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第45話 反撃開始

 とにかく相手は全てにおいて勝っているという印象。


 中休憩で原がそう感想を漏らした。

 当然の事ながら人数は同じ。使っている道具も同じ。なんなら竜の質だけ見たらこちらの方が上。にもかかわらず、全く歯が立たないという印象を受けた。

 さすがは地区予選優勝候補の筆頭なだけの事はある。いや、本戦の優勝候補の一角なだけの事はあると。


 今回強豪国として先にテエウェルチェ、アルゴンキン、アマテが先に組合せ抽選で振り分けられている。

 テエウェルチェの初戦は実はアルゴンキンだった。しかも遠征で。にも関わらず、相手に一点も許していない完勝であった。


 勝つのが不可能とまでは言わないが限りなく難しいというのは、前半を終えた全員の共通の印象であった。


「一点を取ろう! 例え負けるとしても、ただただ点を取られての負けでは無く、一矢報いてやろうじゃねえか!」


 少し沈みきった雰囲気の控室に、金田監督の檄が飛んだ。

 熱が引いたのか、はたまた単に冷やす氷が無くなったのか、氷嚢はもう手にしていない。


「これだけ強い相手に点が取れれば、必ず次に繋がる。だから一点を取ろう!」


 再度、金田は選手を鼓舞した。

 最初に原が立ち上がり、南牟礼が立ち、西崎が立ち、彦野が立ち、小早川が立ち。

 全員が立ち上がった。その目は、再度輝きを取り戻し、今にも競技場に飛び出していきそうな闘志を感じる。


「小早川と高木、それと南牟礼と岡田を変える。それで何かしらそれで活路を見出してくれ」


 そう金田が言うと、原は荒木の方を見た。

 荒木は拳を握り、下唇を噛んで何かを必死に我慢している。


 円陣を組み、気合いを入れ直したところで選手たちは控室を出て行った。

 荒木も出ようとしたのだが、原に服を掴まれた。


「荒木を使わないんですか? 何か私的な事があるのなら、俺はそれを出すべきじゃないと思いますが」


 荒木と金田と原、三人だけが残った控室で、原が金田に詰め寄った。

 そんな原を金田がぎろりと睨む


「お前は実に良い主将だ。自分の事だけじゃなく他の選手の事にも気を配れる。だがな、俺にも考えってもんがあるんだ。さっき俺が言った事をよく考えろ。選手だけじゃなく、俺の意図も汲み取ってくれ」


 わかったらさっさと後半戦の準備をしろと言って、金田は原と荒木を追い出した。



 審判が笛を吹き鳴らし、後半が開始となった。


 後半は工藤の打ち出しで始まった。

 相変わらずどこか攻めあぐねているという印象を受ける瑞穂の選手たち。

 対してテエウェルチェは、大量得点で気分の余裕が見て取れる。


 あっさり球を奪われ、あっさりと失点を増やした瑞穂。

 だが、どうもその中にあって、何か気付いた事があったらしい。

 後半から入った高木が、守備位置に戻る時に川相と何やら言葉を交わした。川相も何かに頷いている。


 試合が再開となり、まるで少し前の映像を巻き戻して見ているかのように、球を奪われ攻め込まれる瑞穂。

 だが、先ほどと少し違うのは、工藤が守備に戻ってきているのに高木が戻って来ない。そのせいで守備が非常に苦戦している。


 岡田の懸命の守備で、何とか敵の攻撃を跳ね返した。

 すると、川相が零れた球に向けて全力で竜を走らせた。

 相手の選手も追ってくるが、そもそもの竜の性能に差がある。先に追いついたのは川相で、それをすぐさま前方へと大きく打ち出した。


 球は競技場の中間線付近まで転がっていく。

 敵の後衛二人と高木、工藤がそれを取りに向かい、最終的に高木が追いついた。

 高木は球を前に打ち出し、敵の後衛を引き連れて、篭を目指して竜を走らせた。

 残念ながら最後の打ち込みを前に敵の後衛に攻撃は防がれてしまったが、高木はこれに大きな手応えを感じたらしい。補欠席の金田を見て、両手の人差し指をくるくるさせて交代を進言した。


