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第44話 地球の裏側

 荒木たち瑞穂代表選手は、飛行機に乗って一旦ペヨーテ連邦に向かっている。

 次の対戦相手テエウェルチェ共和国は瓢箪大陸南部の南端の国で、瑞穂皇国からしたら地球の反対側となる。その為直行というわけにはいかない。

 経路は二つ。

 一つは、まずは東に飛んでペヨーテで乗り換えて南下する経路。

 もう一つは先に南下し、ウェハリで乗り換えて東行する経路。


 今回はペヨーテ経由の方で行く事になり、一旦ペヨーテのシカアクワ空港に降り立った。その時点で一行はもうへとへとだったのだが、そこからさらに同じくらいの時間飛行機に乗らないといけなかった。


 テエウェルチェ共和国は中央大陸西部のイベロス王国による征服に端を発する国である。

 中央大陸西部の国々は少し傍若無人なところがあり、他国を征服する事をなんとも思わない節がある。

 瑞穂皇国も領土を広げるという行動は行っていたのだが、そこは征服では無く支配に止めている。デカンも太平洋南部に進出した歴史があるが、やはり支配に止めている。

 それに対し中央大陸西部の国がやっていたのは征服。つまりは住民の大虐殺が伴っている。


 イベロス王国の『征服者』たちは大西洋を横断し、一旦現在のタノイ連邦の諸島に上陸、そこを拠点にして瓢箪大陸の全征服に乗り出した。

 イベロス王室も純粋に自国領が増えると喜んでそれを支援した。


 『気が付いたら隣の村が無くなっていた』、そんな話が『悪の征服者が我らを殺しに来た』に変わった。

 そこからは瓢箪大陸の人たちは結束して『悪の征服者』に当たる事になった。

 瓢箪大陸の北部では必死の抵抗で征服者を撃退したのだが、残念ながら南部はそうはいかなかった。

 北部と南部の大きな違いは、強大な国があったか無かったか。

 北部は国が無く、部族がそれぞれの領域を守って生活をしていた自治制度だったため、有事に手を取り大反抗という形を取る事ができた。

 だが南部は帝国や王国があり、征服者たちは時の権力者や官僚たちを収賄によって篭絡して土地を貰っていった。その貰った土地には当然住人がいたわけだが、征服者たちは老人から赤子に至るまで全て皆殺しにした。


 最終的に住民反乱という形でまず国が倒され、その後征服者たちと全面戦争になった。

 だが当然の事ながら地元民の方が人数が多い。本来であれば征服者には万に一つも勝ち目は無いはずであった。ところが、イベロス王国からの全面支援によって、征服者は優勢に戦争を進めて行った。

 最終的に地元民はアンデス山脈まで追い込まれ、瓢箪大陸の南部は全土の七割をイベロス王国に支配される事になったのだった。


 支配地域があまりにも広いという事で、イベロス王国はその領土を北部と南部に別け、それぞれ総督を置いた。

 南部は銀が取れるという事でラ・プラタ総督領、北部は貴重な染料が栽培できるという事でペルナンブコ総督領と呼ばれた。

 この時、ペルナンブコ総督領の総督はイベロス王国の西部の公爵が、ラ・プラタ総督領は東部の公爵が就任したせいで、二つの領土では違う方言が共通語となってしまった。


 その後、両総督領では農業政策と経済政策の失敗による大規模な住民反乱が発生。

 どちらも総督府が陥落し、ペルナンブコ総督領はマラジョ連邦共和国に、ラ・プラタ総督領はテエウェルチェ共和国へと名を変えイベロス王国から独立した。



 テエウェルチェの首都チャルーアの国際空港に降り立った瑞穂代表一行は市内にある大宿へと直行した。

 北半球の瑞穂皇国はもう冬に入ろうとしているのだが、南半球のテエウェルチェはこれから夏に入ろうとしている。

 元々平均気温が高いというのもあるのだろうが、とにかく暑い。


 テエウェルチェに到着した翌日、多くの選手が体調不良を訴えた。

 宿泊している大宿は雷鳴会という瑞穂の競竜の会派が経営している宿なので、嫌がらせを受けるという事は無い。働いている人にテエウェルチェ人が混ざっているとはいえ、瑞穂語が普通に通じる。

