第38話 対戦国決定
皆が国際球技大会は見学だと割り切っていた。
選手の発表が終わり二日後の日程発表になると、見付球団の中でも、もはや人選よりも対戦相手の方が話題となっていた。
この世界には五つの大陸が存在している。
中央大陸、斧刃大陸、鬼面大陸、瓢箪大陸、南極大陸。
この中で圧倒的に国の数が多いのは中央大陸である。広さから言っても段違いで、西部、中部、東部で文化は全く異なる。
なお、南極大陸は国際条約によって調査以外の目的での滞在は許されていない。
瑞穂皇国はそのどこにも属していないとされている。
確かに中央大陸東部の文化を吸収してはいるのだが、かなり古い時期に一線を引いた交流に留めてしまっている。
その分、瑞穂皇国は南の広大な海に活路を見出した。
その関係で南の鬼面大陸や、東の瓢箪大陸との接触が早くから発生している。学術的な分類では『太平洋文化圏』と呼ばれる完全に独立した文化圏を形成している。
特に太平洋南部のダトゥ王国という国とは、非常に良い関係を築いている。
一時ダトゥ王国がデカン帝国に滅ぼされてしまうという事があったのだが、その際にも王家を亡命させ、デカン帝国の支配力が弱まった際に独立の援助をしてあげている。
かつて国際競技大会で蹴球が正式種目になった時、参加国があまりにも多く、世界の地域を分けて地域予選を行おうという事になった。その際、区分をどうするかで揉めた事がある。
大会組織委員会は瑞穂皇国たち太平洋文化圏の国々を中央大陸東部に組み入れた。
だが、それに瑞穂とダトゥが猛反発した。さらに鬼面大陸のアナング共和国も猛反対した。
中央大陸東部の国々は非常に国家主義思想が強く、対戦相手の選手を人と思わないふしがある。そんな国と一緒に地区予選はしたくないと主張。デカンも同様の理由で東部ではなく中部への編入を希望した。
さんざん揉めた挙句、中央大陸西部、中部、東部、瓢箪大陸と太平洋、斧刃大陸という区分けになった。
新聞に対戦表が発表されると、その日の練習前の控室では、その話題で持ち切りだった。
「見たかよ、初戦の相手、ウェハリだってよ! というかうちらの方の組、結構緩いよな! これ本戦行けるんじゃねえ?」
まずそう言って口火を切ったのは広沢であった。
そんな広沢に荒木と栗山が賛同。だが、それを若松が甘いと言って笑った。
「広沢よう、本戦に行けるのは二組の上位二か国だけだぞ? お前この一覧見て、本当に上位二か国に入れると思ってんのか? まず首位はどう考えてもテエウェルチェだろ? アマテもアルゴンキンも強いぞ?」
そう若松が言うと、その通りと杉浦と尾花が同調した。希望的観測が過ぎると。
瓢箪大陸、太平洋地区では十四の国が二つの組に別れ総当たりで順位を決めていく方式を採用している。
国際竜杖球連盟が毎年発表する順位に従って、まず上位六か国が最初に振り分けられる。今回の六か国はマラジョ、ペヨーテ、テエウェルチェ、アマテ、アルゴンキン、アナング。
その六か国が振られた後、残りの瑞穂たち八か国が振られる。
先ほど若松が挙げた三か国は最初に振られた六か国、つまりは実力上位の国。
新聞の記事によれば、瑞穂たちの組はテエウェルチェ、アマテ、アルゴンキン、アオテアロア、ダトゥ、ウェハリという国々になったらしい。アルゴンキンは瓢箪大陸北部の国、アマテは瓢箪大陸中部の国、テエウェルチェは瓢箪大陸南部の国、アオテアロアは鬼面大陸の東の島国、ダトゥ、ウェハリは太平洋南部の島国。
「だがよう若松、そうは言っても、アマテとアルゴンキンは最初の六か国の中では格下だろ。そこと互角にやり合えれば、二位突破の目はあるんじゃねえか?」
八重樫の指摘に若松は苦笑いした。いや八重樫だってわかってはいる。互角にやり合えればという条件が、そもそもかなり高い障壁だという事は。
大矢と大杉の二人が八重樫を見ながらにやにやしている。気持ちはわかる、期待もする、だけどそう簡単には事は運ばないだろうと大矢は指摘した。
そこから控室は喧々諤々《けんけんがくがく》の議論となってしまった。そんな事をしている間に練習の時間となり、選手たちは練習会場に向かった。
「おお、そういえばヘラルト。お前の国はどうだったんだよ? お前の所も日程が発表になったんだろ? 本戦に行けそうなの?」
練習場に行く途中で若松がたずねると、それを通訳が訳した。
ヘラルトは両手を広げて苦笑い。
「カンタンジャナイ、ネ。バターフ、イベロス、ラコスコ、イッコカニコしか、デレナイ、ネ」
ヘラルトの説明によると、バターフ王国の所属する中央大陸西部では、出場枠の数で参加国を分配していく方式らしい。
先に強豪国だけを振り分け、その後で中堅国で振り分け、最後に残った国を振り分けるという感じで振っていくのだが、当然そこはいわゆる死の組というのが出る。
バターフの入った組は死の組というほどでは無いが、中堅所が揃ったという印象なのだとか。
「ウマクナイ!」
そう言ってヘラルトは憤った。
そんなヘラルトの肩を八重樫がポンポンと叩いて諫めた。
練習の休憩時間に、選手たちとの歓談の中で監督の関根が変な噂が流れてきたと言い出した。
どうやら幕府球団と竜杖球連盟が揉めているらしい。
あくまで噂、そういう体で関根は話した。
今回の選手発表で、幕府球団からは三人の選手が選出されている。
若手とはいえ主軸選手を三人も持っていかれたら起用がままならないというのが幕府球団の主張らしい。せめて二人。
するとそれを聞いた太宰府球団も抗議してきたのだとか。太宰府球団も今回三名を選出されている。
「代表辞退という前例は連盟としては絶対に作りたくないだろうからなあ。連盟と金田の野郎がどういう仕切りにしてくるか見ものだな」
せいぜい悩め、そう言って関根はげらげら笑った。
普段温厚な関根が悪態をつくので、どうしたのだろうと皆が不思議そうな顔をしていた。
すると大矢がくすりと笑った。
「この間ちょっと耳にしたんだけどな。監督は昔、金田監督と一緒にやってた事があるらしいんだよ。当時から二人は仲が悪かったらしいぞ」
そう言って大矢が笑うと、皆一斉に大笑いした。
そんな大矢を関根は余計な事を言うなと笑いながら叱責した。
その後、練習が再開されてすぐに練習場に球団の職員がやって来て、監督が連れて行かれた。
暫くして戻って来た関根が荒木を呼んだ。
何かあったんですかとたずねる荒木に、関根はふんと鼻息を漏らして、まあ座れと言って長椅子に座るように促した。
首を傾げながら荒木が関根の隣に腰かける。
荒木の顔を見つめ、しばらく黙った後、関根は意を決したように口を開いた。
「今、金田の野郎から直接電話があったんだ。お前を代表に貸せだとよ。国の威信がかかってる話だからな、拒否はできねえ相談だ。これから緊急の発表があって、その後会見になるから、今から事務所行って準備しろ」
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