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第49話 アルゴンキン遠征

 最終戦を終え、荒木たちは再び裾野の合宿所に集まっている。


 最終節、幕府球団も稲沢球団も共に勝利し、幕府球団が優勝して瑞穂戦に駒を進めた。

 北国の函館球団、西国の西府球団、南国の台北球団とで瑞穂一を争う事になった。


 見付球団が勝ち、三位だった多賀城球団が幕府球団に敗れた事で、見付球団は三位に浮上。近十年で三位は最良の成績で、球団の事務所はお祭り騒ぎとなっている。


 荒木たちとしては今年の試合はもう代表の二戦だけなのだが、川相たち瑞穂戦を戦う選手たちはどこかピリピリしている。

 そしてもう一人、金田監督もピリピリしていた。

 川相の話によると、どうやら、瑞穂戦に進出した球団からうちの選手は極力使うなという指示が来ているらしい。


 瑞穂戦に出場している選手は函館球団の西崎、幕府球団の原、川相、西府球団が岡田、台北球団が香川。

 どうする気なのか楽しみだと、川相は普段あまりみない悪戯っ子のような顔をした。



 ――荒木たちが空路で向かっているアルゴンキン連邦共和国は中央大陸西部の移民による国である。

 その歴史はほぼテエウェルチェ共和国のそれ。

 元々瓢箪大陸に住んでいた人たちがいたのに、中央大陸西部の国々によって移民という名の侵略を受けた。

 だが、途中でそれに気付いた現住民たちは結託し、移民者の排除に乗り出した。

 その後、現住民たちはペヨーテ連邦共和国を建国。

 ペヨーテから追い出された移民者たちは北に逃げ、ウィニペグを拠点に抵抗。大陸西部の国々の支援を得て、完全に勢いを盛り返し始めた。


 瓢箪大陸の南部はイベロス王国が侵略を支援していたのだが、北部は主にブリタニス共和国とゴール帝国が支援していた。ところが途中でブリタニスが突如瓢箪大陸から手を引いてしまった。

 ちょうどその頃、デカンでブリタニス人排斥運動が起こり、それどころでは無くなってしまったのである。

 結局はゴール一国の支援では戦線維持が精一杯という事になり、侵略軍はペヨーテと和睦。ゴール領ヌーベル・ブルターニュとして国境線が整備され、総督府が置かれる事になった。


 ところが、ゴール人は少し傲慢な気質があり、原住民との地位協定を次々と反古にしていった。政治家となっていたゴール人は純粋なゴール人を頂点とし、混血、原住民という厳格な階級制度を敷いていった。

 二等市民扱いされた混血の階層が支配階層に反発、原住民も巻き込んで大反乱を起こした。

 反乱軍はお隣のペヨーテの支援もこぎつけ、圧倒的優位に事を運んだ。

 ゴール帝国も支援を差し伸べたのだが、大西洋のど真ん中で船ごと沈められて届かないという有様。

 ここまでの反動でゴール人が大量虐殺される事に。


 こうして反乱軍はゴール帝国から独立。原住民の部族毎に州をわけて、アルゴンキン連邦共和国を樹立。現在に至っている――



 アルゴンキンまではテエウェチェと異なり直通便が出ており、小田原空港から飛行機に乗って乗り換えなしで到着する。

 アルゴンキン南部にあるソルトー国際空港に到着後、高速鉄道に揺られて首都ウィニペグへと向かった。


 アルゴンキンは、国際順位は確かに上位ではあるのだが、実力はと言われると疑問符が付く。

 確かに毎回地区予選では上位の順位で終えている。ただ、テエウェチェ、ペヨーテ、マラジョと同じような優勝争いをする国かと言われれば、そんな事は無い。

 格下相手の国に大勝ちして、格上相手の国には適当に。それで何となく上位の順位を保っているという印象がある。つまりは中堅に毛が生えた程度。

 瑞穂皇国は下位集団の中に入れられているのだから、恐らくは入れ替われるとしたらこの国という感じだろうか。


 それだけにできればここは勝っておきたい。それは皆が思っている事ではあるのだが、聞こえて来るのは金田監督が連盟と揉めて激怒しているという話ばかり。

 連盟の部長が球団の意向を最大限に考慮すべきと窘めているらしく、国の威信の方が重要だと金田は反発しているのだとか。


 そんなのは瑞穂を発つ段階で解決している問題だと誰もが思っていた。

 ところが夕飯の時に、連盟の部長と金田が大声で口喧嘩を始めてしまい、それを岡田と原がなだめるという一幕があった。

 どうやらまだ解決していないらしいと皆不安にかられた。



 試合当日。

 控室で先発選手の発表が行われた。

 守衛が伊東、後衛が彦野、愛甲、中盤が大石、高木、小早川、先鋒が工藤。


 結局、金田は連盟に屈した。

 この事を知ったら、関根監督はさぞかし飯が旨いと言って笑うだろう。



 両国の国旗が国家に合わせて掲揚される。

 アルゴンキンの国旗は『緑と白、十三枚の鳥の羽根』というもので、南のペヨーテと意匠がよく似ている。

 この辺りの行事は毎回同じで、もはや荒木たちに感動のようなものは一切湧かない。もう淡々といつもの事をやるだけという感じになってしまっている。


 審判が笛を吹き、前半戦が開始となった。


 実力がそこまで変わらないと事前に言われてはいたが、見ている限りでも確かにそんな雰囲気を感じる。


「荒木、たぶん今回お前の出番があると思うからそのつもりでいた方が良いぞ」


 試合を観ながら隣に座った西崎が言った。


「なんで俺、敵地でしか活躍が無いんでしょうね。瑞穂で使ってくれれば人気出るのに」


 そう言って、ちらりと荒木が横を見ると、金田は腕と足を組んで、膝を小刻みに揺らしながら苛立っていた。

 西崎もそんな金田を見てため息をつく。


「監督にも計算ってのがあるんだろ。でも監督が苛つくのもわかるよ。原だけじゃなく川相まで外さなきゃいけないんだもんな。俺たちに給料払ってるのは球団だし、竜を提供しているのも球団だからな。球団のいう事もわからんでも無いんだけどさ」


 連盟から支払われるはした金で大事な商品を貸さなきゃいけないのだから、貸す側からしたら注文くらいは付けるというものだろうと西崎は言う。


「でも、国の威信がかかっているんですよね? 代表で活躍したら選手の人気も上がるわけですし、そうなれば観客だって増えますよね」


 球団に利点が無いわけじゃないんじゃないかと荒木は指摘。

 だが、そもそもここにいる人は呼ばれる前から名の知れた人ばかりと西崎は反論した。


「ここにいる中で一番無名だったのは荒木、お前だよ。次点で小早川かな。そもそも竜杖球の人気がそこまでじゃないんだから、そこで人気が多少上がったって言ってもなあ」


 そこまで西崎が話した時点で瑞穂が点を入れられてしまった。

 観客席が大きく沸いている。


「原が使えないとしても、せめて川相が使えればなあ。大石じゃあ守備的すぎなんだよなあ。攻撃は最大の防御って言うんだから、もっと前に球が出ないと……」


 試合を観ながら西崎はぶつぶつと文句を言いまくっている。

 そんな西崎に隣に座る香川が苦笑いしている。


 結局、一失点でしのぎ切って前半戦は終わった。

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