と一口に言っても実際の全国大会への道のりはかなり険しい。

 まず郡予選がある。郡予選は勝ち抜き戦で各組を勝ち抜いた二校が、その先の国予選に駒を進める。

 東国は十七郡ある。本来であれば三四の学校で代表を選ぶのだが、幕府は人口が多いという事でさらに二校が追加になり合計三六校で勝ち抜き戦を行い、最終的に四校の代表を決める。

 最後に東西南北の各国から選抜された合計十六校によって全国戦が行われるのである。


 そうなると決勝に残るには果てしない道のように思うかもしれない。だが全校に竜杖球部が存在するわけではない。確かに職業球技戦の中継を毎週独占している球(=ドッジボール)、送球、はい球(=バレーボール)、とう球(=ラグビー)、ろう球(=バスケットボール)、しゅう球(=サッカー)、野球の七つの球技に関しては、ほとんどの学校に部があり、予選も何試合も行われる。それに比べると竜杖球は三、四試合くらい勝てれば、もう郡の代表なのだ。


 その予選の方式は箱の中から球を取り出す方式で行われる。浜崎が引いたのは一組十二校の内の最後、十二番の球であった。



 「どうだった? 対戦相手どこになった?」


 帰って来た浜崎に真っ先に藤井がたずねた。その浜崎の表情からそれなりに名の知れた高校だということはわかった。


作手つくで高校だってよ。去年の郡予選準決勝まで行ったとこだ」


 浜崎から結果を聞いた部員たちの反応は、まあそんなところかという感じであった。だが問題はそこじゃないと浜崎は憤りながら言った。


「作手高校に勝ったら、その次は去年の郡代表の鞍ヶくらがいけ高校だってよ。しかももう一校の花弁かべん学院もこっち側だってよ。ほんと俺くじ運無いわ……」


 広岡に代わりに引いてもらいたかったくらいだと浜崎はがっくりしてうなだれた。それを聞いた川村は、広岡の方がくじ運悪そうとぼそっと呟いた。


「そもそも広岡ちゃんはくじがどうのっていうより壊滅的に運が悪そうだもんな。……絶対さげまんだろうし」


 広岡が心外だという顔で川村を睨んだ。だが、部員たちはわかるわかると頷き合った。


「私はあんたたちのせいで何かと損してるだけで、昔から運は良い方なの! 自動販売機で何度もおつりの取り忘れの小銭を見つけてるんだから!」


 好運が小さいと言い合う三年生の部員たちを広岡は気分を害したという顔で睨んだ。もし好運な事があったら私のおかげとちゃんと手を合わせろと言う広岡に、伊藤が「あほくさ」と言ってそっぽを向いた。

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