 体調不良の原因は時差と気温である。


 金田監督まで寝込んでしまい、困り果てていたところ、ゆっくり大浴場で湯に浸かると回復したという報告を多く聞くと大宿の支配人から教えられ、選手たちは重だるい体を押して大浴場へと向かった。

 風呂に入った後は麦酒。この『いつもの事』によって体調を取り戻した選手は非常に多かった。

 翌日には練習ができるまでに回復したのだった。



 こうして、多少の問題はありながらも、何とか試合当日を迎えた。


 チャルーア国立競技場の控室で、金田監督は頭に氷嚢を乗せながら事前打ち合わせを行った。どうやら昨晩から熱が引かないらしい。


 そんな状態で大丈夫なのかと思っていたが、どうやら思考までは熱に犯されてはいないらしい。相手国の戦力分析は実に的確だった。

 後衛の質はどうにもならないというほどでは無いが、中盤は尋常でない程質が高い。さらに先鋒の質も半端なく高い。ようはとんでもなく強いという事である。

 さらにテエウェルチェは昨今競竜も非常に盛んで、竜の質も非常に高い。


「そこで今回は若手中心で行く。若手に経験を積ませる」


 守衛が伊東、後衛が南牟礼、彦野、中盤が川相、小早川、原、先鋒が工藤。

 そう言って金田監督が話を終えると、皆一斉に荒木の方を見た。


「よかったな荒木、お前はもう若手じゃないんだってよ」


 そう言って愛甲がからかってきた。高木が一緒になって笑う。

 確かに若い方から荒木だけを飛ばして先発を組んだ感がある。そう言われても仕方がない感じではあった。

 だがそんな二人を原が一喝した。


「荒木は最初から使うには癖があるんだから仕方無いさ。監督だって使わねえとは言ってねえんだから、やる前から士気を落とすような事を言うもんじゃねえよ」


 場がシンと静まる。

 岡田が原に賛同し、西崎が焦る必要はないと荒木に声をかけた。

 そんな選手たちを金田は満足気な顔で見ている。



 前回の試合同様、両国の国歌斉唱に合わせて国旗の掲揚が行われた。

 先にテエウェルチェ。国歌に合わせ『水、白、水に黄金の太陽』という国旗が掲揚される。

 次いで瑞穂皇国。


 試合前の式典を終え、写真撮影の後で各人竜に乗り込み、競技場へと向かって行った。



 審判が試合開始の笛を高らかに吹き鳴らす。

 開催国であるテエウェルチェからの打ち出しで試合が開始。


 荒木から見ても全てにおいて瑞穂よりも質が高いという印象であった。

 原や小早川が守備に入ろうとしても、巧みに竜術でかわされたり、その前に別の選手にさっさと球を渡してしまう。

 少しでも強引に行こうとすれば、竜の向きを変えて反則を誘ってくる。


 なす術無しという感じで、あっという間に先制点を叩き込まれてしまった。

 瑞穂からの打ち出しで試合再開となるのだが、今度は一転して非常に強めに竜を当てて来ているらしい。

 気が付いたら球が誰もいないところに転々として、それを拾われ早くも二失点目。


 そこから川相と原が何とか立て直しを図り、しばらく試合は膠着した。

 だが、やはりそこは試合運びのようなものも向こうは一枚も二枚も上らしく、ほんの少しの打ち損ないを見逃さず、駄目押しとなる三点目を叩き込まれてしまった。


 前半終了間際にも点を入れられそうになったが、そこは伊東が賢明に弾き出して、何とか失点は三で止めた。

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