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第43話 ウェハリ戦

 いよいよ国際競技大会の予選第一戦を迎える事になった。

 対戦相手は南太平洋諸島国家ウェハリ共和国。

 荒木たち瑞穂代表は会場である皇都国立競技場に向かって、東海道高速鉄道に乗って裾野から移動している。


 ウェハリ共和国は鬼面大陸の北東に位置する諸島国家である。

 五つの州から成り立っており、首都ラエのあるパプア州、その南東のイサタブ州、その南のバヌアツ州、その南西にあるカナーキー州、そこからさらに東に行ったビティレブ州。その五つの州をそれぞれ独立した行政区として扱う連邦制を敷いており、ビティレブ島から東の小さな島々も管理している。


 どの島もいわゆる密林に覆われており、そこに美しい浜辺がある。

 そんな環境のせいで、瑞穂皇国と同じように古くから止級の竜の活用が盛んで、各島々には大きな港が古くからつくられている。首都のラエも元は単なる港町で、パプア島を統べていた王国の首都はもっと内陸のキウンガであった。

 海洋交易が盛んになり、ラエの方が栄えてしまい遷都したという経緯がある。


 ウェハリの西、ダトゥとスンダとは同じ海洋国家として古くから領土争いを繰り広げてきている。

 ダトゥが瑞穂と手を組んだように、スンダはデカンと手を組み、ウェハリは鬼面大陸と手を組んでいた。

 そんな関係からパプア島の西の島々は国境線が入り組んでいる。

 南西にあるティモール島はスンダ領だが、そこからすぐ東に見えるモア島はウェハリ領である。サナナ島はダトゥ領なのに、そこから薄っすらと南に見えるブル島はウェハリ領という具合である。


 しかもこの海域は非常に良い漁場となっているため、常に三国の警戒船が周遊し違法操業を監視している。

 時には外交問題にも発展し、それぞれに影響を持っている瑞穂、デカン、アナング連邦が会談に立ち会って事を治めるという事態が何度も発生している。


 国際的に止級の競竜が盛んになってきてから、ウェハリはアナング連邦の支援で競竜場を建築して止級の競竜に力を入れ始めた。だが、他の競竜は行っておらず、アナング連邦からの影響で竜杖球を始めたという程度。

 代表といっても非常に格が低く、まだまだ参加したばかりという国である。

 その代わり止級を利用する女子竜杖球は非常に盛んで強豪国となりつつある。



 控室で金田監督が先発選手の発表をした。

 守衛が伊東、後衛が岡田、愛甲、中盤が川相、原、高木、先鋒が工藤。

 主将は原が務める事となった。


 皇都国立競技場はかつて竜杖球の職業球技戦の開幕式が行われた球場で、竜杖球にとっては聖地ともいえる場所である。

 普段は競技場を区切って蹴球や闘球が行われている。竜杖球の会場としては、高校大会の決勝と重要な代表戦でしか使われない。

 この皇都国立競技場を本拠地と定めている球団がいないため、そうなっている。


 そんな球場に全国から観客が詰めかけている。

 普段であれば、どの本拠地も入場者が一杯に見えるように座席を絞っている。それでも上の方の席はスカスカという状況である。

 それが向かって右から左まで、下から上までびっしりと観客で埋め尽くされている。

 その圧巻の光景に思わず選手たちも目を奪われた。


 試合開始前に両国の国家が斉唱され、それに合わせて国旗が掲揚される。

 先に『水地に金の丸い稲紋』瑞穂皇国の国旗、次いで『水、緑、紺の三色地に金の歯朶シダ』ウェハリ共和国の国旗。


 それが終わると在瑞ウェハリ大使が登場し、祝辞を述べた。

 体感する事全てが初めて。まるで異世界の出来事のように感じる。


 子供のように目を輝かせキョロキョロとしている荒木たちを西崎が笑った。


「おい、お前ら。初めて都会に出てきた田舎者じゃないんだから、少しは落ち着けよ」


 そんな事は無いと荒木は抗議しようとしたのだが、周囲を見ると、補欠席から出て興奮しているのは荒木、彦野、小早川の三人だけ。

 どう考えても彦野、小早川と一緒の『ガキんちょ』の中に入れられるのはマズいと感じ、バツの悪そうな顔をして補欠席に腰かけた。


「西崎さん、そんな風に言わんであげましょうや。まだ遠足気分なんですから」


 そう言って南牟礼がからかうと、香川が大笑いした。

 荒木だけじゃなく、彦野と小早川もバツの悪そうな顔をする。

 そんな緊張感の無い選手たちを、金田監督が鋭い目つきで睨みつけている。



 審判が笛を吹き、試合開始となった。

 観客席からの大歓声が競技場を挟んで反対側の荒木たちの席にまで、振動となって響いてきた。

 ふと見ると、ウェハリの選手たちがあまりの大歓声に動揺している。


 補欠席だけでなく、競技場にいる選手たちもかなり動揺している。

 そんな状況でいつものように冷静に試合運びなどできるはずもなく……


 工藤から川相、そこから原へ、球は流れるように運ばれて行き、さらに原から川相へ戻って、一気に大きく打ち出されて高木へ。高木が中央に折り返し、それを工藤が打ち込んで、あっさりと先制点を奪った。


 あっという間の先制点。

 実力差のようなものがあると感じてしまったのだろうか、明らかにウェハリの選手たちの顔が焦燥している。


 その後も瑞穂は得点を重ねて行き、前半だけで工藤が二点、高木と原が一点づつ、四対〇で中休憩を迎えた。



「予選は得点数も大事だからな。相手には可哀そうだが、これも勝負事だから。容赦なく後半も点を取りに行くぞ」


 金田監督が檄を飛ばすと、選手たちは立ち上がって気合のこもった返事を返した。


 後半、工藤と西崎、愛甲と彦野が交代した。


 後半少しはウェハリも環境に慣れて来たようで、かなり守備的になったせいもあり瑞穂側は攻めあぐねてしまった。

 それでも原と高木が無理やりこじ開けて西崎が二得点しているのだから、かなり集団としての状態の良さがうかがえる。


 最終的に六対〇というかなりの点差を付けて瑞穂が勝利した。



 翌日の新聞ではそれが一面と思いきや、同じ日に行われた野球の代表戦であった。それもひり付く様な投手戦の末敗戦したというもの。

 しかも結果は一対〇。書く事が無いものだから、相手の投手が凄かったという事ばかりが書かれている。

 さらに一枚めくると、今度は今日行われる避球の代表戦の記事。

 その次からは野球の職業球技戦の結果。


 多くの新聞の競技欄がそんな感じであった。

 まるで竜杖球の代表戦など行われていないかのよう。

 その中で日競新聞だけが三面ではあったが、しっかりと竜杖球の代表戦を記事としてくれていた。


 それを荒木と彦野が愚痴っていると、原が笑い飛ばした。


「読者が読みたいと思うものを大きく記事にするのは当たり前だろ。あの人たちだって商売なんだから。読み飛ばされる記事ばっかり書いてたら買ってもらえなくなるんだからな。逆に取り上げてくれている新聞がある事を喜ぼうぜ」


 そうだぞと岡田と西崎が同調するので、荒木も彦野もそういうものと理解した。

 だが理解はするが、どうにも納得はいかなかった。

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