 金田はすくっと立ち上がり、副審へ選手交代を申告した。 


 係員が六番と十一番と書かれた小さな掲示板を掲げる。

 工藤に代わって、荒木が竜に跨り競技場へと向かって行った。


 入った早々に川相が寄って来た。


「荒木。どうやら相手は俺たちの速度に慣れて、一段速い高木さんに上手く対応できないらしいんだ。相手の守備はあくまで組織の守備だ。だから君なら暴れられるはずだ。高木さんと二人で攻撃を組み立ててくれ」


 大きく頷くと、荒木は元々工藤がいた位置に竜をゆったりと歩かせて行った。


 川相が競技場内に球を打ちこんだところから試合は再開となった。

 だが、いとも簡単に球を奪われ、そこから一気に攻め込まれる事になった。


 荒木も戻ろうとしたのだが、補欠席から「荒木! 戻るな!」という香川の大声が聞こえ、竜の脚を止めた。


 敵の攻撃は岡田と川相の二人で必死に止めた。零れ球を拾った彦野が原に向けて打ち出す。

 すぐに相手の選手が原に守備に来る。ここで原は大きく前方へと打ち出した。

 標的は荒木ではない、高木である。


 快速自慢の高木はすぐに球に追いつき、さらに攻め込もうとするのだが、先ほどの行動で目を付けられており、二人掛かりで守備に来られてしまった。

 その二人を高木は鼻で笑う。

 高木からしたら、「馬鹿め、罠にかかりやがって」と言った所だろうか。

 高木は誰もいない前方へポンと球を打ち出したのだった。


 自分で走り込むつもりだと相手の選手は考えたらしく、なおも高木を守備する。

 だが、その球にいち早く追いついた者がいた。

 相手の選手が目を丸くした。

 無理もない。高木ですら目を丸くしているのだから。


 荒木に付いていたはずの後衛が完全に引き剥がされ、三竜身以上の差を付けられている。


「ラ……ラピードゥ!」


 相手の選手は思わず、そう口にした。


 さらに速度を落とさずに荒木は球を前方に打ち、それを追いかける。

 もはや誰も付いて来ず、竜杖を振りかぶって篭に向けて球を打ちこんだ。

 相手の守衛も反応はしたのだが、どうやら最初に思っていた高さより弾道が低かったようで、竜杖をかすらせただけで跳ね返せはしなかった。


 それまで大歓声をあげていた観客席が、一瞬で静まってしまった。


 これだよ、これ。

 これが敵地の醍醐味だ。

 敵の歓声を黙らせる、これこそが俺への大歓声だ。

 荒木はわざわざ観客席に向かって竜杖を突きつけた。


 ふと見ると、敵の守備陣がこちらを見ながら何やら話し合いをしている。

 その表情は焦燥そのもの。

 実に愉快。



 相手の打ち出しで試合が再開となったが、明らかに先ほどまでと異なり積極性が無い。

 中盤でぽんぽんと球を送り合うだけで、こちらの様子をうかがっているという印象を受ける。


 高木が竜を走らせると、相手の選手も慌てて対処する。

 荒木が竜を走らせると、後衛の二人が慌てて周囲をキョロキョロする。


 そうなれば相手にも打ち損じというものが発生する。

 それをそつなく拾った原が攻め上がっていくのだが、敵は荒木と高木を重点的に守備しており、原への守備が弱い。

 やっと守備に来た敵を嘲笑うように原は敵の後衛の後ろに大きく打ち出した。


 動き出しでは負けているのだが、荒木はそこからが尋常ではない速さである。

 ただ、相手も先ほどと異なり警戒しており、そこまでは引き剥がされない。それでも先に追いつたのは荒木だった。


 そこからさらに荒木は前に打ちこもうとしたのだが、相手の後衛が注意覚悟で竜杖で竜を叩こうとした。

 だがそれがちらりと見えた荒木は竜杖を伸ばし、くるりと手首を返して相手の竜杖を跳ね飛ばした。

 弧を描いて弾かれた竜杖が宙を舞う。

 さらに荒木は球にも追いつき、竜杖を大きく振り抜いたのだった。

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