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第16話 合宿終了

 合宿の最終日の夜、旅館を経営する安達夫妻が、お礼だと言って花火の用意をしてくれた。それと花火にはやはりこれが付き物だといって西瓜を用意してくれた。


 花火の量は決して多くは無かったが、一足早い花火を部員全員で楽しんだ。広岡先生と川上教頭も一緒になって楽しんだ。さらには安達夫妻の娘の美香ちゃんも。


 出始めの西瓜の味は少し薄味で甘味が薄かった。さらに青臭さも強かった。だが、みんなで笑顔で食べた西瓜の味はきっと社会人になってからも良い思い出として残るのだろう。


 そして一緒に花火で遊んだ美香ちゃんのえくぼも。


 こうして長かった春休みの合宿は終わりを告げた。竜杖球部の面々と広岡先生、川上教頭は、お世話になった土井さんと安達夫妻に礼を述べて安達荘を後にしたのだった。




 二学期が始まった。


 瑞穂皇国の一年は一月から始まる。学校もそれに合わせて始まるので、極寒の体育館で入学式が行われる。どこの学校にも松が植えてあり、松の木の下で入学を祝って写真撮影をする。学校によっては寒梅も植えてあり、可愛い蕾をつけている事がある。


 一学期は一月から四月。そこから二週間ちょっとの春休みがあり、たった二か月半の二学期となる。七月は一月まるまる夏休みで、八月から十二月までが異常に長い三学期となる。


 七月の夏休みにはどの部も全国大会が行われる。運動部だけでなく、文化部も同様である。その為、七月は夏休みといえども、学校には普通に生徒がひしめき合っている。ただそれも最初だけで、敗退した部から休みになってしまうため、夏休みも中盤になるとほとんど誰もいなくなってしまう。



 合宿から戻った荒木たち竜杖球部は、またもや送球部へ送り込まれた。

 送球部としても大会を前に実戦形式の試合がやれるというのはありがたいものらしい。しかも竜杖球部の面々は徐々に送球部の戦術のようなものを理解してきており、連携まで上がってきているので、かなり手強くなっていた。


 相手はそれだけをやってきている人たちであり、当然勝敗という点から言えば竜杖球部は一勝もできない。それでも伊藤、宮田、荒木あたりは徐々に得点力が上がっていった。送球部側も待機選手として来て欲しいなどと言い出す状況であった。


 とある日の部活終わり、送球部の主将平松がおかしな話をした。


「広岡ちゃんが技術部の森永と、なんか拷問器具みたいなの作ってるって聞いたんだけど、あれ何?」


 いったい何の話だと聞く浜崎に、平松は結構噂になっていると言って笑い出した。浜崎は竜杖球部の面々の顔を見渡していったが、どうやら誰も知らないらしい。だが、送球部では平松だけじゃなく高本もその噂を耳にしたという。


「あれじゃね? お前らがあんまり広岡ちゃんのいう事聞かないもんだから、広岡ちゃんもお仕置きの道具作ってるんじゃねえの?」


 高本が笑いながら言うと、宮田がありえると言ってぶすっとした顔をした。


「だけどさ、正直お前らが羨ましいよ。俺たちも春休み合宿やったけどさ、場所ここだぜ? お前ら北国行ったんだろ? うちは別当もそこまで親身じゃねえしさ」


 竜杖球部には全く入っていない情報が、どういうわけか送球部には入っているらしい。

 平松はここまで漏れ聞こえてきた話をした。


 『竜杖球部廃部』

 職員会議でその話題が出た時、教師たちは皆止む無しという意見であったらしい。ただその中でたった一人広岡だけが反対した。だが部員も足りておらず、竜もいない、顧問もいないでは廃部しかないではないか。そう指摘されたらしい。

 すると広岡は、顧問なら自分がやります、部員は自分が何とかします、だから部を存続してあげて欲しいと懇願したのだそうだ。

 ならば、まずは今年の夏までの半年、結果が出ないようであれば来年から廃部、そういう事で決まったらしい。


「普通先生って、部の存続にそこまで親身になんてならんと思うんだよね。別に部活で良い成績出たからって先生の給料増えるわけでも無いだろうしさ。もしかして、お前らの中に広岡ちゃんとこっそり付き合ってる奴でもいるんじゃねえの?」


 高本がげらげら笑いながら言うと、浜崎はぎょっとした顔をし、まずは川村の顔を見た。広岡は川村の学級の担任だからである。

 川村はぶんぶんと首を横に振り全力で否定。


 次に藤井を見た。藤井は心底嫌そうな顔をし、ないないと笑い出した。

 宮田は俺はおっぱい星人だと言って完全否定。

 伊藤はあほらしいと鼻で笑った。


「付き合ってる云々はともかくさ、俺も前から気になってたんだよな。なんで広岡ちゃん俺たちの事にここまで親身になってくれるんだろうって。普通女子篭球部の顧問辞めてまで野郎だらけのうちになんて来ないよな」


 宮田の意見に川村と藤井が賛同した。


「仮に浜崎が広岡ちゃんとそういう関係だとしてもさ、それでもそこまでしてくれるかどうか……」


 宮田の発言に浜崎がふざけんなと言って怒り出した。宮田は例え話じゃないかと言ったのだが、浜崎は、例え話だとしても言って良い事と悪い事があると怒り出した。


「そうだぞ宮田、浜崎じゃなくても、二年や一年の誰かかもしれないじゃねえか……荒木とか」


 伊藤の指摘に荒木がぶっと噴き出した。すると川村が、そういえば漕艇部の有藤(ありとう)が広岡の首を絞めた時に荒木が救出したんだったと言い出した。


「いやいやいや。あん時は、このままじゃ部の存続がヤバいかもって思ったからで。確かに可愛い尻してるなって思う事はありますよ。けど、そこ止まりっすよ」


 荒木の言い訳はちょっと必死すぎたかもしれない。だが平松も、確かにあのちょっと小ぶりの尻は良いと思う事があると真顔で言い出した。それを高本が「無いわ」と言って笑い飛ばした。


 伊藤がじゃあ戸狩かと呟くと、戸狩は自分は眼鏡っ娘にしか興味が無いときっぱり言い切った。そんな戸狩を笑った杉田は、自分も宮田先輩と同じだと真顔で言った。


「じゃあ、一年のどっちかという事になるな」


 浜崎がそう言うと全員の視線が大久保と石牧に注がれた。

 大久保はぶんぶんと首を横に振った。

 全員の視線が石牧に注がれる。


「俺は……ちょっと良いなって思いますよ。俺、貧乳派だし。でも当然ですけど付き合ってはないっすね」


 石牧の発言に三年生がざわついた。

 広岡を良いという生徒を初めて見たと言い合っている。貧乳派って何が楽しいんだろうと宮田が真面目に伊藤や浜崎たちにたずねる。三年生たちは四人ともさあと言って首を傾げた。


「いやいや。先輩たちは巨乳派だからわからないだけで、色々あるんすよ。貧乳を恥じらう表情がたまらないとか。大きいのってなんか見た目がちょっと不格好っていうか……」


 石牧は少し恥じらいながらそう説明した。そんな石牧を奇人でも見るような驚愕の顔で三年制たちが見ている。


「やっぱ石牧、お前は後衛だわ。守備範囲が広い……」


 浜崎がぽつりと言った。

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